心
ヒミコ…後に邪馬台国の女王になるだろうと言われていて、実際になった女王。予知能力など、不思議な力を持って国を助けたとされる。伝説では死後あり得ない事になっていたがここではそうはならない…と思いたい。
ーー*
タケルのいる最後の要塞、そこは倭国から遠く離れた地球のヘソと呼ばれる地域に存在していた。
タケルの要塞は高天原で見たような漆黒の空に氷で出来た要塞。
その光景は、別世界の地獄を思わせる。
ウズメとタヂカラオは船を借り、その要塞のある決戦の地へと向かった。
そして苦難の旅の末ようやく要塞に乗り込み、タケルと対峙する事になるウズメとタヂカラオ。
「ふん、あのスサノオは今はいないのか?」
タケルは二人だけでここに来たのを見てウズメらに聞く。
「お前ごとき私達二人で充分!覚悟はよくて?」
ウズメとタヂカラオはタケルを前に構えをとる。
するとタケルはウズメらを見下すように笑いだした。
「はっはっは!見下れたものだな、俺を倒せる者は神かイザナギの剣の使い手のみと言うのがわからんと見える!!」
タケルの背後に大きな八つの大蛇が蠢く。
「さあ来い、神と人間の実力の差と言うものを思い知らせてやる!!」
タケルは眼光を赤く光らせウズメらに近づく。
タケルが近づくに連れ、恐怖心が襲い、思わず後ずさりをしてしまうウズメ達。
「ふん、俺が怖いのか?所詮人間とは弱き生き物よ」
タケルはあざ笑いながら前に出る。
「馬鹿にするな!!」
タヂカラオは酒を飲みだし、火炎をタケルめがけて発射する。
タケルに炎が襲う。
ところが、タケルは涼しい顔をして無傷のままである。
「ふん、神に炎など聞かぬわ!」
ウズメは投げナイフをタケルめがけて投げる。
「ふん!」
タケルはウズメの投げたナイフを全て指で挟んで受け止めてしまう。
「ほら、返すぞ!」
タケルはそのナイフをウズメに投げつける。
「ハッ!」
ウズメは舞うようにそのナイフを避けた。
ピッ!
しかしナイフはウズメの頬にかすり、ウズメの頬から血が伝い、太ももにナイフが刺さってしまう。
「痛っ!」
ウズメはそのナイフを抜き、そこから噴き出す血を布で縛って止める。
「うおおおおおおおぉ!!!」
ウズメがそうしている間、タヂカラオが自分の全体重をかけてタケルに突進してきた。
体格の差でタヂカラオが有利だろうと思われたが、信じられない事にタケルはそのタヂカラオを片手で止めてしまう。
そして出血した足を布で縛り、応急処置を終えたウズメは再び立ち上がり、手品のように軽装の衣服の袖(そで)から両手に細長い剣を出し、舞うようにタケルに斬りかかる。
するとタケルは手のひらから神の力による衝撃波を発しウズメめがけてタヂカラオを衝撃波と共に飛ばす。
「ふっ!」
ウズメは手前に飛んでくるタヂカラオを瞬時に避け、タケルめがけて2つの細身の剣を構えながら走る。
一方タヂカラオは凄まじい衝撃で壁にぶつかり、壁にはヒビが入る。
脂肪に覆われたタヂカラオの体だからこそ怪我は最小限で済んでいるが生身ならまず五体満足ではいられないだろう。
「こなくそ!!」
ウズメはタケルの側まで近づき細長い剣を両手に持ち、タケルを舞うように攻撃するがタケルはその剣を軽々と避ける。
(相手が私達に敵う相手で無いのはわかっている!だけど、こいつだけは一つだけでも傷を入れなければっ!)
ウズメはいかに相手を斬り裂かんと必死だがタケルは涼しい顔をして避け流し、そこからも力の違いを感じさせる。
ウズメの体力が削がれたその時、タケルはその剣を手で受け止め、何とその剣をぐにゃりと曲げてしまった。
「なっ!?」
動揺するウズメ。
そしてタケルの蹴りがウズメの横腹に入る。
「あがっ!」
ウズメは衝撃を覚え顔を歪ませる。
ウズメのあばらの骨は折れ、タヂカラオの元まで飛ばされる。
タヂカラオは飛んできたウズメの体をクッションのように受け止めた。
「姉さん!」
「タヂカラオ…」
ウズメは蹴られた事による体の痛みでヒューヒューと息を切らしながら力なくタヂカラオの顔を見つめる。
ウズメの口からはわずかに赤い物が垂れている。
ただ口が切れただけでは無く、蹴られた衝撃によるものだ。
タヂカラオは更に心の奥底からタケルに対しての怒りの炎が舞い上がる。
(こいつは…こいつだけは何としてでもぶっ倒してやるっ!!姉さん、スサノオ君やオツキちゃんの分まで、僕がっ!!)
