最後の戦い
クシナダ…クシナダヒメ、伝説では8人の姉がいて八岐大蛇の生贄とされそうな所スサノオに助けられた。ここではくしには変えられないがお守りとして櫛をスサノオに手渡す。
ーー*
「ようこそスサノオ君」
タケルは不気味な笑みを浮かべてスサノオを迎えていた。
タケルの眼光は赤く光り、背後に八つの大蛇が蠢いている。
「タケル…今こそ決着をつけてやる!!」
スサノオは腰に手をやり、イザナギの剣を引き抜く。
その剣から流れるオーラは金色に光りスサノオの体を包んでいる。
「一度は腑抜けになった貴様だが、そのオーラを見ると闘気も覇気もいささかも衰えておらぬようだな」
タケルの背後の大蛇は活発に動き出す。
「さあ来いスサノオ、貴様の実力を確かめてやる!」
警戒しながら攻撃の機会を伺うスサノオ。
タケルの背後の大蛇がスサノオに襲いかかってきた。
スサノオは大蛇相手に互角に戦う。
「ふん、この前来た奴は虫けらだったが貴様は中々やるようだな」
「この前来た奴!?」
スサノオは目を大きく開き動揺する。
「貴様と一緒にいた奴だよ」
タケルはにまりと笑う。
「まさか…」
「そのまさかだよ」
スサノオに怒りの感情が込み上げる。
「貴様!!」
スサノオはタケルに斬りかかるが大蛇がそれを防ぎスサノオを弾き飛ばす。
「ぐあぁ!!」
壁にぶち当たるスサノオ。
「少しでも感情が高ぶるとこのザマか、やはり大した事無いようだな」
タケルは壁にもたれて倒れているスサノオを見下ろす。
「それとお前、クシナダだっけ?女と出会ったそうだな、そいつをオツキと照らし合わせて見ているようだが良い事を教えてやろう」
「や、やめろ…」
スサノオが止めようとしているのを無視してタケルは続ける。
「残念だが彼女は彼女であってオツキでは無い、オツキは今頃…」
「やめろおおぉ!!」
スサノオは立ち上がり斬りかかる。
なおも大蛇がスサノオを弾く。
「ふははは!そうだもっと怒れスサノオよ!!」
タケルは陰湿な笑い声を上げる。
そしてスサノオを包んでいた金色のオーラはその輝きを失っていく。
「死んだ人間は帰って来ぬのだ、帰ってきたとしてもお前の事などこれっぽっちも覚えておらぬ」
スサノオの持つ剣から流れるオーラは徐々に赤くなり、スサノオの背後には牛の頭をした巨人の影が現れはじめた。
(もうすぐだ、もうすぐスサノオは俺と共に堕ちる!)
その時、クシナダから手渡されたクシが光りだしスサノオに語りかけてきた。
(スサノオ!こいつの口車に乗せられちゃ駄目だよ!こいつはあなたを堕とそうとしているだけ!自分を持って!!)
その声はクシナダのものだった。
「クシナダ…」
(あなたを愛した人も仲間達もあなたを見ているわ!だから立ち上がって!私もついている!!)
クシナダから手渡された櫛から聞こえるクシナダの気丈な励ましによって、スサノオの堕ちかけたオーラは再び輝きを取り戻した。
「何!?何故輝きが戻った!?」
今度はタケルが動揺しはじめる。
そしてスサノオの金色のオーラはますます輝きを増し、スサノオの体に光り輝く鎧や兜が包み込む。
スサノオは見事な甲冑を纏った勇者の姿となり生まれ変わった。
「我、憎しみ、悲しみ、全ての感情を超越した戦士、デラックスサノオなり!!」
デラックスサノオとなったスサノオは剣を天にかざす。
するとその剣はまばゆい程の光を放ちタケルの目を襲う。
「くっ、全ての感情を超越しただと!?」
目を手で覆いながら動揺するタケル。
「タケル!いやタケルの心を蝕むヤマタノオロチよ!今こそデラックスサノオの力でお前を葬ろう!!」
「ふん!貴様ごとき神である私が捻り潰してくれる!」
デラックスサノオとヤマタノオロチは激しい攻防戦を繰り広げた。
天は曇り激しい稲光が響く。
世界中の空が暗闇に包まれ、稲光が激しく降る最中、人々はまさに今闇と光、タケルとスサノオが戦っているのを知る。
高天原、アマテラスは空を見て幼少時代のスサノオを思いかえし、
「スサノオ、あなたはまさにあのタケルと戦っているのですね。小さい頃の泣き虫だったお前をなだめていた私ですが、あなたは高天原を救い、世界を救う勇者となった。そんなお前に少し嫉妬を抱いていましたがスサノオよ、例え離れていても、私はあなたを応援しています!そしていつかまた、この高天原に戻って来てください!」
とスサノオの勝利を願った。
ウズメはあのサルタヒコと寄り添い合い、天を見てスサノオの無事を願う。
「スサノオ、オツキの命を奪ってしまった事、あなたは許さないでしょう。許してとは言いません、しかし、私は忘れません、あなたと共に戦った思い出を!」
