第2話
現時刻12時40分──入学式開始まで、あと20分。
俺はぶらりぶらりと千鳥足になりながらもなんとか校門前まで到着することができた。
入り口で新入生の受付を済ませ、会場である体育館に入り、指定の席に着く。無事、遅刻することなく式に間に合ったことに無性の安心感を覚え、胸を撫で下ろす。
はふー。
深いため息を吐きながら深く椅子にもたれかかる。
「ややっ、大丈夫かい?」
後ろの席からやけに快活な声で話しかけられる。
振り返るとそこには、声色通りの活発そうな見た目の女の子がいた。
「ファっ?! あのっ、今俺に話しかけた?」
不意に女子に話しかけられるという緊急事態に脳が追いつかず、思わず上擦った声で返事をしてしまう。
「あははっ、そうに決まってるじゃん。君ってば面白いなー」
「そっ、そうだよねー」
平然を装いながら、当たり障りのない返事をしたが俺の心は女子に話しかけられた喜びとキモいキョドリ方をした後悔でグチャグチャになっていた。
やばいやばいやばいやばい、俺今、顔真っ赤になってないか?
てか、なんでこんな可愛い子が俺に話しかけてくんだよ。もー何もわかんねーよ。
「大丈夫? すごい汗だよ」
彼女が心配そうに俺の顔を覗きながら尋ねてくる。
「あー、実は今日寝坊しちゃってさ。家から学校まで猛ダッシュで来たんだよね。本当はもっと余裕を持って颯爽と格好良く登校する予定だったんだけどね」
「あははっ、それじゃ君の計画は失敗に終わっちゃったわけだ」
「はい。誠に残念ながら」
「寝坊したってことはお昼もまだなの?」
キュルルル〜。
まるで空気を読んだかのようなタイミングで俺の腹が鳴った。
「ふふっ、君よりお腹のが先に返事しちゃったね」
彼女は小悪魔的なニヤニヤした笑みを浮かべながら、グイッと顔を近ずけ、からかう様に言ってきた。
可愛い顔をいきなり近づけられ若干キョドリながらも平静を装い返事をする。
「そうなんだよね。てか、昼飯どころか朝も食べてないから今すごい腹へってるんだ。一応途中でコンビニ寄って弁当は買ったんだけど、食べる暇がなくてね」
そう言って俺は腕時計に目線を移した。
現時刻は12時45分。──よし、行けるな。
俺は鞄を手に勢いよく立ち上がった。
彼女は不思議そうに俺の方を見ている。
「今からトイレで弁当食べてくるわ」
「えっ、本当に? もう入学式始まっちゃうよ」
キュルルールル、ルル
そこでまた腹の音が主人に変わり返事をする。
「ごめん、せっかくの忠告有難いけど、こいつ(腹の音)がこう言ってるから。それに汗だくのシャツも変えたいしね」
「もう式まで15分しかないんだよ」
「大丈夫。秒で食べて着替えてすぐ戻ってくるからー」
そう言いながら俺は彼女の再三の忠告を軽く受け流し、足早に体育館を出た。
この軽はずみな選択が今後の俺の高校生活を大きく左右することになるなんて、この時はまだ思いもしていなかった。
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