オモイカネ

スサノオ…人里離れた庵(いおり)に住む青年。オツキと暮らしている。モデルは日本神話の英雄須佐男。腕白で色々悪い事をしていたがここではあくまで良いやつ設定。


オツキ…スサノオと暮らす柴犬。モデルはオオゲツヒメ。ここでは仲良しだが伝説ではもてなしたにも関わらずあらぬ所から食物を出すことによりスサノオに殺された悲劇の姫君。


ーーー


スサノオは夢の中のヤマトヒメが言っていたように、オツキを連れてオモイカネのいると言う神社に向かった。


オモイカネは優れた神通力の持ち主で、病気を治したり、死人を生き返らせる事も出来ると言う噂を持つ神。


しかし、そのオモイカネのいると言う神社が何やらおかしいことに気がついた。


神社につくと、神社が荒されていてオモイカネの姿が見当たらない。



「ひでえな、盗賊にでも襲われたのか?」


スサノオはどうすれば良いんだと呆然としていたがオツキがとある方へ向き、吠えだした。


「わん!わん!」


「どうした?」


スサノオがオツキに聞く。


オツキはある方向へ向いたまま吠えていたのでオツキの向いている方向に目をやると一匹の黒猫が木の枝の上で佇んでいた。


黒猫はスサノオ達を誘うように森の奥へと消える。


黒猫の普通ではない挙動にスサノオは黒猫がスサノオ達を誘っているのではと考えた。


「ついて来いって言っているのかな?」


スサノオ達は黒猫が歩いていった方向に歩いていった。


黒猫を追って薄暗い森をかいくぐるスサノオ達。


いくらか歩くと、神社によく使う鈴やら棒やらが落ちていた。


「もったいねえなあ、この水晶玉なんて高価もんだぞ!」


スサノオは水色に光る水晶玉を手にとって呟いた。


見とれてしまう程美しい水晶玉を見つめていると、そこには恐ろしい化け物の顔があった。


玉に映ったその顔は緑色の肌で、カエルのような裂けた口に膨れた輪郭、眼はギョロリとしていた。


「あれ?俺ってこんな顔していたっけ?」


しかしその顔は消えて水晶玉の中に紐で縛られ捕らえられている巫女達の姿が映しだされた。


「あれ?様子がおかしいぞ!これは…!」


隣で見ていたオツキは水晶玉を見ているスサノオのズボンを噛み、引っ張る。


「何するんだよ!ズボン引っ張るなよ!わかったわかった!」


スサノオは水晶玉を置いて再び黒猫についていった。


濃い霧が周りを立ち込める。


どこか禍々しく、自然に親しんだスサノオ達もその不気味な霧には少し恐怖を覚えた。


出来れば帰りたいとスサノオやオツキは思っていたが、ヤマトヒメにタケルを救って欲しいと頼まれた事、そして事件に巻き込まれた巫女達を黙って見過ごせないと言う老婆心がスサノオをくすぐり、引返す訳にはいかなかった。


