転生のオツキ
オモイカネ…伝説ではアマテラスが岩戸に隠れ彼女が外に出る方法を考え人々に助言を与えた。ここでは神社の巫女。
ーーー
煙が薄くなり、視界が元に戻ってくる。
スサノオ達はオツキの方向に目をやった。
しかし、目の前にいるのはオツキでは無かった。
何と12歳位のオレンジ色の髪の少女が目をぱちくりとさせながら茫然と座っていたのだ。
スサノオは地面に顔をつけて
泣き出した。
「うわあん!オツキ、こんな姿に変わり果ててしまって!」
「へ?」
人間の少女の姿になったオツキは何があったのかわからないようで、何でこんな所にいるのと言う表情で周りを見渡していた。
そして、姿が変わってしまったのはオツキだけでは無かった。
「オ…オモイカネ様!!」
巫女達もオモイカネの姿を見て、動揺する。
「身体の自由が聞かぬ、耳も聞こえなくなってきた。そして視界もぼやけて見える、やはり覚悟はしていたが…」
オモイカネは重く枯れた口調で言った。
何とオモイカネはオツキを生き返らせた代償に、身体中しわくちゃで白髪の老婆に成り果ててしまっていた。
「オモイカネ様!」
巫女達は一斉にオモイカネのそばに駆け寄り、泣き出した。
「皆よ、悲しむでない、私は借りを返しただけの事、そしてオツキがこうして生き返ったのは良い事ではないか…」
オモイカネは巫女達に諭す。
「オモイカネ…すまねえ、俺…」
スサノオも申し訳なさそうにオモイカネに言った。
「気にするでない、それより、ヤマトヒメを助けるんだったな…」
オモイカネは不自由になった身体で必死に立ち上がろうとする。
しかし、今のオモイカネの身体では立つ事もままならなかった。
「ふう、今の私には無理そうじゃ、イヨ、スサノオにアレを渡すのじゃ」
「はい」
イヨと呼ばれた若い女性は立ち上がり、部屋の奥へと入っていった。
「ねえねえ、これってどう言う事?」
少女になったオツキはスサノオに近づき、指でズボンを引っ張りながら話しかける。
スサノオは顔を真っ赤にして視線を反らして言った。
「それよりお前、何か服着ろよ」
そう、オツキは一糸纏わぬ姿で、スサノオにペタペタと触ってきているのだ。
「服って私ずっとこんなカッコだけど…てかスサノオ私が服着たいと言ってもわけわかんない事言って着させてくれなかったじゃないのさ!」
「はあ?」
その当時はオツキは犬だったので言葉が通じなかったのも無理はない。
スサノオとオツキが町に出かけている時、オツキは
「あの服綺麗!私も着たいな!」
と言ってもスサノオは
「腹減ってんのか?もうじき食えるから我慢しな!」
と言って着させる事は無かった。
大体通じる言葉も通じないのでオツキは諦めていたのだが人間になり、初めて言葉が通じるようになって多少はビックリしていた。
しかしもっとビックリしているのはスサノオである。
オツキが見た事もない、一糸纏わぬ姿の少女になり、スサノオに飛びついたりしているからだ。
そうこうしているうちに、イヨと呼ばれた女性が不思議な形をした杖と人間になったオツキ用にと、衣服を持ってきた。
「どうぞ」
イヨはスサノオ達に近づき、杖をスサノオに、そして衣服をオツキに手渡す。
「これは…」
スサノオが手にとり、不思議な形をしたその杖を見てつぶやく。
そうしているうちに、オツキがそれを取り上げ、
「へへん!これは私のものだよ!スサノオが触るのは300年早い!」
と言ってはしゃぎ回った。
「おいこら待てよ!つかお前はおとなしく服を着ろ!」
と慌てた表情でオツキを追いかける。
その時、杖がスサノオ達に話しかけてきた。
「スサノオさん、皆さん!」
スサノオとオツキは固まったように静かになる。
「オモイカネ、何か言ったか?」
「いや、話しかけているのはその杖じゃ」
「ええっ!?」
(私はヤマトヒメ、私のせいでこのような事になってすみません)
杖は光りながらスサノオ達に語りかけてきた。
「その杖は
オモイカネはスサノオ達に語る。
(時間がありません、スサノオ様、タケルを止めに天の岩戸(あまのいわと)に向かって下さい!)
「天の岩戸って化け物がいっぱいいると言って誰も近寄らない所だろ?何でだ?」
天の岩戸とは、イザナギが妹のイザナミを妖怪から守る為に妖怪を封じた所だと言う。
そこは大きな岩で、魔物を封じてはいるが、時に飛び出し、人を襲う事もあると言う恐ろしい場所で、立ち入りは禁じられている。
(そこには三種の神器があり、タケルは三種の神器でとんでもない事をしようとしているのです!)
「とんでもない事?」
オツキがスサノオから杖を取り上げ、杖に話しかける。
(三種の神器を手にすれば魔物や怨霊をも従え、神の力を手に出来ると言われています。もし三種の神器がタケルの手に渡ってしまったら…)
「厄介な事になりそうだよ!スサノオ!早く止めに行こうよ!」
オツキは甲高い声で叫ぶ。
「おい落ちつけって!」
スサノオはオツキをなだめるように軽く叱る。
(お茶を濁すようで申し訳ありませんがオツキさん、スサノオ様も困っている事ですし今は服を着てください)
杖は決まり悪そうにオツキに言った。
「わ、わかったよう、でも杖は私のもんだかんね!」
オツキはそう言うと、イヨから手渡された衣服を着た。
「そんなに急がないといけない事なのか?」
スサノオは杖に問う。
(時間はあります。しかし、タケルは自己破滅に向かっている。だから出来れば早くタケルに会った方がいい)
ヤマトヒメは人を無差別に殺戮し、死から逃れる為に、その亡骸を食う事で、良心を失い、自己破滅していくタケルを危惧していた。
タケルが完全に良心を失う事でヤマトヒメも消えてしまうからだ。
その頃、タケルは透き通った川の側で座っていた。
その時、みすぼらしい服装をしたタケルを子供達がからかってきた。
「わあ、乞食がいるぞ!」
「きゃー!不潔~!」
タケルが刀を抜こうとしているのも気付かず、からかう子供達。
タケルは殺気に満ちた表情で立ち上がる。
「わー!乞食が怒った、逃げろー
!」
子供達は笑いながら逃げようとする。
その時、白い光が宙を舞い、透き通った川が赤く染まった。
「俺は死にたくない!生きて、生きて、あの悪霊共から逃げ切ってやる!!」
野獣のように亡骸を骨一つ残らないように食い続けるタケル。
そうする事で、悪夢が余計に増す事を、タケルは知る由も無かった。
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