閑話
第98話 閑話
今回は転生してる間に元の身体はどう行動しているかについての話。
意識が別の世界に行ってしまっていても、残った身体は寝たきりとかにはならず普通に行動できている。記憶などの知識や、何をするのかという行動プログラム的なものは残っているわけで、通常の生活には何の問題もないようだ。
そうすると異世界に行っている意識というのは何だろうとと考えるのだけど、これは説明できないというか説明するまでもない自分が自分であると感じることがまずあって、他に行動にたいする迷いというか変化があるような気がする。
僕が異世界に行っている間の身体の行動は、普段よりもマメになっていることが記憶などからわかる。たとえば毎日の掃除をきちんとやっているが、普段だと今日はいいかとおもってサボったりもする。他には食事を出来合いのですませたりとか食べなかったり。風呂に入ったりとかもわりと適当になるのが転生していない時の生活だ。
意識が一時転生して別の場所にあるときの僕だと、そういういいかげんさや思い付きによる変化が少なくなり、結果として決まったパターンの生活になる。
掃除などの決まった作業をさぼらずにやるのは良いことでもあるけれど、柔軟性に欠ける行動が問題になることもある。具体的には前に高校の同級生から連絡が来た時で、その時の僕の対応は聞かれたことには返事をするものの自発的な発言に乏しい何というか病気の一歩手前みたいな感じだったらしい。僕はもともと感情に乏しいと言われることがあって、その自覚もあるけれど、内面としての感情がないわけではない。しかし意識が別の世界に行っている間の僕は、普段以上に感情に欠けている様子だったみたいだ。
そういえば普段の生活でも、これと似たような状態になることもある。それはゲームや読書、それからごくたまにだけど仕事でも変な感じで熱中してしまって話しかけられても反応が悪くなったりする。あとは気が付いたらいつの間にか時間がたっていたりというようなことも起きる。こういった何かに熱中している状態が、意識が別の世界に行ってるときと似ているのは何か不思議という気持ちと、そういうものなのだろうなと納得する部分もある。
新しい仕事、これは高校の同級生の実家での農作業や養豚、それにニワトリもいるのでその世話などだけど、これまでやったことが無いことなので新鮮な感じはする。
給料は安いが住むところは無料だし、それまで家族だけでやっていた規模なのでそれほど大変ということもない。ちなみに同級生自身は外に働きに行っていて、休日くらいにしか会わない。そして僕のことを心配して声をかけたというのは嘘ではないものの、誰か人手を連れてこないと自分が手伝わされそうだったからなのだという裏話もしばらくしてから話してくれた。
仕事になれてくると、一人で行動することも多くなった。そして意識が飛ぶようなことがたまに起きるようになった。それも単に集中しているからというだけでもなく、一時転生とも似ているような現象だ。つまり、仕事をしながら別のことを考えていて、ふと気が付くと仕事は終わっていて仕事中の記憶もうっすらとある。身体を動かしている自分とは別に、何かを考えている自分があるというような状態。
それがもしかしたら一時転生を何度もやったことによる副作用かもしれないと思うようになったのは、何度かそういうことが起きてからのことになる。通常は身体と一体の意識を、一時的とはいえ別の世界の別の身体に移動させたことによって、意識が身体から離れやすくなってしまったのではないか、と。
同級生の実家の仕事を手伝うようになってからは、一時転生はやらなくなった。なれない環境で仕事をしている間は、転生で意識が抜けている僕では対応できないだろうからというのと、引っ越しの時にとりあえず使わない荷物といっしょに転生マシンも僕の実家に送ってしまっていたからだ。そんなわけで、一時転生を試すこともなくなり、ときどき起きる転生の副作用かもしれない意識が飛ぶ現象について転生マシンに質問することもできなかった。
そんな生活がそのまま続いていれば、もしかしたら転生のことなど忘れて普通の生活をするようになったのかもしれない。実際はそうならずに、ふたたび転生マシンを使うことになってしまう。
これは当時の職場である同級生の実家が、農家を廃業してしまったことが転機だろう。自然災害と動物の病気、それが廃業することになった原因で、僕は働いた期間が短いこともあってそんなにショックという程ではなかったけど長年続けた人にとって廃業の決断は大変なことだったのではないかと思う。
それから僕はふたたび無職になり一時は実家に帰っていたのだけど、なんとか再就職して収入が安定したことでまた一人暮らしをすることになる。仕事はあまり面白くもない単純作業だけど、残業もそんなになくまあ楽な仕事だ。これなら僕の意識がどっかに行っていても大丈夫だろう。そう思って僕はふたたびの一時転生を試してみることになったのだ。
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