オツキも、スサノオに心を配り、引返す事はしなかった。



スサノオが黒猫に導かれた場所は洞窟だった。


奥から下品な笑い声が聞こえる。


盗賊か何かがいるのだろうか、しかし、人が安易に近づける程穏やかな瘴気では無い。


それに、水晶玉に映っていた化け物はどう見ても人間の顔では無かった。


洞窟の中では、化け物の一人が、一方の顔立ちは整ってはいるが気の強そうな切れ目の若い女性を鋭い爪で脅していた。


「さあ三種の神器のありかを教えろ!教えないとその生意気な顔に傷がつくぞ!」


その女性は身動き取れないように紐で結ばれて正座させられてはいるが凛とした表情で恐れている様子が無い。


「ふん!やれるものならやってみるが良い!」


「何を!」


化け物は腕を天井に伸ばした。

化け物が長い腕を天井に伸ばし、その女性を切り裂こうとした時の事。


「待ちな!」


とどこからかボサボサとした髪の青年と犬が現れた。


スサノオとオツキである。


『何だてめえは!ははん!オモイカネの送りだした刺客とはてめえの事だな!』


突然現れたスサノオとオツキに化け物は聞いた。


「シカクって何だか知らねえがその姉ちゃん達に用があるんだ!あんたらに食わせるわけにはいかねえ!」


スサノオは威勢の良い声で言った。


『ふん!お前がどれだけ強くても所詮は猿から進化した人間、神の化身である俺達に敵うはずがあるまい、お前も一緒にその姉ちゃん達と一緒に捕まるが良い!』


そう言うと化け物達はスサノオ達の周りを取り囲んだ。


「おもしれえ、やってみな!」


スサノオは鼻を軽くこすりながら挑発した。


『おのれ!やってしまえ!』


リーダーの化け物の合図で他の化け物達はスサノオとオツキに襲いかかる。


「気をつけるのじゃ!奴らの爪は猛毒を持っている!」


オモイカネはスサノオ達に叫ぶ。


「アドバイスありがとよ!姉ちゃん!」


スサノオは猛毒の爪をかわしながらオモイカネにお礼を言う。


『すばしっこい奴め!』


化け物はスサノオの動きに翻弄される。


「なんだい!神の化身ってのは大した事ねえな!」


スサノオは不敵な笑みで化け物達をからかった。


そもそも神の化身と化け物達は思い込んでいるだけでそうでは無い。彼らは後に言うゴブリンで鬼の小型版である。


それでも普通の体力自慢の若者よりは体力はある方である。


「ちょこまかと動きやがって!」


しかしスサノオは普通では無かったので、軽々とゴブリンの攻撃は避けられた。


「受け止めてみな!」


スサノオは得意の回転蹴りを化け物達にお見舞いした。


ゴブリン達はスサノオの攻撃に次々と倒された。


「へへっ良い感じだぜ!」


スサノオは満足げに腕を鳴らしながら言った。


しかしスサノオは気づいていない。


どこかの暗闇の奥で、毒矢でスサノオの頭を狙っている者が一人いる事を。


その矢は先を光らせている。


オツキはその毒矢に気づいたのか、スサノオにそれを知らせようとワンワンと吠える。


「何だようるせえなあ」


犬の言葉のわからないスサノオはオツキが吠えているのに戸惑う。


その時、毒矢がスサノオめがけて飛んで来た。


「スサノオ!危ない!」


オモイカネがそう叫ぼうとしている時の事、その毒矢はオツキの背中に突き刺さった。


スサノオを守る為、オツキがスサノオの頭に飛びつき、スサノオを守ったのだ。


てっきりからかっているとしか思わなかったスサノオは毒矢に当たってぐったりとしているオツキに激しく動揺した。



「オツキ…そんな…嘘だろ?」


いつもの元気な声では無く、静かで泣き出しそうな声でスサノオは呟いた。


オモイカネ達を救いだせたスサノオだが、オツキを失い、元気を失ってしまったスサノオ。


オモイカネを見たスサノオはオモイカネの肩を掴み、懇願する。



「あんた!人を生き返らせる事が出来るんだろ!オツキを、オツキを生き返らせてくれ!!」


人に触れられると、いつもは振り払い体罰を与えるオモイカネだが、こればかりはどうにも出来ず、受け入れるオモイカネ。


「そ、それは構わないがお前の目的は別のものじゃないのか?」

とスサノオに戸惑いながらも問い質す。


「そんなのどうだって良いんだよ!オツキは、俺のガキの頃から一緒なんだ!オツキがいなくなったら俺は…俺は…」


手を地面につき、泣き出すスサノオ。


「助けに来て貰ってこんな事になってすまない…その者は、お前にとって大事な家族なんだな…?」


オモイカネはすすり泣くスサノオの肩に手を触れながら言う。


何も言わず、こくりと頷くスサノオ。


「わかった、その子を生き返らせてあげよう」


オモイカネは頷き、優しい言葉をかけた。


「オモイカネ様!そんな事をしたら…!」


周りの巫女達はオモイカネに拒否をするが、オモイカネはその巫女達を叱った。


「助けてもらってそのままにしておくわけにはいくまい!その者の大事な家族を失った悲しみは如何なるものか!」


巫女達はオモイカネの言葉に何も言えなくなる。


「出来るのか…?」


スサノオは涙目のまま、オモイカネに聞く。


オモイカネは、いつもは見られない優しい眼差しで頷いた。


そして悲しみに暮れたまま神社に戻るスサノオ達。


死んで動かなくなったオツキを神社の中に運ぶスサノオ達。


札や不気味な雰囲気の魔除けの像が飾ってある暗がりの部屋の四方には、火が灯っている。


真ん中の台にオモイカネは立ち、呪文のような言葉を唱えている。



スサノオや周りの巫女達は固まったように正座して、その様子を見守っていた。


オモイカネの顔は汗で濡れていた。


呪文を唱え終えるとオモイカネは


「ヤ~~~~!!」


と甲高い奇声を上げ、手に持っていた先に札の沢山ついた木の棒をオツキに向けて振るった。


すると、突然パンッと言う爆音と共に白い煙がオツキの周りを立ち込める。


ゴホッゴホッと煙を吸って思わず咳払いをするスサノオ達。


前は煙で様子が見えない。

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