第128話 魔女と手紙

メリンダさんは少し考えるようなそぶりをみせるとこちらを見て、それから妹にむきなおる。


「湖の街の聖堂での件はもう伝わっているかしら。」


「ええ、長いあいだ閉ざされていた墓所が開いたとか。調査隊も数日中に出発するはず。」


グリンダさんは話をしながら、こちらをちらちらと見てくる。ばれてる、なんてことはないか。ナタリアさんはマリアの事は知らせていないと言っていたのだから、マリアが開かずの間から出てきたのだということは伝わっていないはず。たんに正体のさだかではない美少女二人が気になるだけだろう。


「そう、私も調査に行くことにしたの。」


「えっ。」


「えっ。」


メリンダさんの言葉に、僕とグリンダさんは同じような驚きの声をあげた。しかしメリンダさんはそんなことは気にもしないように続けた。


「この二人は湖の街に詳しいみたいなので、いっしょに来てもらうことにしたの。」


グリンダさんがこちらを見たが、もちろん僕も初耳だ。しかし顔には出さないで平静をなんとか保つことができた。


「あの、こちらの二人は?」


とグリンダさんが当然の疑問をぶつけるがメリンダさんはそ知らぬ顔なので、とりあえず自己紹介しておく。


「僕はミルアといいます。そしてこちらが、」


「マリアだよ。」


「ええと、お二人は姉妹なのかしら。」


まあ見た目からして当然そうなるけど、どう答えるか。ナタリアさんの考えた設定の通りに姉妹で通そうかと考えていたのだけど、


「あのね、マリアの名前はミルアがかんがえてくれたんだよ。」


とマリアが秘密を暴露してしまう。

あわてて、


「えっと、姉妹ではないのですが血縁関係はあります。見た目は同じ年くらいだけど、生まれた年は結構ちがうんですよ。」


と嘘にならず、かといってすべてを明らかにもしない具合に説明をする。マリアが湖の魔女であれば直系ではないけどミルアの先祖になるはずだから血縁関係はある。そしてどちらが年上なのかは別として、生まれた年が結構違うのも本当のことだ。


「二人とも魔女よ。」


とメリンダさんのフォロー。たぶんフォローなんだろうと思う。


「そうなの。それでミルアさんは話し方が大人っぽいのね。」


グリンダさんは納得してくれたみたいだ。まあ実際はマリアの方がずっと前に生まれたわけなのだけど。

そういえばミルアも見た目よりも年上なのかもしれない。メリンダさんの見た目がグリンダさんよりも若いのはおそらく魔力のはたらきによるもので、ミルアも魔力によって若い身体をたもっている可能性もある。


「それでは3人を調査隊に加える方向で調整いたします。」


とグリンダさん。


「いえ、これから私たちだけで先に飛んで行くから。まあ、せっかくだからお昼ご飯くらいは一緒に食べてからにしようかしら。」


「もう、お姉ちゃんったら急に起きたと思ったら、また勝手なことを…。」


メリンダさんの言葉にグリンダさんは驚きと憤慨みたいな様子を見せたけど気持ちを切り替えたようで、


「わかりました。それではそのように手配します。また今回の目覚めについては対外的には発表せず、関係者ににとどめておきます。」


と真面目な、それでもまだ少し怒っているような口調で言った。


「よろしくお願いするわ。向こうの聖堂とあとナタリアには連絡する必要があるだろうけど、これは手紙を書いてくれたら私が送るから。」


メリンダさんは変わらずおっとりとしたやわらかな口調だ。しかし何だろう、これはすごく偉い人が使うていねいな言葉みたいなものなのかも。つまり言ったことが受け入れられるのが当たり前なので、きつい言葉を使う必要がないというような感じといえばいいのだろうか。



「あの、さっきの話はどういうことでしょうか。」


グリンダさんが去ったあとに、メリンダさんに聞いてみる。


「あら、ミルアさんが戻るというからご一緒しようと思って。私も飛べないことはないけど結構大変だから、昨日みたいに連れて行ってもらえるならその方が楽なのよ。ね、いいでしょ。」


