第10話 ー戦闘開始ー

 蒼がエンゲージを宣言した瞬間、駆逐艦はエンジンの出力を上げた。

風が発生して嵐のようにゴミが舞う。

翼の模様にナクナニアエネルギーが伝わり、うっすらと光を放つ。

発生した風に触られた海面が波立ち、濁ってゆく。


「固定器具解除」


(ウォーターアーム解除確認)


 命令を送ると、《アウドルルス》が漂流しないように、陸につないでいた固定器具のロックがゆっくり外れた。

長年水中にあるせいか、防錆の効果なく錆びていたが問題なく動いている。

今までずっと使われてきたおかげで整備も行き届いているからだろう。


『こちら、コグレ。

 《アウドルルス》離水を許可する。

 頼むぞ』


はさみの先にクッションをつけたような形のアームが船体から離れると、《アウドルルス》の推進装置の向きを真横に向けた。

放出されている光の向きが真横に向き、煽られた波が桟橋を超える勢いでぶつかり、砕ける。

 距離を測り、桟橋に接触しないよう視界を陸へと向けると、階段を上ったところに三人が立っていた。

なぜか泣きそうな春秋の頭をフェンリアが撫でている。


「まるで姉と妹のようですね……」


なごむ景色でほんわかし、小さくぼやいて夏冬へと目を向けてみた。

こちらもきっとほんわかさせてくれるだろうという小さな思いがあってだった。

が、彼はポケットからチョコを取り出して一人口にもくもくと運んでいる真っ最中だった。


「……………」


沈黙して次に言葉に沸いた言葉は


「夏冬だけは許しません……」


という出撃前に誓う大きな一言だった。


「帰ってきたら痛い目に合わせます。

絶対です」


夏冬からしたらとんだ逆恨みだったが食べ物の恨みとは恐ろしいものなのだ。

それを彼は理解していなかった。

 また、蒼は食べ物の恨みを強く持つタイプだった。


(桟橋との距離、三百メートル。

 安全航路確保。

 前方障害なし)


「了解です」


蒼は三人から前方に視界を戻した。

 若干一名にだけきつい視線を向けていたがきっと夏冬は気が付くことはないだろう。

鼻で不快感を蹴って意識を離水に戻した。

よそ見をしての離水など自殺行為の他ない。


(モニター切り替えます)


 一瞬視界が真っ黒に染まってすぐに元に戻った。

さっきまでは存在しなかった物が目の前に新しく表示されている。

空へと一直線に延びている黄色いマーカーだ。

蒼達“核”が辿るべき正規の離陸ルートを教えてくれている。

大体は基地が観測の元出すので、マーカー通りに離陸すればあらかた安全である。


「エンジンリミッター解除。

 《アウドルルス》テイクオフ」


(了解。

 リミッター解除五秒前、風速南東へ四)


 全長八十メートル、総重量二千五百トンの船体がゆっくりと海面を這うように進み始めた。

蒼は慎重に駆逐艦の船体を黄色いマーカーの上に乗せる。


(ずれ発生。

 右舷三メートル)


《ネメシエル》とは違う俊敏な反応。

さすが駆逐艦ですね。

一人感想を吐き捨ててやっとの思いで船体を黄色いマーカーの上に乗せることに成功した。


「離水プロセスロック。

 《アウドルルス》離水します」


推進装置の向きを後ろと下に割り振り、速度計に目を落とす。

順調に数字が上がってゆき時速五十キロほどに達した。


「《アウドルルス》両舷全速」


 風で艦首に備え付けられたベルカの国旗がなびく。

およそ五百メートル進み、船体が安定したところを見計らい蒼は一気に速度を上げた。

《アウドルルス》の後方から霧のようになった海水が雲のように煙となり上ってゆく。

爆風に揉まれ、ちぎれた海水が粉となっているのだ。

エンジンのリミッターが外れ、推進力を目いっぱいに上げた駆逐艦の全速足跡のように霧を残して《アウドルルス》の船体は空へと浮かんでいた。

船体付着した海水が名残惜しそうに海面へと雨を降らす。

気持ちが悪いぐらいに真っ青な空に赤い艦底と黒鋼の船体が点を作り飛翔する。


(久しぶりに空を飛んだ……。

 やはりここがあっしのいるべき場所だって思いますよ)


