第121話 使い魔の頼み

『感謝する。』


大人の猫くらいのサイズになった使い魔が、魔力の声で言った。


「おおきくなった。」


マリアは使い魔が話したことよりも、大きくなったことに驚いているようだった。まあナインも話してたしね。そういえばナインが魔力を使うと体が減るというようなことを言っていたけど、この使い魔も魔力の使いすぎで体が小さくなったのだろうか。


『魔力を与えてくれた礼に、われが出来ることであれば何でもしよう。しかしわが主に害をなすようなことは出来ない。』


「そうなんだ。ミルアは何かしてもらいたいことある?」


マリアはとくに願いはないようで僕に話をふってきたので、僕から聞いてみる。


「そうだね、いくつか教えて欲しいことがあるのだけどいいかな。」


少し間があって、返答がきた。


『かまわぬだろう。われに魔力を与えし者の意に反しない限り、答えよう。』


なんというか少し固い口調だ。それに魔力を与えたマリアと、僕への対応にも差があるような感じがする。


「それじゃあ、まず君の名前を教えてくれるかな。僕はミルア、そしてこっちがマリア。」


「マリアだよ。」


『ふむ、あらためて魔力を分け与えてくれたことへの感謝を。マリア殿。』


続けて、


『さて、ミルアの問いにも答えよう。わが名はセブン。』


僕の質問にも答えてはくれた。しかしマリアはマリア殿なのに、僕は呼び捨てだ。


「ありがとうセブン。僕の知ってる使い魔にナインというのがいるんだけど、知っていたりするかな?」


セブンとナインというどちらも番号で呼ばれているということは何か関係あるかなと思ったのだけど、


『それだけでは何とも言えぬ。使い魔を番号で識別するのは誰でもやっていることなのでな。』


ということだった。


「でもそれだと同じ名前が沢山で混乱したりはしないのかなあ。」


『それぞれの主人が自分の使い魔を区別するには問題ない。誰の使い魔なのかを示す必要がある場合は、主人の名を先に付ける。われであれば、メリンダのセブンという具合だ。』


なるほど。つまり目の前のセブンの主はメリンダという人なわけだ。


『わが主は、われのことをナナちゃんとも呼んでいた。』


この重々しい感じで話すセブンがナナちゃんというのはイメージが違うけど、それを口にはしないでおいた。


「君の主であるメリンダさんに会わせてもらうことはできるだろうか。」


セブンは自分で考えて話すことができるのだからかなり高度な使い魔で、そんな使い魔を持つメリンダさんはすぐれた魔法使いなのだろう。だから会って魔法について教えてもらえるかもと考えての質問だ。


『それはできぬ。』


「そうか、残念だけどしかたないですね。」


ここでしつこく言ってもダメそうなので引き下がる。他に何か聞きたいことはと考えて、思いついたことを聞いてみる。


「僕らの知ってる使い魔のナインは人間みたいに食べ物を食べるのだけど、セブンはそういうことはしないのかな。」


『ふむ、できぬことはないが、しないな。』


「おかし、おいしいのに。」


マリアが会話に入ってきた。


『お菓子か。われは食べぬが、わが主は好んでいた。』


「そうなんだ。ナナちゃんのあるじって、もしかしてねむりのまじょかな。」


マリアの言葉におどろいたが、言われてみればそうかも。つまりセブンがあんなに小さな魔力を失った状態だったのは、主人が魔力を補給することが出来ない状況だとするとしっくりくる。しかし、そんなにストレートに聞いても大丈夫なんだろうか。

マリアは続けて、


「わたしもながいことねむってたんだよ。ミルアがおこしてくれたんだ。」


と、これまた驚くようなことを言い出す。マリアが出てきた開かずの扉を開けたのが僕の魔力だというのはまあ間違いのないところだろう。そして奥から出てきたらしいマリアが、中で冬眠のような活動停止状態だったというのも、たぶんそうなんだろうと思っていた。そのマリアを目覚めさせたのも僕の魔力だというのだろうか。

