第113話 奥様は魔女

メイドさんに案内されて部屋に入った。部屋には案内してくれたのとは別のメイドさんと奥様らしき人がいた。スラリとした女の人で、ゆったりとした服を着ている上からでもはっきりとわかるくらいに痩せていた。そしてアリシアと同じかそれ以上の魔力を発していた。


「こんにちは。お招きにより参上しました。」


「さんじょうしました。」


こちらから挨拶をすると、マリアも一緒に挨拶した。


「お二人のことはアリシアから聞いています。あなたがミルアさんで、こちらがマリアさんでいいかしら。」


「はい、わたしがミルアで、」


「マリア。ミルアに名前を付けてもらったの。」


「そうなの。こちらにどうぞ。」


すすめられるまま椅子に座る。部屋にいたメイドさんがお茶の用意をしている。

お茶とお菓子が配られる。


「どうぞめしあがれ。」


さっそくマリアがお菓子に手を付ける。フルーツケーキのようなものにクリームがかかっている。

お茶は朝にもあった赤っぽくてあまり苦くないものだった。マリアの好みに合わせたのかな。


「私はアリシアとノーランの母でナタリアといいます。」


「ナタリアさん。」


「ミルアさんとマリアさんが昨日いらした時には、横になって休んでいたので挨拶が遅れてしまいました。」


夕食の席にもいなかったのは、体調が悪かったからなのだろうか。しかし僕らのことはどこまで聞いているのか。


「えーと、アリシアは、わたしたちのことはどんな風に言ってましたか?」


「沢山聞かせてくれたわ。あの子があんなに話すのは珍しいくらい。ミルアさんがアリシアでも苦労してた馬車を楽々持ち上げたことや、ノーランに魔力を送っても全然疲れた様子を見せなかった話とか。」


「そうですか。」


「そうそう、果物をもらった話もあったわね。私もいただいたけど、すごくおいしかった。魔力も沢山含まれていて、おかげで身体の調子が少し良くなったほどよ。」


「ああ、あの果物はわたしの家の近くから取ってきたものなんです。」


「そうみたいね。そういえばミルアさんはうちに泊まることになって、ご家族は心配していないかしら。」


ちょっとまずい方向に話が行ってしまった。森で1人で暮らしてることは言っていない。


「ええと、大丈夫だと思います。マリアのことも聞いていますか。」


「聞いてるわ。聖堂の開かずの扉から出てきて、警備員達を吹き飛ばしたんですってね。」


「ええ、でもそれは警備員が先に警棒を振り上げて攻撃しようとしたからみたいです。」


いちおうマリアの弁護もしておく。


「それも聞いたわ。そしてそれからミルアさんと魔法で戦ったとも聞いてるけど。」


「それは本当です。でも今は仲良くなりました。」


そう言って隣のマリアを見たが、我関せずという様子でケーキを食べていた。2個目かな。

マリアについて聞かれたけど、本人も知らないので答えようが無い。開かずの扉の奥がどうなってるのかは、これから調査されるということだ。調査にはノーランも関わっているようだ。

アリシアはどうしてるのか聞いたら、何と学校に行ってるとのこと。言われてみれば年齢的に学校に行っていても不思議はない。昨日は強い魔力を持つ不審者に対応するために、ノーランが学校に呼びに行ったらしい。


その後は世間話的なことを話した。記憶に残ってるのはナタリアさんの夫、つまりアリシアとノーランの父親でもあるのだけど、知事兼国会議員みたいな仕事をしていて今は首都に行っているらしい。

他には個人差はあるけど体力は男の方があるのと逆で、魔力は女の方が強いことが多いみたいなことや、魔力の使いすぎは身体に良くないというのを話してくれた。

運動と同じで、適度な魔力使用は良いのだけど、使いすぎると身体に負担がかかるのだろうか。ナタリアさんも若い頃の魔力使用のせいで、今はあまり健康ではないみたいだ。


「まあ今でも普通に生活する分には何の問題もないのだけど、昨日は手紙をたくさん出したから。」


ナタリアさんはそう言いながら、ケーキを口に運ぶ。痩せた見た目からは意外に、食欲はあるようだ。


「手紙というと、魔法で送ったのですか?」


ナインに聞いた話だと手紙を鳥のようにして飛ばす魔法があったはずだ。


「うふふ、久しぶりに魔女らしいことをしたのよ。」


やはりそうだ。しかし身体に負担をかけても急いで伝えないといけないようなことがあった、のか。

マリアはまだケーキを食べてる。何個目だ。今の姿をからは昨日のあれを思わせるものはないし、別に危険ではなさそうに見える。

でも手紙の内容は十中八九マリアのことだろう。

なので、


「どうもお手数をおかけします。」


みたいなことを言ったのだけど、それを聞いたナタリアさんは少し変な顔というか真面目な顔になった。

けれどすぐに笑顔に戻り、


「ふふ、それは言葉通りにうけとっておくことにするわ。」


と言い、


「それにしてもミルアさんが昨日初めてマリアさんと会ったとは信じられない。まるで妹のことを心配するお姉さんみたいよ。」


と続けた。

まあ見た目もそっくりだし、何か関係があると思われてもしかたがない。でも本当にミルアの記憶にも思い当たるものがない。


パタパタ、鳥の羽音みたいな音とともに窓から何かが飛び込んできた。鳥かと思ったそれはナタリアさんの上げた手に向けて飛んで行き、紙になった。あれが手紙の魔法か。


「あの、わたしたちは席を外しましょうか。」


魔法で手紙を送ってきたということは、急ぎの用事のはずだ。なので礼儀的な面から一応はそう言っておく。


「いえそのままいてちょうだい。失礼して手紙を読ませてもらうけど。」


ナタリアさんは手紙に目をはしらせている。その間に手をつけていなかったケーキを食べることにする。フォークで切り分けて小さくしたものにクリームを付けて食べる。ケーキにはフルーツだけでなくナッツも沢山入っていた。クリームはカスタードクリームみたいだけど柔らかめで、生クリームも混ぜてあるかも。

ひと口食べたところで横からの視線を感じてマリアの方を見ると、マリアもこちらを見ていた。マリアの前には空になった皿。


「半分あげるね。」


そう言って、マリアの皿に半分に切ったケーキとクリームを乗せるとうれしそうに食べ始めた。



「しばらく聖堂の調査はおあずけね。首都から調査隊がやってくることになったわ。」


ケーキを食べ終えた頃にナタリアさんも手紙を読み終わったようで、そんなことを言った。


「あの、マリアの事は何か書いてませんでしたか。」


調査隊が来るということは、マリアについても調べるはずだ。そう思って質問したのだけど、意外な答が返ってきた。


「いいえ、何も書いてなかったわ。だって、マリアさんのことは何も知らせていないもの。」



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登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、僕では魔法はほとんど使えない。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。

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