新たな試練

イザナギ…伝説では日本最古の神でイザナミとの儀式で色々神を生んだ。人間くさいところを色々露呈してくれたがここでは古代の勇者で使っていた剣は[イザナギの剣]と呼ばれている。なお伝説と違い、スサノオとは接点の無い赤の他人。


イザナギの剣…伝説では十拳の剣と言う剣で後に草薙の剣など名を変えるがここでは持つものの善と悪によって姿を変える妖刀という設定。

ーー*

「皆様高天原を、私達を救ってくださり、ありがとうございました!皆様を歓迎致しますのでどうかごゆるりと戦いの疲れを癒してください」


アマテラスは目の前にいる弟のスサノオには視線を合わせずスサノオの仲間らをもてなした。


スサノオとは久しぶりの再会にも関わらず他人として接しているようにも思われた。



もしかして黙って出て行ってしまった事に怒っているのかも知れない。



スサノオはその時申し訳ない表情になり、


「あの、姉…」


と声をかけようとするがアマテラスは「さあ行きましょうか」とアマテラスを囲んでいる兵士達に言い、スサノオを冷たくあしらうかのようにそのまま宮殿へと入って行ってしまった。


「ふう…」


スサノオはもどかしさで落ち着かなくなり、頭をかきながらため息をつく。


「こらスサノオ!」


その時オツキが変てこな面をかぶり両手に綿飴を持った出で立ちでスサノオの前に立ち


「こんなめでたい時にそんな表情してたらただでさえブサイクな顔がもっとブサイクになるぞ!」


と言って片方の綿飴をスサノオに差し出す。


「全く調子が狂うな…」


とスサノオはオツキに言うも、綿飴をゆっくりと取り出し、無意識に笑顔がこぼれる。


一方、宮殿の中に入り祭りの様子を上の階から眺めるアマテラス。

その時女中が茶を手渡し、横からアマテラスに話しかけてきた。


「何故スサノオ様とお話しにならなかったのですか?高天原を救ってくれたばかりではなく、アマテラス様の弟様ですよ?」


アマテラスは外を眺めたまま言った。


「あの子はもう充分に成長しました。もはや私の出る幕は無いでしょう」


そう言うアマテラスの横顔は何やら訳ありな様子が伺える。


「ぷぷぷっ」


女中はつい含み笑いをしてしまう。


「な、何がおかしいのです!?」


アマテラスは顔を赤らめて怒る。


「失礼しました、アマテラス様も姫様の貫禄がついてきたにも関わらずそう言う所は幼い頃から変わっておられないですものね♪」


図星を突かれ、恥ずかしそうに顔を赤らめたまま何も言えないアマテラス。


外は祭りで賑わい、姉に突き放されて落ち込みがちなスサノオをオツキは腕を引っ張りながら屋台へ連れて行っている。


周りは高天原や氷に閉じ込められた自分達が助かってそれを祝うように祭りで賑わっている。


屋台が立ち、そこから芳醇なイカを焼いた香りやらたこ焼き、その他リンゴ飴などの食べ物の他、

金魚救いや弓で的を射る遊技場なども催されていた。

オツキはそれを楽しそうに遊んでいる。


「ねえねえ、あそこ行ってみようよ!」


「こら引っ張るなって!」


オツキは少し陰鬱な表情だったスサノオを元気づけるかのようにややも強引に振り回すが、スサノオはまんざらでも無く、少しずつだが、元気を取り戻してきた。


オツキにあらゆる所に引っ張られ、アマテラスに冷たくされた事も忘れかけていた所に、新たな試練がスサノオ達に襲いかかってくることも、


その時のスサノオ達には知る由も無かった。

その時、八つの大蛇の姿を現した影が上空に現れ、タケルの声が人々の耳へと貫いた。



(ハッハッハ!高天原を元に戻したのか、誠に天晴だ!しかし私はこれで満足しない!)



人々はその声のする遠くの南の方角に目を向ける。

そこには不気味な黒い雲に

八つの大蛇が踊るようにグネグネと上空を踊っていた。



(私のオーラは生贄を欲している。貴様らは神となった私に処女の生贄を一日に一人差し出すのだ!)


タケルは言った。

その言葉にスサノオは言葉を返す。


「てめえ!そんな事は絶対にさせねえぞ!」


その言葉を聞いた後、タケルは低い声で脅すように言葉を投げ返した。


(ならば一日に千人の人間を食い殺すまでだ)


「ふざけないで!」


オツキは大きな声でタケルに反発の声を上げる。


「あんたがその気なら私達は一日に千五百人の子供作ってやるんだから!!」


そしてオツキは更にスサノオの腕にしがみつきながら言う。


「私はスサノオと十人以上子供を作ってやるわ!」


横にいるスサノオは顔を真っ赤にするが他の民達はオツキの言葉に同意しタケルに叫んだ。


「そうだそうだ!」


「俺たちは負けないぞ!!」


民達も負けじとタケルに反論した。


(ククク、そうくるか…)

タケルは不気味な笑みを浮かべる。

すると、オツキのそばに小さなブラックホールのような物体が形取られ、そこから黒い手がオツキの服を掴む。


「ス、スサノオ!」


「オ、オツキ!!」


オツキは上空に引っ張られ、そして姿を消した。


「タケル…てめえ!」


オツキを奪われたスサノオは怒りをあらわにする。



(良いぞ、その表情、怒りは人間の限界を極めるには良い起爆剤になる)


タケルはスサノオを見下すように言葉を投げかける。


(お前は人間はどんな試練でも乗り越えられると言ったはずだ、ならその試練とやらを貴様に与えよう!)


タケルはスサノオに言った。


(そのオツキと言う女を助けたくばアワノクニに来い。そこにオツキとやらを預かっている!)


アワノクニは現在の四国の太平洋側にある箇所、オツキはそこに連れられていると言う。


タケルが言い終えるとグネグネと動いていた八つの大蛇はその姿を消した。


そしてスサノオ達はアマテラスに見送られながら、高天原を後にした。

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