 蒼は目をすでにはるか下になってしまったコグレへと向けた。

山も何もない本当にただの島である。

到底三万人も住んでいるとは考えられないですね……。

“三次元パンソロジーレーダー”の映し出すコグレ基地を隅から隅まで眺めてそんな感想を抱いた。

急速に復旧の進むコグレ基地にはほんの少ししか資材のたくわえはなかったはずだ。

今回の任務で資材が見つからなかったらどこか他の場所を探らなければならない。


(風が気持ちいい……)


「私もここが家のようなものです。

 空こそが私の生きる場所だと……そう思いますよ」


 少し遅れて《アウドルルス》への返事を返した。

エンジンの出力を一定に保ち、全力を出し続ける。

蒼は少しだけ、翼の光放出面を絞った。


(して、場所はここから南西へ百五十キロほど行ったところの軍港ニッセルツでいいんすよね?

 あっし、以前二回ほど来たことがあるんです。

 といっても今から二十年ほど前なんですがね……)


「そうなんですか?」


 蒼は《アウドルルス》のデータベースへとアクセスしてみた。

“航海軌跡記”を開き、座標からたどってみる。

第零期一九三一年五月に一回、第零期一九三四年六月に一回。

確かに二回ほどニッセルツへ《アウドルルス》は航行していた。

天気は両方とも雨だったようだ。


(ええ。

 いいところですぜ?

 空気はおいしいし、かわいい艦はいっぱいいたしで。

 あっしからしたら天国のような場所でした)


「は、はぁ」


 かわいい駆逐艦っていったいなんですか……。

というか艦艇にかわいいなんてあるんですか?

蒼にとってはまさに未知の領域であることは間違いないだろう。

もちろん、蒼に限らず普通の人間には理解できないに違いない。

マニアの人は除くとして。

 頭を振って変な想像を断ち切った。

でもおそらくみんな私のようにぺちゃんこなはずですよね。

変に自信が盛り上がる。


(そうっすねぇ。

 あっしのサーチでは《シューガル級駆逐艦四番艦ツムニア》なんかがいいかなって  ――。 

 あ、でも《アーズルカル級重巡洋艦二番艦のマルカル》なんかも――)


 蒼の気持ちを知らないで十年ほど前のことを《アウドルルス》は懐かしそうに話し始めた。

それも色話をだ。

艦自体が女性だというのに、かわいいも何もないと思いますが。

蒼は冷静に分析して適度なところで話をさえぎることにした。

遮らないと永遠に続きそうである。


「と、それは置いといて。

 “艦艇ネットワーク”でニッセルツ付近の味方を探すことは出来ませんか?」


出来る限り触れたくない話題の方向性を変えることにした。

かわいい駆逐艦なんか言われても私には到底理解できるとは思いませんからね。

参考用に頭に浮かべていた《シューガル級駆逐艦》と《アーズルカル級重巡洋艦》の画像を頭から取り除いた。

何度見ても理解できるわけがない。


(ん、了解。

 やってみます)


 第一、《アーズルカル級重巡洋艦》はすべて解体されて今は一隻も残っていませんよ……。

改めて《アウドルルス》の古さを思い知る蒼。

《ホイガ級》自身、設計が約三十年も昔のものですからね。

無理もないかもしれませんが。


(――ダメですね。

 一隻も出ません。

 反応なし、レーダー通信ともにです)


 そもそも《アウドルルス》の索敵範囲はあまり広くない。

半径五十キロ、直径百キロ程度の円が限界だ。

味方との連絡が取れないとなると用心しつつ進むことになる。

自慢の速度すら発揮する機会を与えられずに轟沈させられるかもしれない。

そんな不安が蒼の胸に差し込んできた。


「警戒を厳として全速前進しましょう。

 高度はおよそ二百で固定。

 低空でレーダーをかいくぐります」


ぐっと体が前に押し倒される。

高度を示していた数字が六千から一気に減り始めた。

《ネメシエル》とは違う、俊敏な動きに蒼は少し戸惑う。

機動が激しいですね。

艦首が引力と同じ向きに傾くと船体も引きずられて下を向く。

蒼は落ちる勢いを借りて速度を上げることにした。


「エンジンバースト放射。

 光波エネルギーを速度へと変換。

 設定速度最大速力マッハ四へ」


(了解でさ。

 光波エネルギーを取り込みつつ速度を上げます。

 最大安全船速マッハ四を許容)


