個性的な仲間達
天竺とは大昔のインドの事で、今スサノオ達がいる唐国と同様、倭国以上の文化があった。
そもそも倭国は当時は途上国として蔑みと哀れみの目で見られていたのだ。
天竺へと渡る為、丈夫な白馬を借りてスサノオ達は天竺に向かう。
天竺へ渡るには唐国から少し離れた広大な砂漠を越えなければならなかった。
死ぬような思いをしたが、なんとかしてどうにかこうにか天竺と言う国に着くスサノオ達。
天竺は、唐国では見られないような個性溢れる建築物や、服装を着こなす民達がいて、やはり進んでいた。
天竺の人達の顔の彫りは深く、やや日焼けしたような肌の色が魅力的に感じた。
また、倭国の途上っぷりを改めて実感し、オツキはため息をつく。
「倭国もいつかは先進国になれば良いのに…」
「まあ自然溢れる倭国が一番さ、変に先進国になられても住みにくくなるだけだよ、肩落とすなって!」
スサノオは肩を落とすオツキに励ましの声をかけるがオツキは余計にがっくりと肩を落とす。
その時、優しい音色がスサノオ達の耳に入る。
そして落ち込むオツキにその音色がオツキの心を不思議と癒した。
「優しい音色、ねえねえスサノオ、もしかしてウズメさんと言う人がいるのかも!」
さっきとは打って変わって明るくなり、スサノオを戸惑わせるオツキ。
スサノオ達は優しい音色を奏でるその場所へと向かった。
人々が音楽に魅力されて集まる所、一人の色白の肌に美しい顔立ちをした女性が琴を駆使して美しい音色を奏でていた。
スサノオ達も目的を忘れてしまいそうなくらいに魅力されてしまう。
やがて音楽を奏で終えると客達の一斉の拍手と歓声が沸き起こる。
「おっといけね!旅の目的を忘れてしまう所だった!」
その時音楽に魅力されていたスサノオ達は本来の目的を思い出す。
琴をしまい、どこかに行こうとする若い女性にスサノオは声をかけた。
「ひょっとしてあんたがウズメさんか?」
女性はスサノオの声に振り向く。
「そうですが、何か?」
ウズメと言う女性は透き通った声で答えた。
「うっ、すげえ美人…」
ウズメの美貌にスサノオは思わず顔を赤らめる。
オツキはそれを見て妬いたのか、スサノオの耳を強く引っ張る。
「いてて!やめろって!!」
「何鼻の下垂らしてみとれてるのよ!」
そんなこんなで事情を話すスサノオ達。
「まあ、タヂカラオったら…」
ウズメはタヂカラオの事を聞いてやや立腹させた様子で呟いた。
「知り合いかい?」
「ええ、私の弟です。」
そしてタヂカラオをなだめる為にウズメを連れて再び唐国へと戻り、タヂカラオのいる町に向かうスサノオ達。
タヂカラオのいる付近は、人間の住む所と思えない位無残な有様となっていた。
タヂカラオのいると言う都市はゴーストタウンと化していた。
数々の壊れた建物、枯れた木、人はおろか動物の姿さえ見えなかった。
「ヴアアアアアアアアアぁぁ~~!!!」
その時、すさまじい爆音がスサノオ達の鼓膜をぶち破らんとばかりに鳴り響く。
そしてその爆音で大地が揺れ、トタンやら瓦礫やらが飛んできた。
「んがっ!何なんだ!?」
耳を手で塞ぐスサノオ達。
「あれはタヂカラオの泣き声です!私がいない間にあんな事になっていたなんて!」
爆音が響く間スサノオ達に聞こえるように大きめの声で伝えるウズメだが、スサノオ達にはタヂカラオの爆音のような泣き声しか聞こえなかった。
「タヂカラオを連れて来る時五体満足でいられるかしら…」
オツキはバクバクと鳴る心臓を手で抑えながら呟いた。
「しかし、タケルに対抗するんならそれ位の凄さはいるかも知れねえな…」
スサノオはある意味感心する。
ただこちらの身が持てばだが。
スサノオ達はタヂカラオをなだめに向かう。
タヂカラオが泣き出す度に暴風で吹き飛ばされたり、瓦礫が降ってきたりする。
スサノオは先頭に立ち、オツキとウズメを守るように突き進む。
ついにスサノオ達はタヂカラオに出会う。
しかし一瞬は何かの動物だと感じられた。
髪やあご髭は地に着く程にのび、三メートルを越えるか越えないかあろう巨体は風呂にも入らなかった為か凄まじく獣臭い。
またブクブクに太っていてその体で動けるかどうかも疑問に感じられた。
ウズメは琴を取り出しタヂカラオをなだめる為に曲を奏でる。
すると先程まですさまじい轟音で泣いていたタヂカラオは大人しくなり、ウズメの奏でる音色に魅入る。
「この美しい音色は…ママ?」
タヂカラオは必死に起き上がり、曲の奏でる方に顔を向ける。
そこには身構えた青年と少女、美しい美女の琴を奏でる姿があった。
スサノオ達である。
「お姉ちゃん…」
タヂカラオはウズメに話しかける。
タヂカラオの声と共に演奏を止め、タヂカラオに目を向けるウズメ。
ウズメは怒っているような表情でタヂカラオを見ていた。
タヂカラオはそんなウズメを見て小動物のように頭を低くしていた。
「めっ!人に迷惑かける事をしちゃダメって何度言ったらわかるの?」
ウズメは幼児に叱るような口調でタヂカラオを叱った。
思わず卒倒してしまうスサノオ達。
それをそばで見ていたオツキは
「駄目ですよもっと厳しく叱らなきゃ!!」
と思わず突っ込みを入れてしまう。
「ごめんなさい、弟相手だと厳しく叱れなくて…」
ウズメはわかってはいるが弟相手にはつい甘やかしてしまうという。
弟がこうなってしまうのも当然だとスサノオ達はウズメの甘やかしぷりを見てため息をついた。
タヂカラオののび放題の髪とあご髭を剃り落とし、獣臭い体臭の身体は丁寧に洗われた。
かなりの作業だが、タヂカラオ自身は自分で自身の身体を洗う事もした事が無いのでウズメを除くそばにいるスサノオ達は憤りと呆れで無駄に疲れた。
「ごめんなさい、あなた達にまで手伝わせてしまって」
「まあお互い様って事で…」
「…あなたも大変ですね」
ウズメの感謝の言葉にスサノオ達は疲れた表情をしつつ言葉を返す。
かくしてスサノオを始めとするアクの強い戦士達は集結し、高天原救出に、倭国へと戻る。
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