第102話 使い魔ナイン

魔法についてのナインの話は、記憶にあるものとだいたい同じだった。とはいってもいつもの通りで自分の記憶ではないから何かきっかけがないとなかなか思い出せない。今回はナインの話を聞くことで関連する記憶がアクセス可能になったというわけだ。

魔力を適切なパターンで組み合わせることで望む結果を生み出すのが魔法で、たとえば水を生み出したりすることができる。作り出した水で手を洗ったり飲むこともできるのだけど、魔法で作り出した水は本物ではなく少し時間がたつと消えてしまう。水は消えてもきれいになった手はそのままだし、飲んだ水の効果もそのままのようだ。

手がきれいになるのはいいとして、飲んだあとに水が体内で消えたら水分補給にはならないような気がするけど体内では消えるまでが長くなるのと、消えた後も魔力として身体を維持するみたいだ。

ケガの治療なども魔力によって作り出された皮膚などが体の一部になることで普通ではありえないほどの短時間で傷がなおる。これも水と同じでいつかは消えるのだけど、最初にこめる魔力の量と怪我をした本人の魔力によって本来の肉体が再生するまでは保持される。

魔力による体力回復効果というのもある。今の身体の持ち主であるミルアがあまり食事をしていないみたいなのや、今もお腹がすいた感じがしないのは魔力による回復なのだろう。これとは逆に食事での体力回復で魔力が回復する効果もあるようだ。

ナインがミルクを飲みたがったのも、食事による魔力の回復目的なんだろう。このように体力と魔力は相互に関係していて、ゲームのようにHPとMPが別にあるという感じではない。

それからミルクの実の固い殻を簡単に切り落とした魔法だけども、あれは魔力を持つ相手には使えないということだったのでちょっと安心した。でも魔力を持つ相手に対する攻撃手段が無いということでもないらしい。


ナインについてだけど、本人の言うことを信じるなら使い魔としてつくられたのだけど、今は自由に生きているらしい。体の大半が魔力なので、魔法を使うと身体が減ってしまうので魔法は極力使わないようにしてるそうだ。さっきのは僕の魔力を使ったので平気らしい。

使い魔というのは魔法の一種で生物を模したもの、ただしある程度の継続性もあるもののことらしい。例えば手紙を送るのに紙を鳥のように飛ばす魔法があるけど、これは相手に届いたらすぐに消えてしまうので使い魔ではないらしい。これが定期的な手紙のやり取り用につくられた魔力の鳥だと使い魔になる。

使い魔は手紙を送り返す場合などには主人以外からの依頼を受けることもあるので、簡単な応答はできるが人間ほどの知能を持っていることはほとんど無いようだ。

ナインについては簡単な会話は出来るけど、この世界の人間がどういった社会を構成しているのかといった質問には答えられない。自分の食べるものや魔法については詳しいけど、他はあまり興味がないんだろうか。


「ナインはミルクの他にはどんなものが好きなのかな?」


社会に関する質問がダメだったので、身近なことから聞いていくことにした。これは今後の僕の食生活にもかかわってくる。


「ミルクが一番だけど、魚も好きかな。」


「魚は生で? それとも焼いたのとか。」


「とれたてならそのままでもいいけど、焼いたのや燻製もおいしいよね。」


焼いた魚や燻製を食べるということは、誰か人間といっしょにいた時の食事だろう。使い魔なのだから当然誰か造り主がいるのだろうけど、そこらへんの質問には答えてくれない。禁則事項なのか単に忘れてるのか。


「魚かあ。それじゃああとで採りに行こうか。」


「いいね。料理した魚とか久しぶりだ。」


やはり主からはなれてだいぶたっているのだろう。



魚をとりに近くの川に行くことにした。とった魚を入れるカゴや、塩、スパイスらしきものなども持っていく。

魔力の腕を川の中まで伸ばしてつかみ取りのようにして魚を捕まえようとしたけど、なかなかうまくいかなかった。目には見えない魔力の腕であっても、魚にはわかるみたいで逃げられてしまう。囲む範囲を広くしてやっと一匹捕まえることが出来た。


「ダメだなあ。」


ナインがばかにしたように言う。

少しむっとして、


「じゃあキミがやってみるかい?」


と言い返すと、


「わかった。また魔力をもらうよ。」


とナイン。僕の肩にのったまま身体から細い糸のような魔力を伸ばす。肩がほんのり温かくなったのは、魔力が集中してるのだろうか。

細く伸びた魔力が川の中に入り、少しすると先に魚をくっつけて戻ってきた。また川に入り、魚を引き上げる。なんと言うか釣りでいう入れ食いみたいな感じでまたたくまに大小さまざまな魚10匹ほどを釣り上げた。


「すごいね~。」


と感心して言ったが、


「こんなのは魔法ともいえない初歩の魔力操作だよ。」


と、なんでもない様子。


それから魚をさばいて内臓を出して洗い、塩とスパイスをすり込んでからヒモで木の枝からぶら下げて乾かしておく。小さな一匹だけはそのままナインが食べていた。魚を食べているところは、まるっきり猫みたいだ。

ぶら下げた魚には魔力で風を送ってなるべく早く乾くようにする。僕でもこのくらいはできる。


魚を食べ終わったナインは、川の近くをピョンピョンと飛び回って遊んでるようだった。少ししたら日当たりのいい河原で丸くなっていて、これまた猫みたいだなと思った。

僕はというと魚に時々風を送る以外には、さっきの魔力を細い糸みたいにして伸ばすというのを試してみた。同じ量の魔力を使うと細いほうが密度が上がるからか、強度みたいなのはアップするみたいだ。ただナインがやったみたいに糸のように細くというのはむずかしく、僕の場合はせいぜい魔力の腕が魔力の指になった程度だ。

その魔力の指をつかって、ナインのからだをなでてみた。実際の指とは違うのだけど、猫や犬の毛皮をなでているのとも似て気持ちいい感触はある。ナインの方もさわったのに気が付いてはいるけど特に逃げたりはしないので、まあ気持ちいいのかな。

しばらくのんびりとして、魚の表面が乾いてきたのでカゴにいれて小屋に戻ることにした。


煙でいぶすのは、カマドの煙突の部分にそういう場所が付いていたので使わせてもらう。カマドの煙が出てゆくレンガの煙突の横に金属製の扉があり、そこを開けると中に物を置いたりぶら下げたりできるように金属の格子が付いている。格子に付いたフックに魚をぶら下げると扉をしめる。

そしてマキのなかからいい匂いの木を選んで着火の魔法で火をつける。


「面白い魔力の使いかただね。はじめて見たよ。」


ナインがそんなことを言う。

あまり火を強くすると焼き魚みたいになりそうなので、なるべく小さめの火を保って煙が少しずつ流れていくようにした。

出来たてを一匹ずつ味見したけどかなりおいしかった。ナインはもっと食べたがったけど、夕食まで我慢するように言うとおとなしく引き下がった。


夕食は昼と同じようなイモとハーブのスープに燻製の身を少しいれてみた。あとは裏庭からとってきたミルクの実やフルーツなど。もちろん燻製も食べた。そのままと焼いたのを食べ比べたけれど、どちらも甲乙つけがたいほどの味。ナインとふたりで全部食べつくしてしまった。


ベッドで寝るときに、今日は一度もトイレにいっていないことに気が付いた。朝にトイレの場所は確認したけど見ただけで使ってはいない。大はともかく小も行かないなんてこの身体は大丈夫かなと思ったけど、体調としては特に問題ない。


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