あれ、そもそもなんで眠っていたはずのマリアがそんなことを知ってるんだろう。

そう思ってマリアの方をみたが、セブンと仲良さそうに話していた。


『なるほど、そのプリンとやらがすごくおいしいと。』


「そうなの。ミルアがつくってくれたの。ミルアはおかしつくりもすごいんだよ。」


僕の話というか、お菓子の話か。

しかし、それだけではなかったようだ。僕がひとりであれこれ考える間にマリアとセブンの間で話されたことによって、変化がもたらされたようだった。


『ミルア殿。』


「なんでしょう。」


セブンの言葉に、すこし身構える。


『わが主と会っていただきたい。そして目覚めのために助力をお願いしたい。』


そうきたか。でもさっきは会わせることはできないと言っていたのに、どうしてなんだ。


「あのね。」


考え込んでいる僕にマリアが言った。


「ナナちゃんのあるじのメリンダさんはねむりのまじょなんだって。だからわたしのときみたいにミルアがまりょくをばーって送ればめがさめるかもっておもったの。」


「その、マリアの目が覚めたのは、僕が魔力を送ったせいなのかな。」


「そうだよ。ミルアのおかげでめがさめたの。」


「でも、前はそんなこと言ってなかったような。」


それに出会った直後に炎の魔法で攻撃されたような記憶もある。


「んーと、だんだんおもいだしてきたというか、おくられてきたミルアのまりょくがおしえてくれたの。」


魔力が教えたというのはどういうことだ。魔力が単にエネルギー的なものだけではなく、情報もいっしょに伝えたりもしているのだろうか。使い魔と話すときの魔力による意思の伝達の時ならばわかるけど、それ以外のときも何か伝わっていたりするのか?


「だからこんどもミルアのまりょくでうまくいくとおもうの。」


自分の考えにふけって黙っていた僕に、マリアが言葉をかける。


「うーん、できるかどうかわからないけど、やってみようか。わかったよ、メリンダさんに会おう。」


あまり考えてもしかたがないかと思い、とりあえずマリアとセブンに了解したむねを伝える。


『感謝する。ミルア殿。』


「よかったね、ナナちゃん。でもいくまえにおひるごはんはすませてからね。」


そんな感じで眠りの魔女がいるという大聖堂に行くことになったのだけど、セブンの話によれば裏口みたいなのがあるそうなのでそこから入ることになった。

そしてマリアが言った通り、昼食の続きとして持って来ていた果物を食べてからの移動になった。移動前にいちおうトイレにも行っておいた。



なるべく人目につかないように木のかげに移動してから、マリアが魔法障壁を展開する。これで外側からは見えなくなったので、そのまま空中を移動して大聖堂へと向かう。


セブンの示す方向に飛んで行くと、石造りの大きな建物が見えてきた。あれが大聖堂だろう。周囲を囲むフェンスや門は飛び越えて、いくつかある建物の一つに向かい、人目につかなそうな場所に下りる。目の前の壁に、目立たない感じのドアがある。


『そこから奥に直接行くことができる。』


セブンがそう言って魔力を送ると、ドアが開いたので中に入る。マリアが出てきた開かずの扉の向こうは真っ暗だったけど、ここは明かりがついている。

そしてセブンのあとをついてしばらく進むとまたドアがあり、その先に小さな部屋があった。そこには前にみたチョッキを着たぬいぐるみのような使い魔が立っていた。


『メリンダさまにお客をお連れした。』


セブンがそう言うと、こちらに軽く頭を下げてドアを開けてくれた。その先にある広い部屋にあるベッドの上に横たわっている女の人がメリンダさんだろう。


「きれいなひと。」


とマリアが言った通り、美しい大人の女性だった。

マリアが僕にそっくりだったことから、もしかしてと思っていたのだけど、メリンダさんは僕らに似ていなかったので少し安心した。念のために書いておけば、マリアやミルアの外見も美しくないわけではもちろんなく、美少女といっていいだろう。



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