第129話 魔女とお昼ご飯

そのままメリンダさんとマリアは手紙の魔法の練習をしていた。実際に送るまではやらず、紙の周囲に魔力を集めて鳥の形にするところまで。

普通の手紙の魔法は簡単に出来るようになったマリアでも、高速便はむずかしいようだ。メリンダさんの話を聞いていると、先ほど成功したようにみえた手紙の魔法も魔力を使いすぎらしい。


「それじゃあ出来ても魔力を使いすぎになってしまうの。そのままじゃ私の100倍の魔力を使っても完成しないわよ。」


「わかった、もっとまりょくをだす。」


「そうじゃなくて、少ない魔力でできるように頑張ってちょうだい。使い魔をつくるのではないから、ずっと少ない魔力で手紙が届くまでのあいだ形をたもてればいいの。」


「わかった、やってみる。」


とまあこんな感じのやりとりをしながら、魔力の鳥をつくっては消しというのを何度も繰り返していた。


そこに、ワゴンをおしながらグリンダさんが近づいてきた。ワゴンには食器と鍋が載せられていた。


「お昼の用意ができましたが、こちらで食べますか?」


今の場所にも昨日お菓子を食べた東屋にテーブルがあって食事ができないこともないから聞いてきたのだろう。


「そうね、外の食事もいいかも。どうかしら?」


「やった~、おひるだ。」


マリアは元気よく返事をして、僕は軽くうなずくことで同意を示す。


昼食は洋風のお粥とでもいうのか、麦みたいなのや複数の穀物がやわらかく煮てあるものだった。地球の食べ物だとミューズリーを煮てミルクを加えたら同じようになるだろうか。


「ちょっとあまくておいし~」


マリアは気に入ったようで、まだ熱いのに木の器からぱくぱくと食べている。僕はほどほどに、そしてメリンダさんとグリンダさんは二人でなにか話しながら食べている。二人にはおなじみの料理のようだ。


「ひさしぶりだと美味しいわね、これ。」


「あら、私は毎日食べてるけど、それでも好きよ。」


とか仲良し美人姉妹の食事風景だ。見た目はグリンダさんの方が年上なのだけど、妹なのが不思議だ。SFだとコールドスリープなどで兄弟や親子の見た目が逆転というのがよくあるパターンだけど、魔法のある世界でも似たようなことがあるのだなあみたいにぼんやりと考えていた。


「もっとたべたい。」


はやばやと食べ終わったマリアがおかわりを希望する。立ち上がろうとするグリンダさんをメリンダさんが手で止める。


「アイちゃんにやってもらうわ。」


そしていつの間にかきていた使い魔のアイちゃんは、器用におかわりをよそってくれた。

メリンダさんはそれを見ていたけど、グリンダさんに向きなおって言う。



「あのね、アイちゃんのことなんだけど。」


「なあに?」


「グーちゃんにあげるから。」


「えっ。」


ニコニコして話を聞いていたグリンダさんの表情が固まる。


「もともと私たち二人のものだったのだし、使い魔になってからは私だけが使ってごめんなさいね。でもこれからはグーちゃんのものとしてかわいがってちょうだい。」


「そ、それはどういう意味なの。お姉ちゃん。」


メリンダさんは普段とかわらずなんてことないような調子で話しているが、グリンダさんは何か深刻そうな様子で、どうしてなのかは正直わからない。少なくともこのときはわからなかった。


「わたしがいなくなったらアイちゃんの面倒を見る人も必要だし。グーちゃんにお願いしたいの。あ、でも私がもどってきたらまた返してって言うかも…。」


これは多分、僕たちが湖の街に行っているあいだのことを頼んでいるのだろうと思っていた。旅行中にペットを預かってもらうとかそんな感じの。


「もう、お姉ちゃんったら…。」


こわばっていたグリンダさんの表情がすこしやわらいだような気がした。少し笑っているようにも見えたけど、これは苦笑いかそれでもなければ泣き笑いなのか。


「わかった。」


グリンダさんが続ける。


「アイちゃんのことは任されたわ。よろしくねアイちゃん。」


最後の言葉はアイちゃんにむかって言っていたようだ。アイちゃんは言葉は話せないけれど、人の話した言葉を理解することはできるみたいなのは僕も体験している。



「ミルアもおかわりするか。」


「いや、僕はもう充分。よかったらマリア食べれば。」


「そうする。」


マリアは最後のお粥をアイちゃんによそってもらっている。僕はなるべくゆっくり食べていたが、さすがにもう食べ終わっている。同様に食べ終わっているメリンダさんとグリンダさんは席を立ち上がり、アイちゃんのところに歩いていった。


「それじゃあグーちゃん、手を。」


「はい。」


そして二人でなにやらアイちゃんに魔力を送ったりしていた。多分あれで主をメリンダさんからグリンダさんに移管したのだろう。

主といえば、セブンは自分の主であるメリンダさんでなく、マリアの首周りを定位置にしてしまっている。セブンはナインのように食べ物を食べないみたいで、襟巻きみたいにおとなしくしている。マリアは最後のお粥を食べているが、口のまわりにも付いてしまっている。


「ほらマリア、口の周りが汚れてる。」


「ん」


僕がハンカチをマリアの口元に近づけると、こちらに口を突き出してきたので拭いてあげる。


「あらあら、やさしいお姉さんね。あらっ。」


グリンダさんがほほえましそうに声をかけてきたが、何かに気が付いたのか口調が変わる。


「そのハンカチはレイク家の。あなたたち、レイク家の人なの?」


僕は手にしたハンカチを見る。高級そうで何かの紋章みたいなのがかかれているそれは、アリシアにもらった物だった。


「あ、あの、これは友達にもらった物で…。」


しどろもどろになりながら、それでもそんなことを言うことができた。


「友達ということは、まさかナタリアじゃないだろうからアリシアね。そうするともしかして墓所が開いた時に聖堂を訪れていた姉妹というのは、あなたたちのことなのね。」


何かばれてしまってる。でもまだナタリアさんの考えた設定の範囲だからだいじょうぶか。


「ええと、私が聖堂を見学した時に開かなかった扉が開いたみたいなんです。」


「そうなの、偶然見学中に扉が開いたのね。あのお店に来たのも偶然で、お姉ちゃんが目覚めたのも偶然。これは…、なんてことなのかしら。」


グリンダさんは少し興奮した様子で、神様?か何かに祈るようなしぐさをしている。


「もうそのくらいにしておいて。その子たちは森でひっそり暮らしてるのだから、あまり詮索しないでちょうだい。」


というメリンダさんの言葉にも、


「そうなのね。やはりレイク家には隠された秘密が。今度じっくり聞かせてもらわなければ…。」


と何か誤解を広げてしまったかもしれない。


それからグリンダさんが何か用意があると席をはずした。メリンダさんは出かける用意としてカバンに着替えを詰めたりしているのだけど、何故かアイちゃんに手伝ってもらっている。さっき主の交代をしたのにと思ってみていたら、メリンダさんも主でなくなったわけではなく、グリンダさんを同等の主として登録しただけみたいだ。




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登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、僕では魔法はほとんど使えない。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。甘い物好き。

メリンダ:眠りの魔女。一年の大半を眠ってすごしている。使い魔にセブンとアイちゃんがいる。お菓子好き。

グリンダ:メリンダの妹だけど、見た目は年上。メリンダはグーちゃんと呼ぶ。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。湖の街を治めるレイク家の当主夫人。

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