 《アウドルルス》の主翼の模様が小さく光り、明らかに速度が上がり始めた。

《ホイガ級》の最大速度は設計当時はマッハ六である。

だが建造されてから約三十年が経過した《アウドルルス》は機関の老朽化が激しい。

しかし、整備班がほぼ徹夜で整備しつくした《アウドルルス》は全盛期までとは行かなくとも中々の速度を出すことができるようになっていた。

一度試験をした結果、《アウドルルス》が現在出せる最高速度はマッハ四と出たらしい。

それにより設定上の最大速度はマッハ四と全盛期の半分ちょっとに固定されることとなった。

それでも《ネメシエル》の最高速度がマッハ二なのを考えると多々オーバーなスピードといえる。


「引き上げのタイミングは指定します」


 蒼はそういうと椅子に深く腰掛けた。

視界にだんだん迫ってくる海水の壁を見据えつつ高度計からは目を離さない。

めまぐるしく減ってゆく高度計の数字はすぐに五千を切り、四千代に突入した。

その正反対のところにあるのは速度計である。

こちらもめまぐるしく変化しているが高度計とは逆でどんどん数字が増えて行っている。

ばっと、一瞬視界を白い雲のようなものが遮った。

いよいよマッハを、音速を超えたのだ。


(高度二千……千……)


高度計と並行して《アウドルルス》が高度を読み上げる。

千を切ったところで蒼は


「今です。

 前翼水平に戻してください。

 傾斜復元!」


《アウドルルス》へ命令した。

素早く帰ってくる機動が返事を物語る。


(了解でさ!

 前翼水平に戻します。

 トリムタンクプラスマイナスゼロ。

 艦、水平に戻ります)


 船体二百メートル下でマッハを超える空気の塊を受けた海面が波立つ。

マッハ三の巡航速度にまで達した《アウドルルス》は海面に傷を与えつつ飛行を続けた。

まるで鋭い刃物で傷をつけられたガラスのように模様が起こる。

蒼は地図と位置情報を重ね、現在位置を把握することにした。

この速度だとあと三十分ほどでニッセルツにたどり着きますね。

蒼は流れる外の景色を眺めてほっと溜息をひとつついた。

きわめて順調な航海といえる。

 基本、ベルカの艦艇はみな衝撃波をできるだけ生み出さない形――流線型にはなっていない。

連合の艦艇はそうなっているのにもかかわらずだ。

これには多少の理由がついてくる。

第一の理由としては停泊する場所が海だということがあげられる。

海だと無限に滑走路が広がっていて盆用性も上がるからだ。

第二の理由は、衝撃波を防ぐ便利なバリアが存在するからである。

このバリアは“軌道湾曲装置”と呼ばれている。

長いため通常は“イージス”と略されることが多い。

攻撃を防ぐ役割と衝撃波から船体を守るという役割を両方兼ね備えている。

これがベルカの全艦艇が“イージス”を装備している理由だ。

もし“イージス”がなければマッハを超えた際に出る衝撃波で、船体はばらばらになるだろう。

 平穏になってから何もやることがなくなった蒼は退屈の渦に巻き込まれていた。

予定の三十分まで残り五分ぐらいまでずっと平穏が続いている。


「ふあー……」


(退屈ですか?

 あっしもでさぁ)


蒼はあわてて、口を閉じた。

まさかこのタイミングで欠伸が出ようとは予想していなかった。

完璧に気を抜いていましたね。

戻れるなら十秒前の自分にビンタを一発食らわしてやりたいです。


「あとどれぐらいで着きます?」


(えー、あと五分ってとこっすかね)


蒼はぐるりと《アウドルルス》の周りを探ってみた。


「あ、見えてきてますね……」


 距離にしておよそ五十キロ前後。

《アウドルルス》のカメラで精いっぱいズームしてようやく見える距離に浮かんでいた。

遠い地平線にうっすらと島が見えてくる。

ベルカ帝国第二本島、マウルスジア島の海岸線だ。

あの島に目指している軍港、ニッセルツが存在している。

懐かしい、久しぶりに見る祖国の土地。

思考の中で右手を伸ばして掴もうとしていた。

私の祖国――。


(っ、蒼さん!

