第115話 転生マシンと帰宅


「いきなり街を出て行けはひどいなあ。」


夕食の席でノーランが言った。昨日と同じ4人で食卓を囲んでいる。ナタリアさんはまだ体が本調子ではないとのことだった。


「いえ、びっくりしましたけど、私たちのことを思ってのことだというのは少し考えたらわかりましたから。」


アリシアの為に、いちおうフォローらしきことを言っておく。


「そうなのよ。ノーランだって、そのためにマリアのことを誤魔化したんでしょ。」


「あれは母さんのアイデアだけどね。」


ナタリアさんが首都に送った手紙にマリアのことが書いていなかったのは、開かずの扉の向こうから現れたということを隠す為で、マリアはミルアつまり僕の妹ということにしてしまうという計画だ。

アリシアの友人であるミルアが妹のマリアと一緒に街を訪れて、聖堂を見学している時に偶然にも開かずの扉が開いてしまった。マリアが好奇心から中に入って、出てきた所を警備員と鉢合わせした。

とまあ、こんなシナリオでマリアとミルアは偶然その場に居合わせはしたものの、開かずの扉が開いたことには無関係ということにしてしまう。

ナタリアさんから連絡を受けたノーランも、聖堂の責任者にそういった方向での説明をしておおむね受け入れられたみたいだ。扉を開けた人と中から出てきた人が偶然そっくりだったなんていうのよりも、姉と妹だという方がありそうな話だし。

僕とマリアが魔法で戦っていた件も、幸いにしてマリアの攻撃が弱まってきた後の方しか目撃されていなかったみたいで、姉妹喧嘩ということで片付いたらしい。


「僕たちだって、先にミルアと会っていて妹などいないと知っていなければ、この話の方がもっともらしく聞こえるよ。だからまあそんなに心配することもないかもしれないのだけど、念のために調査隊が来ている間はこの街から離れていた方がいいということなんだ。」


ノーランはそんな感じの説明をした。


「しばらくしたら、また遊びに来なさいよ。」


アリシアもそんなツンデレっぽい言い方で、また来るように言ってくれた。でもしばらく後だと一時転生は終わってしまうかなあと考えて、そういえば今回の転生期間や代償はどうなんだったかというのが頭に浮かんだ。




部屋に戻って寝る準備を済ませて、ベッドの上。昨日と同じく隣にいるマリアは、すやすやと眠っている。ベッドは2つあるのだけど、マリアとしては一緒のベッドで寝ると決めているらしい。

暗くなった部屋で転生直前のことをミルアの記憶から思い出そうとするけどうまくいかない。そういえばこの世界の照明は、電気ではないけどガスとかの火でもないのだなあと余計なことを考えてしまった。

壁に取り付けられている明かりは、暗くなると勝手に光りだす。メイドさんに教えてもらった話では、昼に光を吸収して暗くなると光るらしい。地球にも夜光塗料というのがあるけど、それのもう少し明るい物といった感じだろうか。外の光が入りにくい場所にある器具は、昼は取り外して太陽ににあてておいたりする必要もあるらしい。

暗くなると勝手に光るので、スイッチでオフにすることはできない。代わりに光が出てこないようにカバーをかけることができる。今はカバーがかかっている状態で、隙間から漏れてくる光で部屋の中にある物がなんとか見える。


しかし今はそんなことを考えてる場合じゃないと思いなおし、こんどは転生マシンへ問い合わせをしてみる。自動でやった転生条件の確認時の記録が残っているはずだからだ。


転生期間:自由

受け入れ条件:なし


これが転生マシンから返ってきた記録だ。通常は期間は一週間くらいとか、受け入れ条件は場合によるけど地球のことを教えるとか、かわりに学校で勉強するみたいな、何か知識や行動で対価を支払うことになる。僕が転生マシンを手に入れたのも、他からの転生を受け入れるときの報酬として要望した結果だ。