タヂカラオは恐ろしい顔をして立ち上がり、タケルを睨む。
「よくも…よくも姉さんを!!」
タヂカラオは激しい怒りでタケルに突進し、のしかかる。
タヂカラオの攻撃は三種の神器により神の力を手にしたタケルには屁でも無い。
しかし、その愛を感じる光景がタケルの心のどこかに衝撃を与えるのだった。
単に恐怖では無く、今はタケルに無いものを、タヂカラオやウズメから感じられたのだ。
弾き飛ばされては何度も突進するタヂカラオ。
タケルは手のひらから発する波動で自分より遥かに巨体のタヂカラオを弾き飛ばすが、衝撃は時速120キロの車がぶつかる程凄まじく、弾き飛ばされた先にはボコっと大穴が空く。
(こいつは何故そこまでして俺を倒そうとするのか、何故そこまで相手の為に怒れるのか)
タケルはタヂカラオの自己犠牲が理解に苦しんだ。
ウズメは涙をボロボロと流しながら
「タ…タヂカラオ!もうやめて!!」
と訴える。
「うおおおおっ!!!」
しかしタヂカラオはボロボロになった体を振り絞り、激しい怒りを撒き散らしながら何度もタケルに飛びかかる。
タヂカラオの体には無数の傷と出血、生身の人間なら既に命を落としているだろう。
(何だこいつらは、その愛と献身はどこから来ると言うのだ?)
タケルはタヂカラオを弾き飛ばしながらも心は苦しむ。
心を無くしたタケルには二人の愛、絆はなぜそんなに強いのか理解することが出来なかった。
「タヂカラオを傷つける事はこの私が許さない!」
そしてウズメもそのボロボロの体で立ち上がり、タケルに渾身の一撃を与えようとする。
「何故貴様らはそこまで戦える!死ぬのが怖く無いのか!?」
タケルの動揺の言葉にタヂカラオは毒づく。
「貴様にはわかるまい、心を無くした貴様にはな!」
「ちいっ!」
タケルはタヂカラオとウズメを壁めがけて弾き飛ばす。
二人の体は既にボロボロだ。
タヂカラオはウズメに言った。
「姉さん!あなただけでも逃げて!後は僕だけで戦う!」
「タヂカラオ!言ったはずです!私はあなたを守ると!」
二人の固い姉弟愛と仲間への思いはタケルにある種の恐怖心を与えた。
タケルにも、かつては愛があった。
人が困っていれば助けずにはいられなかったし、人が悲しんでいればその悲しみを分かち合ったりしていた。
しかし、その心はあの日を境に失ってしまった。
今のタケルにはもはや怒りや憎しみ以外の感情が無い。
だから人を傷つけても何も感じないし恨まれても罪悪感は無い。
だからどんな冷酷な事も出来る。
その代わり、それは自分では気づかない間に自分自身を破滅に追いやっていた。
ウズメが、体を傷つけてまで戦うのを見るに見かねたタヂカラオは鞄から蛇を取り出しウズメが身動き取れないように巻き込ませる。
「何をするの!?」
とウズメ。
「姉さん…ごめん!」
タヂカラオは鞄から石像を取り出し、それに火をかける。
するとその石像は翼の生えた巨人へと姿を変える。
「さあ、姉さんをここから逃がして!」
「タヂカラオ!馬鹿な事はやめなさい!!」
巨人は叫ぶウズメの体を持ち上げ、そのまま飛び去っていった。
後はタヂカラオとタケルの二人だけになってしまった。
タヂカラオは立ち上がれるのが不思議な位の重傷は負っているが、何度も何度もタケルに突進してきた。
塔はそれにより半壊しているがタヂカラオはそれとは比較にならない程の重傷を負っている。
既に血みどろでボタボタと赤い滝が床を濡らす。
ゼエゼエと重い息を漏らし、起き上がるだけでも体中は骨の軋むような激しい痛みに襲われる。
それでもタケルに対しての怒りと仲間への想いに任せて立ち上がり、タケルを睨むタヂカラオ。
そしてこのままではタケルに傷一本入れる事が出来ないと悟ったタヂカラオは酒をがぶがぶとひょうたんが空になるまで飲み干し、その大きなひょうたんを床に投げ落とす。
そしてもう一瓶のひょうたんの中身の酒をがぶがぶと飲み干す。
「ふん、また火炎で攻撃するつもりか?」
タケルはどうせタヂカラオは炎は通用しないとわかっていて悪あがきをしているのだろうと思った。
しかしその直後、タヂカラオの全身から炎が噴き出す。
タヂカラオの全身は火だるまの状態だ。
「何をするつもりだ貴様!?」
「タケル!この身が滅びる事になっても、スサノオ君やオツキちゃんの無念は晴らす!!」
と叫び、タヂカラオは火だるまの全身でタケルに突進してきた。
チュドオオオオオオォォォォン!!!
激しい爆音が轟きを上げ、軽く大地が揺れる。
とある大地に連れて来られたウズメはその時、タヂカラオの死を感じていた。
「タヂカラオ…」
シクシクと泣きながらうずくまるウズメ。
その時、とある男性がそんなウズメを気遣い、話かけてきた。
「大丈夫ですか?」
ウズメは顔を上げてその男性の顔を見上げる。
その男性は鼻が異様に長く、顔が赤かった。
その男性はサルタヒコと言い、後にウズメの夫になる人物である。
一方、タケルの要塞。ウズメ達とタケルが戦っていた場には、鎧を剥がれ裸のタケルのみがいた。
体は無傷である。
しかし、心のどこかにはウズメ達の愛と献身を感じさせる戦いがタケルの心にのしかかっていた。
「奴等のあの愛と献身、それは一体どこからきたと言うのだ、今の俺には理解出来ぬ…」
可憐な乙女の肉体に冷酷な鬼の精神を宿したタケルは少なくとも心の奥底に劣等感に似たものをウズメらの戦いで感じたのである。
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