第100話 魔力の腕と身体

「はあーーーっ!」

そんな掛け声とともに両腕を前に突き出すと、少し離れた場所にある木の枝の葉っぱが一枚吹き飛ぶ。ようやく魔力で圧縮した空気を遠くまで打ち出せるようになった。

練習しているうちに魔力を感じることもできるようになってきた。普段は身体全体を覆うようになっている魔力は、意識によって動かすことが可能だ。これは身体を動かすのと同じような感じと言えばいいのだろうか、手足を動かすのに特別なことが必要ないのと同じように魔力の腕や足のようなものを動かすことができる。ただ魔力は身体のように決まった形があるわけでもないので、魔力の腕とかいうのは僕がイメージしやすいように勝手にそう思っているだけだ。


空気を圧縮して打ち出すのには、両手を少し間隔をあけて向かい合わせにして魔力の腕でおにぎりのように空気を圧縮するのが第一段階。

そのまま両腕を前に出すのと同時に、魔力の腕ごと前に飛ばすのが第二段階。

そして目標に当たったら魔力の腕を消して、圧縮した空気がもとに戻る勢いで吹き飛ばす。

吹き飛ばすといっても今のところは木の葉を一枚弾き飛ばす程度の威力だ。もっと大量の空気を圧縮できれば威力は高くなるのだと思う。


圧縮した空気は目に見えないのだけど魔力は感じられるので、打ち出された空気を覆う魔力がかすかに光っているのは見ることができる。細かく言うと目で見ているのではなく、魔力の感知結果が視覚に追加されているようだ。これは目を閉じていても魔力が感じられることからわかった。

目をつぶった状態では自分の魔力だけでなく、周囲の木などもかすかに見えるというか感じられる。これは木も魔力を帯びているということなんだろうか。


それからしばらく練習して、威力はそれほどでもないけどだいぶスムーズに撃てるようになった。アニメとかみたいに適当な技の名前を言ったりもしてみたが、結構恥ずかしい。これは女の子の声だからというのもあって、自分の声ではないみたいだ。

それはともかく、なれてきたら両手ではなく片手だけでも出来るようになった。片手で空気を圧縮して打ち出すのを左右の手で交互になんてこともできるけど、威力としては両手でやった方が高い。威力が高いといっても、せいぜい木の枝を折るくらいのものだ。


空気を打ち出すのはうまくいったけど、うまくいかなかったものもある。それは水を出す魔法だ。

何も無いところから水を出す魔法は無理なので、これも空気の圧縮で何とかなるかと考えてやってみた。空気を圧縮すると空気中の水蒸気が飽和して水滴になるので、それを集めればいいはずだ。

しかし結果からすると失敗というか、手間のわりにちょびっとの水しか出せなかった。なるべく効率よくできるように連続して空気を圧縮して水を搾り出すというように工夫してみても、せいぜい水滴がポタポタ程度にしか水は出てこなくて、それならバケツで汲んできた方が早そうだった。


そんなことをやっているうちに昼ぐらいになってしまって、特に空腹でもないのだけど昼食になるものを探しに出た。

森の中のけもの道のような歩きやすくなっている場所を選んで歩いていくと、大き目のドングリのような実が落ちているのを見つけた。ミルアの記憶によれば、味はともかく毒は無く食べられるようなので拾いあつめる。サイズはドングリというよりは栗の実くらいだけど、イガにくるまれてはいない。

目に付いた10個ほどを拾ってバケツに入れる。もう少し欲しかったので、木になっている実に向けて圧縮空気を打ち出すと確率8割くらいで実が落ちてきた。


マキにする木の枝も歩きながら拾って背負ったカゴに入れていく。背負いカゴも小屋にあったものだ。

大きなドンクリは簡単に見つかったけど、他に食べられそうなものはなかなか見つからなかった。ミルアの記憶にも、森で食料を見つけたというのがほとんどない。普段はどこで食料を手に入れていたんだろう。

それでも食べられるイモというか根っこがある植物を見つけることができた。木に巻きついている草を見たら、土の中に食べられる部分があるという知識が記憶から浮上してきた。

地面をほじくるのには魔力の腕を使った。生身の腕を動かすような感じで、魔力の腕で土をどけていくと根が太くなっている部分が出てきた。腕ぐらいの太さで、ところどころで細くなってつながっているのがソーセージみたいな見た目だ。ひとつの区切りが手のひらを伸ばした位のサイズで、連なっている。5つくらいまで掘り出したところで終わりになった。細い部分で折って、背中のカゴに入れる。


だいたいこのくらいでいいかと思って家に戻ることにしたけど、途中で川によってイモを洗うことにする。イモを水の中にいれて手で軽くこすって泥を落とすと、皮は白っぽくてサツマイモよりは山芋や長イモといった見た目になった。

せっかくなので水もくむことにして、バケツに入れていたドングリはカゴにいれた。これでカゴはほぼ満杯になった。背中のカゴと水の入ったバケツをあわせると結構な重さだけど、まだまだ平気でミルアの身体能力はかなり高い。


家に戻ると昼食を作る。ドングリはナイフで切り込みを入れてから、カマドの奥の方に入れて焼き栗にする。切り込みを入れたのは、熱で破裂しないように。

イモは皮を剥いて輪切りにして鍋で煮る。着火の魔法も一度で成功したのは魔力の扱いが上達したからだろうか。

イモが柔らかくなったら塩と庭にあったクレソンみたいな草を刻んで入れてイモスープの出来上がり。食器やスプーン、お玉なども台所にあったので軽く洗ってから使う。


イモは少しねっとりとしていて、スープもイモから溶け出したデンプンの効果なのかとろりとした感じになる。素朴な味だけどおいしい。

ドングリは半分に切って中身を取り出す。栗みたいに皮にくっついていないで、中身が簡単に出てくるので食べやすい。甘みは少ないけれど香ばしくてこれもいい感じ。

イモやドングリは沢山だったので調理したのは一部だけれど、それでも朝とは違いちゃんとした食事くらいの量はあった。この身体では空腹を感じにくいのかお腹がへったという自覚がないのだけど、温かな食べ物で腹を満たす心地よさは感じられた。


食休みをしながら午後の予定をぼんやりと考えた。イモとドングリは残っているけど、夕食用には別のものも欲しいところ。何か食べられる動物として思い浮かぶのは鳥か魚かなあ。道具はないけど魔力の腕や空気を打ち出すので何とかなりそうな気もする。

あとは果物とかあればいいけど、庭の木苺のめぼしい実は全部とってしまったし。あれ、でも記憶によれば果物はもっとあるはずだなあ。


わかった。


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