そしてクシナダ、父と母もスサノオの無事を願う。
「スサノオ、もしあなたが無事に帰ってきたら、いや、何でもない、でも、でも守ってやると言われた時、心が突き動かされたんだけど…それってやっぱり恋なのかな?」
彼らの思いを全て受け止めるスサノオ。
スサノオの体にいっそうの輝きが宿り、稲光はスサノオの戦ってきた仲間、
タヂカラオ、オツキ、オモイカネの形を作り、タケルに襲い来る。
「何故だ!何故お前は俺に無いものを全て持っている!俺はお前が憎い!!慈悲深く、熱い心を持つお前がっっっっ!!!」
タケルは心の内を叫ぶ。
「タケルよ!お前が心を失っているのはヤマタノオロチがお前の心を蝕んでいるからだ!私がこの剣でお前をヤマタノオロチから救い出してやる!!!」
スサノオは剣を振りかぶり、宙を舞う。
ヤマタノオロチはこれでもかと言う程スサノオをかみ殺そうと襲い狂う。
まるで、タケルから解放されまいとしているようだ。
スサノオは二つ目の首を跳ね飛ばす。
そしてまたひとつ。
そして激しい戦いの末、ヤマタノオロチの首は全て跳ね飛ばされた。
(コノヨニニクシミガアルカギリ…ワレハナンドデモヨミガエル…!!!)
ヤマタノオロチはそう吠えると、タケルの体から消滅された。
そしてそこから、三種の神器が現れた。
仰向けになって倒れるタケル。
スサノオは戦いが終わり、剣を鞘に収める。
そしてスサノオはタケルに歩み寄る。
そしてタケルの前にしゃがみ、介抱するように優しく抱く。
スサノオの瞳は慈愛に満ちていた。
「タケル…いやヤマトヒメ、あんたも自分の心に葛藤し、苦しんできたんだよな…」
優しく言葉をかけられタケルは哀しげな瞳をスサノオに向ける。
「何故私に憐れみをかける、私はお前達を散々苦しめてきたと言うのに…」
タケルの瞳はヤマトヒメそのものだった。
タケルは今、ヤマトヒメと言う本来の一人の女性に戻った。
「理解しているさ、あんたの気持ち、確かにやってきた事は許される事じゃない、でもあんたは戦っている時、俺に本音を言った、あんたに無いものを俺は全て持ってると」
誰かを羨む事はスサノオにもある。
高天原にいた時、アマテラスに慰められた時の事だ。
スサノオはアマテラスに憧れを抱くと共に嫉妬に苦しむ事もあった。
13歳の時、反抗期のためか、アマテラスに慰められるのを嫌い、反発した末、愛犬のオツキと共に旅立った。
そして強くなりたいと願い、自然の中で自分を磨き、今のスサノオとなった。
「本来の心を封印してしまったのは母上を守る為でした、しかし封印している内、いつしか本当に慈愛と言うものを無くしてしまいました…」
タケル、いやヤマトヒメはボロボロと涙をこぼしながらタケル以前の事をスサノオに話す。
スサノオと出会う前にヤマトヒメに起こっていた事態。
子供や愛する人を手にかけてしまった事。
ヤマトタケルと名乗られ、ヤマトヒメを既に死んだ姉として封印してしまったこと。
心を押し殺し、いつしか本当に心は押し殺され、しかしそれでも尚心の奥底は苦しんでいた事全てを。
黙って聞いていたスサノオだが、ヤマトヒメが語り終えるとスサノオは
「あなたもやり直せるチャンスはいくらでもあるんだ、だからあまり抱えこむなよ…」
と涙を流しながら優しく話しかける。
「スサノオさんのおかげで今私は心を取り戻せた。今度生まれ変わったら…生涯曲がらない生き方がしたい…」
「ああ、でも誰だって、間違う事もあれば正しく生きられる事だってある、ただ言えるのは、あんたを思う人は、俺も含めて誰かはいるって事さ」
スサノオは優しく微笑んだ。
「スサノオさん、実は私はあなたが…」
ヤマトヒメはスサノオに何かを言おうとしたが、その時首をがっくりとさせ、息を引き取った。
スサノオはヤマトヒメの体を抱きながら
「ヤマトヒメ、あんたの遺志、ずっと受け止めておくぜ」
と言い、ヤマトヒメを天に見送った。
しかしスサノオは理解していない事が一つあった。
ヤマトヒメが死ぬ間際、スサノオに恋心を抱くようになった事を。
スサノオが外に出たその時、一羽の白鳥が飛んでいくのを、スサノオは見た。
それはヤマトヒメが白鳥となり、喜ぶように空を舞っているようにスサノオは感じられた。
「ヤマトヒメ…天国で、絶対に幸せになれよ!」
スサノオは優しい眼差しで、輝くように空を舞う白鳥に向けて言った。
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