第93話 帰還

一時転生7日目にして宇宙ステーションでの2日目は、あまり特筆することもない。

前日にも見た展望室へ行ったり、朝と同じ食糧工場の一角で食事をしたりした。管理者権限によって入れるようになった場所にも行ってみたが、見て面白いものはなかった。例えばコンピューターの本体は単なる箱みたいな外見だった。

夕方に思い出してアレク技官にも電話をした。アンナさんもいて、帰還が1日伸びた連絡がなかったことでだいぶ心配させてしまったようだ。ダニールからの公式報告で延期になったことは知らされたものの、内容については秘密だったため何かあったのではないかと思ったらしい。さらに僕の転生期限も当初の予定通りだと今日までだったので、それについても心配してくれていたようだ。


その夜にふたらび転生マシンから1日前のお知らせがきたので、また延長を頼んでみたが今度も特に問題なく延長は受け入れられた。前に僕が身体を貸した時は1年間だったのだから、そのくらいの長さで転生することもできるわけだ。



翌朝は朝食を済ませてから宇宙船に乗り込む。


「それではドッキング解除します。」


「いいよ。こちらは特に問題なし。お土産も持ったし。」


僕がそう答えると、ダニールはステーションからの通路を切り離す。もちろんドアは閉じてある。そこからしばらくはまたエレベーターでの移動なので楽なものだった。最初は下向きの加速によって身体が上向きに持ち上げられる感覚があったけど、定速になってからは無重力で、進むにつれて少し下向きの力がかかってくる。最後の減速時には下向きの力が少し大きくなるけど、それでも地上の重力よりも軽いくらいのものだ。しかし、そこからがわりと大変だった。


エレベーターから切り離された機体は、速度と高度を落としていくのだけど速度が落ちてくると地上とそうかわらない重力を感じることになる。それだけでも弱い重力のステーションで2日過ごした身にはつらいのに、さらに減速によるGも余分にかかる。

それでもスペースシャトルなんかと比較すれば全然大したことはないらしい。機体の表面温度も数百度というレベルで金属が溶けるような高温にはならないということなので、比較的ゆっくりとした降下なのだろう。でも僕個人の体感としては結構大変だった。


「ふう、やっと楽になった。」


ため息とともにそんな言葉をこぼしたのは、高度がだいぶ下がって外の画像で空が青くなってきたころだった。エンジンも再起動していて、飛行機として飛んでいる感じになる。

それからしばらくして着陸したが、これも飛行機と変わらない。ちなみに操縦は自動装置によって行われているけれど、ダニールによる修正や設定変更なども行われているとのことだった。


着陸した宇宙船は滑走路をゆっくりと移動して、格納庫に戻っていく。

ダニールと僕は宇宙船から降りるとすぐにバスに乗り込む。表向きは研究所にもどって各種検査を受けることになっているが、実際は何もしないでいいらしい。これはダニールがうまいことやってくれたからのようだけど、ダニール自身も調べられたら機械だというのがばれてしまう。なので一般向けだけでなく研究所内に対しても秘密になっている部分もあるようだ。

バスには来た時と同じように護衛だか付き添いらしき人が乗っていて、ダニールと何かを話していた。アレク技官とアンナさんはいなかった。


バスは研究所の裏口みたいな場所に横付けされて、人に見られないように中に入った。ダニールと僕、それから付き添いの人が2人一緒についてきてしばらく行ったところにアレク技官がいた。


「おかえり。」


「遅くなりました。」


「それでは私はこれで。後のことはアレク技師にまかせてあります。」


ダニールはそう言って、付き添いの2人とどこかへ歩いて行った。


「それじゃあ僕らも移動しよう。何にしろ無事に帰ってきて良かった。」


アレク技官はそう言って歩き出したので後をついていく。


「アンナさんだが、この先の部屋でまってる。彼女は研究所のメンバーではないので何かと制限があってね。」


「そうですか。」


たぶん入れるエリアの制限があるんだろう。



「やあ、救世主のご帰還だよ。」


アレク技官がドアを開けてそんなことを言うと、僕が部屋に入るよりも早くアンナさんが出てきた。


「おかえりなさい。よくご無事で。」


「ああ、どうも、心配おかけしました。」


何というかアンナさんの勢いに押されて少し変な感じの答えになってしまった。


「とりあえず、続きは部屋の中でしよう。」


アレク技官に言われて僕たちは中に入り、テーブルを囲んでイスにすわった。


「そうだ、ふたりにお土産があるんですよ。」


僕は持ってきたカバンをテーブルに乗せた。



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