第94話 土産
「最初はこれです。」
そう言って取り出したのはミニトマトのような赤くて丸い果物。ステーションの食糧工場に育っていたものだ。自動装置で収穫されて加工に回される前にいただいてきた。
袋にたくさん入ったそれを差し出す。
「僕は食べたことが無いので珍しいかなと思って持ってきたんですが、良かったら食べてみませんか。」
「それじゃあいただくよ。」
アレク技官が最初に手を伸ばし、アンナさんも続いて手に取った。
僕も手に取って一口かじる。食感はリンゴよりもねっとりとしていて、洋ナシに近い。
「おいしいですね。私は初めて食べました。」
アンナさんが言うと、アレク技官も同意していたので珍しい果物という予想はあたっていたみたいだ。
「じゃあ、それはあげますので二人で分けでください。中の種を埋めたらたぶん育つんじゃないかと思います。」
種はサクランボみたいに中央に一つだけ入っている。
「あと次はこれです。」
カバンから茶色くてごつごつしたイモを取り出した。茶イモだ。
「これは加熱しないと食べられないみたいですが、地中ではなく地上にできるのが面白いかなと思って持ってきました。」
「それは茶イモかな。」
アレク技官が言った。
「そうですが、名前を知っているということはこっちにもあるんですね。」
「ああ、わりと普通の植物だ。」
「そうでしたか。」
僕は地球の知識で地上にできるイモが珍しいと思ってしまったけど、こちらの世界ではそうでもなかったようだ。
「でもせっかくですからいただけるのなら、持ち帰って皆にも見せたいと思います。」
アンナさんはそう言ってくれたので、引っ込めかけた袋を差し出す。イモの入った袋を大切なもののように受け取る様子が面白いと思ったけど、口には出さない。
「とりあえず、僕のお土産はこんなところです。」
それから宇宙に行ってきた時の話をした。宇宙船のエンジンが途中で切り替わったことや、ステーションから長く伸びるパイプの端に到着してエレベータみたいに上ったこと。宇宙ステーション内の展望室や居住区、食糧工場のことなど、途中で昼食をはさんで話を続けた。
夕方にはダニールのところにも行った。僕の扱いについて相談するためだ。最初の予定だと宇宙から戻ってきた日が転生の最終日だから、研究所で最後を迎えるつもりだった。しかし延長できたので、それならアンナさんに連れてかれた施設に戻っておきたいと思ったからだ。
「そうですね、特に問題はありません。」
ダニールがあっさりと言う。
「それはよかった。じゃあ明日の朝にお別れになるのかな。」
「いえ、できたら私もご一緒しようと考えています。」
なんと、ダニールも一緒にくるつもりらしい。研究所の外に出ても平気なのか聞くと、宇宙に行くよりは簡単だと言われた。
アレク技官も施設までは一緒にくるみたいなので、アンナさんと僕に加えてアレク技官、ダニールの4人、それに来た時のように護衛が付くのだと思う。
夜にまたまた転生マシンからの延長の確認が来たので、思い切って5日の延長をためしたらあっさりと承認された。
転生8日目は、そんな感じだった。
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