第114話 プリンと別れ?

「疲れた~。」


部屋に戻るとベッドに腰かけ、そのまま横になる。


「ミルア、どうしたんだ。ケーキをもっとたべたかったのか。」


マリアが心配してくれてるのだろうけど、すこしずれたことを言った。


「いやケーキはあれで充分だけど、いっぱい話をしたから疲れたのかな。」


「なるほど、わかった。」


ナタリアさんがマリアのことを手紙に書いていないとは意外だった。聖堂の開かずの扉から現れた謎の人物なのだから、もうちょっと警戒しても良さそうだけど。

でもそれを言ったら僕らをこの屋敷に連れてきたアリシアとノーランだってそうなのだから、二人から話を聞いたナタリアさんも、まあ好意的なのだろうと判断しておく。

しかしそうすると聖堂の開かずの扉が開いたというのだけでも、魔法で連絡をするほどの事件ということになるのか。そういえばあの扉が開いたのは僕が魔力を送ったせい、なんだろうなあ。


「ミルア、ねてるの。」


「いや、ちょっと考え事してただけ。」


「ごはんまだかな。」


「どうだろう。でもさっきお菓子たくさん食べてたよね。」


「うん、おいしかった。とくにうえにのってるきいろのクリームが。」


「あれはカスタードクリームかなあ。あれが好きならプリンとかも好きかもね。」


何の気なしにそう言ってしまったので、プリンを食べたいと騒ぐマリアをなだめるのに苦労した。

すぐに昼食なのでまずは御飯を食べて、その後でプリンがあるか聞いてみると約束してなんとか納得してくれた。




昼ごはんは、麦や野菜がスープに入った水分が多めのリゾットみたいなのを食べた。他に緑色のイクラみたいなものもあり、何かと思って食べてみたら柑橘系のフルーツだった。味は普通だけど、食感が面白かった。


「プリン、ですか。」


食事が終わってから、メイドさんにプリンという料理を知らないか聞いてみる。


「はい、卵と牛乳を使っていて、容器に入れて固めたお菓子なんですが。」


材料の説明もしてみたが、そのメイドさんにはわからないらしく、厨房に聞きにいってくれた。


「卵とコンソメを混ぜて固める料理はあって、それに生クリームを入れたりすることもあるけど、牛乳を使うお菓子は知らないねえ。」


厨房担当のメイドさんも知らないようだった。


「そうですか。」


「プリン、プリン食べたい。」


後ろでマリアが騒いでる。プリンなら卵と牛乳に砂糖を良く混ぜて加熱するだけでいいはずだから、自分でも作れるかなあ。


「つくり方を知ってるなら試しにやってみるかい。うまくいったら新しいレシピも増えるんだし、こっちにとってもありがたいよ。何しろこの屋敷の奥様にお嬢様は甘いものが好きでねえ。」


一緒に作ってくれることになったので、材料と手順を説明する。使うのは卵にミルク、砂糖だけだ。卵は野菜売りのマーサも売ってたし、普通に流通しているみたいだ。ミルクも少し味見してみたけど牛乳とそう変わらない。砂糖は少し色がついていて、三温糖に似ている。


「造り方は材料を混ぜてからフタのある容器に入れて加熱するだけです。良く混ぜてから網でこすとなめらかになっておいしくなります。」


そんな説明をしながら卵を割り、砂糖と牛乳を加えてよく混ぜる。牛乳の量は卵1個につき小さめのコップ1杯にした。少ないと固くなるし、あまり多すぎると固まらないけどある程度は好みで変えられる。砂糖の量も味見して決めた。手の甲に液を少し垂らしてなめてみる。まあこんなもんか。


「マリアも食べる~。」


「はいはい、手をだしてね。」


マリアの出した手にも味見用の液をちょんちょんと乗せてやる。

それを用意してもらった容器に分け入れる。茶碗蒸しみたいな料理はあるようなので、それに使うフタ付きの入れ物を出してもらった。


「あとは加熱して固まったら出来上がりです。温かいのもおいしいですけど、冷やして食べるとさらにおいしくなります。」


「はいよ、それじゃあ、あとはまかせておくれ。」


そう言われたので厨房担当のメイドさんにまかせることにした。出来上がって冷やしたものをおやつとして出してくれるという。


「プリンたのしみ~。」


マリアはかなりプリンに期待しているようだ。その期待に答えられるだろうか。




「何これ、おいしい。」


これはアリシアの言葉。学校から帰宅したアリシアにプリンのことを話したらいっしょに食べることになった。アリシアの服装は初めて会った時みたいにフリルが多めの服だ。昨日は学校から市場に直行したみたいだから、学校に行く時はこういう感じの服装なんだろう。

マリアはというと、何も言わずにもくもくと口を動かしている。


程よく冷えたプリンは固さもちょうどよかった。加熱しすぎると固くなったり中に泡のような空洞が出来てしまうのだけど、そういうのもなく滑らかな食感だった。これはお任せして正解だった。

自分だけだったらどのくらい加熱すればいいかわからなかったけど、似たような料理ならつくったことがある厨房担当のメイドさんの経験がうまく発揮されたというところだろう。


アリシアといっしょに戻ってきたナインも小皿に分けたプリンをなめるように食べているが、ナインとしてはあまりお気に召さないようでこんなことをこっそりと伝えてきた。


『味はいいけど歯ごたえがないよ。』


『まあ好みによるよね。でもナインはアリシアと行った学校で、いろいろ食べてきたんでしょ。』


と口には出さずにテレパシー的なもので伝えたら、黙ってそっぽを向いたので図星のようだ。


「ナインは学校でおとなしくしてましたか。」


アリシアにも聞いてみた。


「人気者だったわよ。みんなからお菓子をもらったりしてた。先生からもよ。」


「そうですか。それはまあよかった、のかなあ。まあ迷惑にならなかったのなら良かったです。」


ナインは僕の使い魔というわけではないけど、いっしょにこの町に来たということもあるのでその行動には多少の責任があるだろう。


「それはそうと、聖堂の開かずの扉を調べに調査隊が来ることになったようね。」


「そうみたいです。」


お昼前にナタリアさんの所に来た手紙に書いたあったことだけど、アリシアにもナタリアさんから連絡がいったのだろうか。


「あんたたち、どうするの?」


どうするのっていうのは、調査隊が来たらマリアのこととか調べれられてしまうけど、ということだろう。


「どうするのって、言われても。どうしたらいいんでしょう。」


「ああ、もう。あんたたち、街を出て行きなさい!」




**********************************

登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、僕では魔法はほとんど使えない。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。

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