 レーダーに反応、数は三!

 大きさからみるにミサイル艇と思われます!)


伸ばした右手を引っ込めて


「接敵までの時間は?」


言葉を返し、《アウドルルス》の武装と思考をつなげる。


(武装レリエルシステムオンライン。

 接触不良発生せず。

 異常なし、全兵装解放)


 何度か接続に失敗したものの、三度目にしてようやくオンラインになった。

やはり、“レリエルコード”を書き換えたとしても多少なり拒否反応は出ますか。

蒼はイエローゾーンとグリーンゾーンを行き来する“レリエルインターフェイス”を眺めつつ武装に意識を回す。


「敵無線のコードを探って合わせてください。

 状況が把握したいです」


(コード照合開始――補足。

 思考通信につなぎます)


【侵入艦?

 ベルカの残存兵力か】


 見事に敵の無線をとらえたらしい。

蒼の耳にマックスでも、《アウドルルス》でもない奴の声が入ってくる。

もっとゆっくり聞きたかったが《アウドルルス》の発した悲鳴がかき消した。


(敵がミサイルを発射!

 目標はあっしらです!)


【“ヘルスピア”発射!

 目標不明艦!】」


 敵の声と《アウドルルス》の声が二つ重なる。

連合の無線の周波数は今までの敵と同じらしい。

コードの表示数を見て蒼はそう思った。

幸運なのか不幸なのか、分りませんね。

苦笑しつつも頭の中に響くような《アウドルルス》の報告と同時にひとつの高熱源反応を感知した。

スピードから見るに対艦ミサイルだろう。

ミサイルの速度はおよそマッハ三。

逃げ切れますね。

 蒼は敵の弾道を読むと《アウドルルス》の艦首を少し下げることにした。

マッハ四とマッハ三、合計マッハ七のスピードがお互いの距離を縮めていく。

ゆっくりと《アウドルルス》の高度が下がるのと同時にミサイルも頭を下げる。

船体中央を突き破るように向かってきてますね。

 《ネメシエル》のような戦艦とは違い駆逐艦には装甲はほとんど存在しない。

ミサイル一発が命中するだけで大破、航行不能になることは目に見えていた。

向かってくるミサイルを下によけることにした蒼は海面ぎりぎりまで《アウドルルス》を落とした。

万が一当たっても耐えれるように“イージス”を上面に集中させる。

艦底には“イージス”がない状態になったが、おそらく問題はないだろう。

高度五メートルのところを猛スピードでかける《アウドルルス》にミサイルが集中する。

飛ぶ《アウドルルス》のアンテナが海面と接触して少しねじ曲がる。


「っ!」


 鈍痛が蒼をゆっくりと突き上げた。

艦が傷つくと“核”も痛みを感じる。

被弾したことを知らせるためだ。

蒼は弱い痛みに耐えると真上から来る一本のミサイルに集中した。

ミサイルは真上から《アウドルルス》を狙おうとしていた。

そうはいきませんから。

 ホップアップして、一気に下に向かうミサイルの下を蒼は最大船速で駆け抜けた。

ミサイルは船体を射ることなく海面に突き刺さると弾頭を起爆させ、破片をまき散らした。

水柱が立ち、ゆっくりと霧に姿を変えて消えてゆく。


(ミサイル回避成功! 

 ミサイル艇との距離近づく。

 距離およそ五千っす!)


【早い!

 今までのベルカの艦艇とは違う!】


 蒼は《アウドルルス》の主砲である“十二センチ連装光波共震砲”の砲門を目標へと向けていた。

ミサイル艇ほどの装甲ならこの距離からでも十分いけますよね?


「撃て!」


連合の艦艇にあまり詳しくない蒼は、少し不安に思いながらも発射した。

二連でつらなった“光波共震砲”の光が一隻のミサイル艇へと向かっていく。


【“伝導電磁防御壁”展開!

