古城
幾らか時間が経過すると、レクイカは部下の騎士達を集めた。
「暗くなる前に、手分けして付近を探りましょう。他に雨を逃れてきた民や旅人が見つかるようなことがあれば、注意を促し、私達と一緒に行くという人は、連れてきてください。それから、もし宿を願えそうなところがあれば、協力を求めましょう。怪我人や野宿が厳しそうな者だけでも、できれば泊めてもらえるようだといいのですが」
それを受けてシトエが聞く。
「レクイカ様。森は、人ならざる者が住まう地……そういう者であってもですか?」
「そうですね。今は、いたし方ありません。そういう者でも、私達人間に友好的な者はありますから。ただ、十分に注意し、単身では深入りはせぬよう。何かあればすぐ、私のところへ戻り、伝えるようにしてください」
やがて、森を見回ってきた騎士らが、一つの古城を発見した、と伝えた。
森に入って幾らもしないうちに、ひっそりとした湖に囲まれたその古城に行き着いた、と言う。
また、付近ですでに城の者と接触を持った、という騎士も戻ってきた。
騎士によれば、古城に住まうのは人間と似た外見を持ち言葉も通ずるが、人とは違う種族であったと。
「話の通ずる者ではあると、見受けます」
「そうですか……人ならざる種族。そうですね、安全性について疑問の余地は残りますが、しかしこの状態で野宿をするよりは」
「レクイカ様。しかしこちらも、分隊規模とは言え、そのような輩と戦って負けはしないでしょう。もしおかしな態度を取られても」
ミカーやファルグは、何かあった時には私達にお任せを、と言う。
「まあ、まあ。会ってみる前から、そこまでは。だけど、頼りにしていますよ」
「はい! レクイカ様」
古城のことは、何度か国境を行き来したこともある行商人も知らないとのことだった。
さきの逃走で、街道筋は幾らか離れている。
国境の森は広い。かつては廃墟や財宝の話も聞いたが、獣や魔の危険もある。通り抜けること以外に、何かを探索しに森へ入る者はないと。
レクイカは民の皆には、もし相手がおかしな素振りを見せた際には自分達が率先して矢面に立つからと聞かせ安心させ、宿を借りることができないか願い出てみることにした。
民には不安を述べる者もいたが、体調がかなり芳しくない者もいたので、それ以上反対意見まで述べる者はなかった。
騎士の中には、魔の者であっても、いや、魔の者であればこそ、有力な情報を得ることもできるのでは? と言う者もいた。あるいは、線の雨を逃れる方法をもしかしたら知っていないか、という期待が、一行にはあったかもしれない。
騎士数名を付け、レクイカは自ら城へと向かった。
ミートは、話が決まるまで民らと残り、見張りを務めた。
話はすぐに決まり、相手方はレクイカ分隊と民全員を快く迎えてくれることとなった。
休息を切り上げると、民らはおずおずと森の中へ移動を始める。
初めは不安を見せる者もいたものの、危険がないと伝えられ、多くは野宿とならずに食事や手当てが受けられることに安堵を示した。
ミートはしんがりとなって、民全員が移動するのを見守った。
もう、丘から見える空には夜の帳が落ち、雨の気配は今は消えうせていた。
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