第130話 魔女と帰還

メリンダさんの荷物はすぐにまとまって、出発の準備ができた。

まだ昼食後それほどたっていないので、来た時の所要時間で考えれば明るいうちに到着できるはずだ。

僕とマリアは出発前にトイレに行っておく。しばらくは空の旅だし、途中でトイレの為に降りるのもできれば避けたい。


「そういえば、セブンはすっかりマリアの使い魔みたいになってしまったね。」


マリアの首周りで襟巻きみたいになってるセブンをみて思ったことを話すと、


「メリンダはくれるといった。」


という驚きの返事が返ってきた。使い魔はそんなに簡単に誰かにあげたりするものなのかなあ。アイちゃんと同じで、しばらく貸すとかそんなことだろうか。

昼食を食べた中庭のある場所に戻ると、すでにグリンダさんが来ていてメリンダさんと何かを話していた。少し離れた場所に3人の知らない人がいた。3人とも女性で、見た目の若い一人は手に荷物を持っていた。


「お待たせしました。」


僕が声をかけるとメリンダさんはいつもの落ち着いた様子で、そしてグリンダさんは少し落ち着きがない様子でこちらにきて。


「お待ちしていました。」


握手でもするのかなと思ってぼんやりと持ち上げた僕の手を両手で握る。

そして後ろの若い女性を呼んで、手に持っていた荷物を僕に渡そうとする。


「こちらを。」


荷物は見た目からすると昨日食べたのと同じお店のお菓子だろう。マリアも後ろでおかしだあ、みたいなことを小声でつぶやいている。


「これは途中で食べるおやつ、ではなくナタリアさんへのお土産ということでしょうか。」


「そうです。メリちゃんいえ姉が途中で食べようと言っても断って下さい。」


「はあ、わかりました。」


メリンダさんはそういう面で信用が無いから僕に頼んだということなのかな。


「よろしくお願いします。お姉ちゃんのこともお願いします。」


そう言うと握っていた僕の手を離した。グリンダさんの手にはしわもあり、もしかしたら思ってるよりも年配なのかもなんて失礼なことも考えていた。なのでこの時はグリンダさんのお願いが、お菓子のことだけではないのだろうということには思いがいたらなかった。


「それじゃあ、行きましょう。グーちゃんもアイちゃんをよろしくね。」


メリンダさんはアイちゃんからカバンを受け取りながらそう言って、中庭の屋根が無い場所に移動した。僕とマリアもそっちに行く。


「じゃあいくよ。」


「あ、さいしょはゆっくりでお願い。」


マリアが魔法障壁を展開する。こちらからは暗いけれど周囲が見えるけれど、外からは見えなくなったはず。グリンダさんの連れの二人は驚いたようにきょろきょろと見回している。グリンダさんと若い一人はかわらずにこちらを見ているので、魔力を感じているのだろう。

僕らの上昇に合わせて顔を上げたので、見えないながらこちらの位置を把握してるのだという推測は裏付けられた。


「グリンダさんともう一人の若い人はこちらを魔力で見ることができていたみたいですね。」


上空を移動しつつメリンダさんに話しかける。


「ええ、グーちゃんはもちろんだけど隣の子はグーちゃんの孫それも娘の娘だから、力を受け継いでるのね。」


「孫、なんですか。そう言われてみると何となく面影が似ていなくもないような気がします。」


「それよりもこんな速度で飛べるなんてすごいわね。普通の手紙の魔法なら追い越してしまえるくらいね。」


メリンダさんにとってもマリアの飛行速度は驚くべきものらしい。マリアはもっと早く飛べると言い出したが、お願いしてそれまで通りのスピードにしてもらった。

来た時とは逆に街を出てからは川に沿って上流に向かう。しばらくさかのぼってから山を越えるとミルアの暮らしていた森がある。


「それじゃあいったん森の中の家に降りよう。」


「わかった。」


そうして一日ぶりに森の中の家に帰ってきた。


「ここがミルアちゃんとマリアちゃんのお家なのね。」


メリンダさんが珍しそうに見回している。


「わたしくだものとってくるね~。」


マリアはそう言って家の裏にかけていった。


「それじゃあメリンダさんは家の中にどうぞ。」


メリンダさんを家に案内して、自分の荷物も整理する。予定では何か買ってくるはずだったけど、なにも買ってこなかったので荷物から出すものといえば脱いだ服くらいだ。これからナタリアさんの家に行ってそのまま泊まることになってもいいように着替えはマリアの分もいっしょに補充しておいた。


荷物の整理を終えてテーブルのある部屋にもどると、メリンダさんはカマドなどをめずらしそうに見ていた。


「ここで少しやすんだら街に行きましょう。」


そう声をかけて僕は椅子に座ったけど、メリンダさんはまだ部屋の検分を続けている。


「くだものとってきたよ~。」


マリアが両手に果物を持って戻ってきた。台所にあるナイフと板それから食器を持ってきて切り分ける準備をする。


「そういえばナインは見なかったかな。」


果物をカットしながらマリアに聞いてみる。


「んー、あわなかった。」


という返事だった。


「ナインというのは使い魔だったかしら。」


メリンダさんからの質問があったので答える。


「ええ、今は主がいないみたいなんですが、僕の魔力を使えばいろんな魔法が使えたりもするんです。」


「それにごはんもたくさんたべるんだよ。」


「そうなの、昨日も聞いたけど物を食べる使い魔というのは珍しいわ。」


それから窓の方に目をやると続けて言った。


「そこにいるのが、そのナインちゃんかしら?」


「えっ。」


驚いて窓を見ると、少ししてナインが姿を現した。


『やあ、お客さんのようなので遠慮してたのだかね。』


「久しぶりナイン。日帰りの予定が一泊になったんだよ。これから出かけるけど、いっしょに果物でも食べる?」


『いただこう。それはお土産かな。』


「あ、ごめん。これは違うんだ。」


そんな話をしながら、ナインの分の果物も切り分ける。


「はい、どうぞ。」


「わーい。」


さっそくマリアが食べ始め、ナインも続く。メリンダさんはそんなナインを興味深そうに見ていて、僕はメリンダさんを見ている。


「本当にたべるのね。」


「ええ。」



途中でマリアがおかわりの果物を取りに行き、ナインの希望でミルクの実も採ってきた。


「それじゃあカットは自分でやってよ。魔力は使っていいから。」


『了解した。』


久しぶりのナインの魔法でミルクの実の端がカットされたので、中のミルクを皿に注ぐ。


「さあどうぞ。」


ナインがミルクを飲む姿はやはりネコを連想させる。




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登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、中身が僕では魔法はほとんど使えない。ボール型使い魔があれば少しは使えるようになった。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。甘い物好き。

メリンダ:眠りの魔女。一年の大半を眠ってすごしている。使い魔にセブンとアイちゃんがいる。お菓子好き。

グリンダ:メリンダの妹だけど、見た目は年上。メリンダはグーちゃんと呼ぶ。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。湖の街を治めるレイク家の当主夫人。

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