第131話 魔女と訪問

「それじゃあ僕たちは街に行くけど、ナインは今回も留守番でいいんだね。」


『ああ、出来たら今度こそおみやげを期待しているよ。』


ナインにも一緒に街に行くか聞いてみたけど、別にいいみたいなので残して街に向かう。


「あの使い魔は変わっていますね。」


森の上空でナタリアさんが話しかけてきた。


「僕は最初に会ったのがナインなのでそういうものだと思ってましたが、食べ物を食べる使い魔というのはやはり珍しいのですね。」


「いえそれだけではなく、あのように主体的に話をするほどに自我が確立している点でも異例です。使い魔は主の指示が無い場合はおとなしくしているのが普通なのです。」


ナタリアさんはそういってマリアの首もとのセブンを見る。そういえばセブンは最初に公園で会った時はわりと自分から話していたけど、このところ話してるのを見た事がない。主のいる場では、そういうものなのだろうか。


「そういえば、マリアがセブンをもらったと言ってましたが、あれは本当なのですか。」


「ええ、アイちゃんと同じで面倒をみてもらえそうな人にお願いしたの。」


どうして自分の使い魔を他の人に譲ったのか理由が知りたかったのだけど、それを聞く前に街が近づいてきた。歩くとそれなりに時間がかかる距離も、魔法で飛べばすぐだ。


「どこにおりればいい?」


「そうだね。この街には城壁や正門みたいなのは無いし、ナタリアさんの家に直接行っても大丈夫かな。どうでしょうか。」


メリンダさんにも意見を聞いたけど、


「大丈夫じゃないかしら。」


とのことだったので、家に直行することにした。


「あ、でも玄関じゃなくて門の外側にしてね。」


「わかった。」


家の近くまでいくと門は開かれていて、出迎えに出てきたらしき人もいた。その案内にしたがって、家に入るとナタリアさんが待っていた。


「眠りの魔女メリンダさまのこの地への御訪問を歓迎いたします。」


実際はもっと長かったけど、まあそんな内容のことをナタリアさんが言った。


「丁寧な挨拶ありがとう。さ、あとは気楽に話してちょうだいな。昔みたいにメリちゃんと呼んでくれてもいいわよ。」


「もう私も子供ではないのですから、そういうわけにもいきません。ですが、くつろいで滞在いただけるようにします。それからお連れの二人について聞いてもよろしいでしょうか。」


「ええと、知ってると思うけどこちらがミルアでこっちがマリア。見た目だけだと間違えてしまいそうよね。私の手伝いでいっしょに来てもらったの。」


「ええと、これ、グリンダさんに預かってきた物です。」


「とってもおいしいおかしなんだよ。」


紹介されたついでにお土産のお菓子をわたす。中身についてはマリアの言葉でいいだろうと思って、とくに追加で説明はしなかった。


「それでは後でお茶の時にお出ししましょう。」


ナタリアさんはそんなことを言って、受け取ったお菓子をメイドさんに渡した。

それから僕とマリアは前と同じ客間に案内され、メリンダさんは別の部屋みたいだった。


「ちょっとトイレにいってくるから、ひとりで待っててね。」


「わかった。」


マリアにことわってトイレに行って手を洗う。廊下に出たときにちょうどメイドさんがいたので、ナタリアさんのところに案内してもらう。そこで僕らがどうしてメリンダさんといっしょに来ることになったのかということについて簡単に説明しておいた。買い物に行った先で使い魔のセブンに偶然出会ってメリンダさんの所に行ったといった内容だけど、自分で話していて偶然にしてはできすぎだよなあとか思った。