しかしミルアは何も要求していないし期間についても自由ということは、極端なことをいえばずっとこのまま転生を続けてもいいことになる。

さらに詳しく記録を確認すると、ミルアは転生マシンからの呼びかけに特に驚くことも無く対応して受け入れたとのことだ。頭の中に言葉を届けるのはこの世界だと魔力で可能だから驚かなくてもいいとして、転生にも反応しなかったとすると転生も存在したりするんだろうか。

とりあえず一時転生に関する期間や条件についてはわかったのでよしとして、眠りについた。




翌朝は朝食が済むと早々に馬車で街をあとにした。別に歩きでよかったのだけど、ノーランに言われて馬車に乗っている。買い物もしたかったのだけど、それも止められた。僕らが街の中で目撃されることを減らそうということだと思う。

代わりにということなのか、食材や調味料などを分けてもらえた。野菜や干した肉、それから塩や砂糖、ハチミツなどもあって、自分で買うよりも多いくらいだった。

馬車は川沿いの道を進み、途中で川からそれる場所で降ろしてもらった。


「それじゃあ、私の家はこっちなので。」


一緒に来てくれたメイドさんに別れを言って、土手の上を歩いていく。隣のマリアも背中にカバンを背負っている。中に入っている服や食べ物と同様に、もらったカバンだ。


「おひるごはん、たのしみ~。」


カバンには弁当も入っている。


「たぶん昼までには付くから、そうしたらご飯にしようね。」


しばらく歩いていくと、小さな川が合流する場所に来た。2日前はここを降りてきたので今度は逆に登っていけば森の家の近くに行ける。小さな川の横はちゃんとした道ではなく、せいぜいあまり整備されていない山道といった感じで岩や倒木だらけなのだけど、数日前に来た道なので通るのに問題ないことはわかってる。マリアも身軽に、大きな岩などを乗り越えている。

ナインはときどきは自分で歩くけど、だいたいは僕の肩に乗っている。


「そうだ、もう普通に話してもいいよ。」


肩のナインにそういうと、


「わかった。でも特に話すこともないのだよね。」


のように答えた。マリアは特に変った様子も無く、後を付いて来ている。


「もうすぐ家につくよ。」


見覚えのある川原から上がっていく道を見つけたところでマリアに声をかけた。


「やった、おひるごはんだ。」


森の中の道を少し歩くと、二日ぶりの家に到着した。

ごはんごはんとうるさいマリアを待たせてお湯をわかすことにする。水瓶に水は残ってたけど二日前のだから水筒の水を使った。薪に火をつけるのも二日ぶりだけど魔力の扱いは前より上達したみたいで、空気を圧縮しての着火もほとんど意識しないで簡単にできた。

もらってきた干し肉やソーセージみたいなのもついでに煙がかかる場所につるしておく。軽く燻製にした方が風味がよくなるのと日持ちがするだろうと思ったからだ。

そんなことをしているうちに鍋の水が沸騰したので、そこに飴玉みたいに固められたお茶の葉を入れると、ゆっくりとほぐれていき見覚えのある赤っぽいお茶になった。このお茶ももらってきたものだ。


「おまたせ。」


コップに入れたお茶を、テーブルで待ち構えているマリアのところに持っていく。

マリアは弁当を包んだ布を開いて待っていた。中身はパンに肉や野菜などがはさまったサンドイッチだった。

サンドイッチを食べ終わってから、裏にある木になっている果物を収穫してデザートにした。ナインのリクエストでミルクの実もとってきた。前と同じようにナインの魔法でカットしてもらって中のミルクを出してみんなで飲んだのだけど、マリアが面白がって同じように魔法でスパスパカットしたり、丸い穴を開けたりしてた。

これだけ自由に何でも切れるなら、ベッドなんかも作れるかもと思った。この家にあるベッドは丸太を井桁に組み合わせた簡単なつくりなので、木を切ることさえできれば同じものが作れそうだ。

まあもう一つベッドが出来たとしても、マリアが別に寝るのかという問題はあるのだけど。



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登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、僕では魔法はほとんど使えない。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。甘い物好き。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。


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