 数は五をキープしろ!】


敵は冷静に対処し、当たる直前で光は霧散して消滅してしまった。


「くっ、やっぱりダメですかっ!」


 まだ距離を詰めないといけませんね。

そう分析する。

敵にばれてしまった以上低い高度にいる必要もない。

蒼は高度を上げ、敵より優位に立つことにした。


【敵のデータが判明。

 おそらく《ホイガ級高速駆逐艦》と思われる。

 武装はあまり多くない。

 “連装光波共震砲”が六基。

 “四連装光波魚雷発射管”が二基。

 機銃多数……か。

 一般的なベルカの駆逐艦だ。

 基準排水量二千五百トン。

 最高速力マッハ六】


どうやら敵にもこちらの情報がばれたらしい。


【それだけ分かれば十分だぜぇ!】


やたら熱血なお兄さんが吠えている。

 《アウドルルス》が三隻と最も接触するまであと十秒。

蒼は下部砲台に指令を出して一隻に狙いを定めた。

敵と接触する五秒ほど前に一気に高度を上げ、舵を誤ると接触するぐらいの距離まで近づく。


【くっ、ぶつかる!?】


だが《アウドルルス》はぶつかる直前、垂直状態になるまで艦首を上げた。

敵ミサイル艇からくっきりと細部まで見えるほどの距離。

ごくりと唾を飲む敵が見たものはあふれんばかりに光を蓄えた下部についている“連装光波共震砲”だった。


「てっ!」


“パンソロジーレーダー”で位置関係を読み、放つ。

 当然蒼が外すわけがなかった。

発射した直後に上面だけに集中していた“イージス”の効果範囲を全体へと戻す。


【貴様!】


五枚展開されていた“伝導電磁防御壁”はあえなく敗れ去り、一隻のミサイル艇をゼロ距離で放たれた“光波共震砲”が貫いた。

艦橋部分を縦に切り裂くように命中したおかげで一撃で敵艦を沈めることができた。

錐もみ運動に入り、耐えきれなくなってねじ切れた船体からごそりとレーザー砲台が抜け落ちる。

砲台は二つに折れた船体の次に大きな破片となり落ちてゆく。


【くっ、やるなベルカ残存艦!】


 敵がうめくと同時に敵から発射されたピンク色のレーザーが《アウドルルス》へと殺到した。

数はおよそ四。


「面舵いっぱい!」


空気を破って《アウドルルス》の進路が右へと曲がる。

ぎりぎりのところをレーザーが通り過ぎた。


『っ、蒼!

 無事か!?』


 次に飛んでくるレーザーの軌道を読みつつ操艦する蒼にコグレからの通信が入ってきた。


「な、なんでマックスが?」


(ばれちまったならもういいかなって。

 あっしが無線封鎖の解除を求める信号を送ったんす)


「な、なるほどで――っと!」


素早く艦を左に動かした。

いつの間にか《アウドルルス》より高度をとっていたミサイル艇がレーザーを撃ってきていたのだ。

艦首すれすれを掠めてピンクの光が通り過ぎる。


【《マル》の敵、討たせてもらうぞ!】


蒼がレーザーの行先を眺めると同時にすぐ近くにまでニッセルツがやってきていた。

地上を“パンソロジーレーダー”で把握すると同時に


「っ!

 “イージス”ピンポイント展開! 

 負荷率は六パーセントまで許可!」


(了解した)


 半ば叫ぶように蒼は《アウドルルス》に“イージス”の展開を命じていた。

まさか、もうここまで進んでいるなんて。

変わってしまった祖国の軍港に蒼は目を落とし驚愕した。

視界に被ってくるように、ニッセルツからレーザー光が蒼達を目がけ飛翔してきたのだ。

ぶつかる寸前に“イージス”が展開され、無理やり進路を曲げられたレーザー光は空へと消えてゆく。


「マックス、聞こえますか?」


 悲しみと敵への怒りがふつふつと蒼の胸の中で沸騰しはじめた。

出て行ってください。

あなた達はみんなベルカから出て行ってください。

怒りを出さない、落ち着いた声でコグレへの通信を開いた。


『ああ、聞こえるぞ』


「ニッセルツは敵の手に落ちました。

 資材なんかは……」


 蒼は倉庫を見据えレーダーで中を見た。

大量の素材が積み上げてある。

ベルカのものではなくすべて連合のもの。

うまく利用すれば一か月はフル装備で出かけれそうな量だ。


「たっぷりあるようです。

 写真も今送ります」


蒼はそういうと下部に取りついたカメラのシャッターを切り、コグレへと画像を飛ばしたのだった。






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