しかしあまり長話をするわけにもいかないので、話すだけ話して部屋にもどった。


それから少ししてメイドさんがお茶の用意が出来たと呼びに来たのでマリアと二人でナタリアさんの部屋に行く。メリンダさんも僕らに少し遅れて到着した。

お茶とお菓子が出される。お菓子は僕が持って来たものだ。


「手紙によると、今回の訪問は聖堂の調査ということでよろしいのでしょうか。」


挨拶などをした後にナタリアさんが本題に入る。


「そうね、長いこと閉ざされていた墓所が開いたのだから、一度は見ておこうと思ったの。私のご先祖もどこかにいるはずだし、もしかしたら私も入るかもしれないのだわ。」


とメリンダさん。僕が開けてしまった開かずの間のことを、メリンダさんは墓所と言っている。マリア以外にも次の段階に進んだ魔女の身体が保管されていたりするんだろうか。


「御先祖というと聖人メランダですね。確かこの地で次の段階にすすんだという伝承が残っています。」


二人がそうやって話している間、僕とマリアはお菓子を食べていた。マリアはすぐ食べてしまったので、僕のを半分わける。もっと食べたかったみたいだけど、アリシアの分も残しとかないとねと言うと納得してくれた。しかしお菓子を食べ終えてしまうと特にすることがなくなってしまった。古い知り合いらしいメリンダさんとナタリアさんは話すことが沢山ありそうだったけど、ずっと聞いていても退屈だ。

どこかで退室した方がいいかなと思いながら機会をうかがっていると、ドアが勢いよく開いた。


「あんたたち、どうして戻ってきたのよ。あ、失礼しました。」


入ってきたのはアリシアだった。ちょうど学校から帰ってきたところだろうか。


「アリシア。メリンダさまにご挨拶をしなさい。」


ナタリアさんに言われてアリシアが挨拶してたが、具体的な言葉は忘れてしまったので省略。それからすこし5人で話して、アリシアが退室するときに僕とマリアも便乗した。




別の部屋でアリシアの話を聞くと、僕とマリアの二人だけだと思ってやってきたらしい。少し八つ当たり気味に怒られたけど、適当になだめてからナタリアさんにしたのと同じような説明をした。つまり僕らがどうしてメリンダさんとやってくることになったのかという経緯で、今はマリアの首に巻かれている使い魔のセブンのことも話した。あとはアリシアにもらったハンカチをグリンダさんに見られたというのも言っておいた。


「まったく、次から次へと問題を起こしてくれるわねえ。」


アリシアが愚痴のようなことを言う。


「あとねえ、ミルアのなかみはおとこのこなんだよ。」


「何ですって!」


最初はミルアが見た目は女の子っぽいけど実は男だと誤解されてしまったのだけど、そこから問い詰められたり怒られたりしながら事情を説明して、なんとか理解してもらえたと思う。つまりミルアは女の子で、その身体を借りている僕の精神が男だということをだ。

理解してもらった後にけっこう怒られたのだけど、これは八つ当たりではなく僕の落ち度というか怒られる理由があるからまあ仕方ない。でもアリシアと一緒にお風呂に入ったりしたわけでもないのにどうしてこんなにもと怒られてる途中でちょっと思った。ただそういうことを言うとさらに怒られそうだったので、おとなしく怒られておいた。

僕が怒られるきっかけとなったマリアは、怒っているアリシアと怒られている僕をめずらしそうに見ていたけど、メイドさんがお風呂の支度ができたと呼びにきたときに僕にいっしょに入ろうと言って、今度は自分がアリシアに怒られていた。

僕はマリアにそれじゃあアリシアと一緒に入ればと言って、マリアがそれ以上怒られるのを防いだ。二人を風呂に送り出して、僕もなんとか解放された。



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登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、中身が僕では魔法はほとんど使えない。ボール型使い魔があれば少しは使えるようになった。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。甘い物好き。

メリンダ:眠りの魔女。一年の大半を眠ってすごしている。使い魔にセブンとアイちゃんがいる。お菓子好き。

グリンダ:メリンダの妹だけど、見た目は年上。メリンダはグーちゃんと呼ぶ。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。湖の街を治めるレイク家の当主夫人。

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