第96話 終了

アレク技官は建物の中には入らず、車で帰っていった。とりあえず警察での通常業務に戻るということだった。護衛の人たちは近くで待機していて、ダニールが研究所に戻るときに迎えに来るようだ。


再会の挨拶はひととおりすんで、僕はもといた部屋、ダニールはその隣を使うことになった。その日の夕食はわりと豪華だった気がした。アンナさんにお土産で渡した果物もその時に配られていて、種は食後に回収されていた。

ダニールも食事をすることはできるみたいで、いっしょに食卓をかこんだ。ただ聞いたところによると食事から得られるエネルギーはわずかで、他に充電が必要みたい。

荷物として充電用の装置や、仕事用のパソコンみたいなのも持ち込んでいて、研究所ともデータのやりとりはできると言っていた。



転生10日目から14日目の最終日までは、特に変わったことは起きなかった。ヒトの子供たちに言葉を教えるのもダニールにお願いした。話し方だけでなく文字や計算なども教えていて、僕がやるよりもうまいと思った。僕は遊び担当というか、時々いっしょに遊んだりはした。

あとは畑にお土産の果物の種をまいたりもした。果物は僕がお土産に持ってきたからか、ダンの実と呼ばれるようになってしまった。別の名前をつけようかと思ったけど、いいのが思いつかなかったし別にこのままでいいかということに。


ダニールは子供たちだけでなく、大人にも受け入れられていて、特に大人のヒトとは積極的に話をしているようだった。そのおかげもあるのか、大人のヒトも話すのがだんだんうまくなってきた。近いうちに誰かダニールのマスターを引き受けてくれるようになるのかと思って聞いてみたけど、ダニールによれば単に言葉が話せるだけではだめである種の知識が必要だということだ。基礎的な科学であるとか、ダニールのような機械や人工知能の存在が理解できる程度でないとダメらしいので、結構たいへんかも。

むしろ研究所にいるヒトに言葉を教えた方が早いかと思って言ってみたら、それも戻ってから試してみるらしい。ヒトに命令することができないダニールは自分の判断でヒトに教えるのは難しいのだけど、僕がやってみたらと提案すればそれに従う形で行動できるということだ。なので僕の願いとして、なるべくいろんなことをヒトに教えてほしいと言っておいた。子供たちにいろいろ教えているのもその一環だ。


ダニールは一日の半分くらいは部屋で仕事もしていた。研究所からの問い合わせに対して答えるのが主な内容で、宇宙から持ち帰った装置についての質問が多かったみたいだ。ダニールもすべての装置の構造や細かい原理まで知っているわけではないのと、自力で調べた方が技術力が付くからという理由で、わかっている部分も答えそのものを教えるのではなく考え方のヒントをアドバイスするという形式らしい。その他に通常の研究についてもダニールのアドバイスが必要とされていることも多いようで、直接会った人は少なくても、多くの研究にかかわっているとのことだ。


アンナさんとも前ほどずっと一緒にいるということはなくなったけど、食事の時に話したりとかはしている。僕が元の世界に帰るというのもダニール以外にはアンナさんしか知らないわけで、僕が帰還した後のこともお願いしておいた。原因不明の記憶喪失ということにする予定で、何日か様子をみてそのままここで暮らすかダニールと一緒に研究所に行くのかを決めることにして、その判断をアンナさんがすることになる。


このまま言葉を話せるヒトが増えていけば、人間としての権利がみとめられて2つの種族が共存するようになるのか、それは僕にはわからない。

でもこの施設内ではヒトとフトのそれぞれが仲良く暮らしているように感じられるので、ほかでもそういう風にできないということはないだろう。

まあそういったことは異世界の僕が気にしてもしかたないので、この世界のヒトやフトという人たちが未来をつくっていくのかなあ。そんなことを戻ってくる前の夜に考えていた。



そして僕はもとの世界に戻ってきた。



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