「うん、いいよ。」


メリンダさんの最後の言葉を受けて、マリアが元気に返事をした。うーん、マリアはすっかりメリンダさんと仲良くなってしまったな。それはまあいいことなのか。

さっき僕が帰ろうとさそった時に一人で帰ればみたいにマリアは言ってたから、メリンダさんの湖の街訪問も事前に計画していたというよりはメリンダさん本人の言うとおり思いつきなのかなあ。


「わかりました。それではお昼ご飯を食べたら3人で湖の街に行きましょう。」



その後は、マリアにもらった黒いボールみたいな使い魔を使って魔法の練習をした。二人でなにやら難しい魔法の話や練習をしているメリンダさんとマリアを残して昨日の東屋がある中庭みたいな所にきて、小さな炎や水それに氷を出したりした。魔法を使うのには複雑な魔力パターン、たとえれば魔力のピアノで曲を演奏するみたいなことが必要なのだけど、このボール型使い魔に指令とともに魔力を流し込むと勝手に魔力の演奏が行われて、望む魔法が実行される。


「後は魔法障壁と飛行を試してみようかな。」


魔法障壁も問題なくつくれた。最初は透明なものを作って、それから光を通さないタイプにしてみたら中は真っ暗になった。それから光が障壁を避けて進むタイプ、これはこの街に来るときに使ったもので、魔法障壁や中の人がいるのが見えないようにする。これも特に問題なくできたけど、使う魔力は他の障壁よりもかなり多くなった。おそらく周囲から来る光を曲げる為に使われる魔力の分なのだろう。

見つからないタイプの魔法障壁をつくれたので、その状態で浮かび上がって周囲を眺めてみた。屋根くらいの高さまで浮かぶと、建物の周囲の様子や歩き回る人がいるのも見えた。

そのまましばらくフワフワしていたのだけど、こちらを見上げているような人に気が付いたのであわてて下りた。見えてはいないはずだけど、魔力を感じる力が強い人なら気が付かれたかもしれない。

そんな魔法の練習をしている僕の目の前を何かが横切った。鳥かと思ったけど、魔力も感じる。

僕の頭の上を周回しているそれに手を伸ばすと、手の中に飛び込んできて折りたたんだ紙に形を変えた。これは手紙の魔法か。


「やった、ちゃんととどいた。」


紙を広げて見ているところに、マリアがやってきた。


「これ、マリアがくれたの?」


僕は手に持った紙をひらひらさせて聞いた。紙にはミルアへという言葉と、猫の絵がかかれていた。猫じゃなくてセブンかな。


「そう、やりかたはわかったけどしってるひとにしかおくれないからミルアにおてがみかいたの。」


「使い魔がつくれたのだから不思議ではないけど、手紙の魔法も簡単にマスターできたわね。」


マリアの後からメリンダさんもやってきた。手には封筒を持っている。


「それじゃあ、今度は遠距離の高速便のお手本をみせるわね。」


そう言うと2通あった封筒の1つを宙に投げる。その周囲に魔力が集まり、鳥の形の光になるとそのまますごいスピードで飛んでいく。サイズも大きい。さっきのマリアのや、前に見たナタリアさんの所にきたのが鳩サイズならこっちは鷹サイズだ。


「こっちは、ナタリアに。」


もう1通の手紙が同じように鳥の形をした魔力の光に包まれて飛んでいった。


「大きい、ですね。」


と聞くと、


「そうね、普通のだと半日くらいはかかるから途中で追い越されてしまうでしょ。」


と教えてくれた。手紙の魔法の速度は、意外と遅いようだ。いや、マリアの飛行速度が早いのかな。





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登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、僕では魔法はほとんど使えない。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。甘い物好き。

メリンダ:眠りの魔女。一年の大半を眠ってすごしている。使い魔にセブンとアイちゃんがいる。お菓子好き。

グリンダ:メリンダの妹だけど、見た目は年上。メリンダはグーちゃんと呼ぶ。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。湖の街を治めるレイク家の当主夫人。

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