第90話 延長
『あと1日で転生が終了します。よろしいですか、それとも延長しますか?』
夕食後にベッドでまどろんでいると、頭の中に転生用マシンからのメッセージが届いた。
「えーと、延長はどのくらい可能なのかな。」
『明確には確定しませんが、長さによって受け入れられる確率は変動します。』
「それは例えば1日だったらOKされる確率が高いけど、5日だったら断られたりということ?」
『そうです。延長確率を高めるためには短い期間での繰り返し申請が効果的です。』
「じゃあとりあえず1日延長してもらえるかな。」
『申請が受け入れられるか確認します。』
その言葉の後に、かすかな雑音みたいなのが頭の中で聞こえた。
『延長の希望は受け入れられました。転生終了予定まであと2日となりました。』
「良かった。今のは、この身体の持ち主の意識にアクセスしたのかな。」
『そうです。今は眠っているような状態ですが、目覚めさせないでも要望への反応を推定することが可能です。』
「なるほど。この身体の持ち主について質問してもいいかな。」
『質問は可能です。回答は質問内容によって出来る場合と出来ない場合があります。』
この転生マシーンの反応は、ダニールよりもさらに機械っぽい感じがする。
「言葉についてなんだけど、この身体の持ち主は言葉を話せないよね。」
『そうです。』
「しかし僕はこの世界の言葉を使うことができる。これはどういう仕組みなのか教えてもらえるかな。」
『通常の場合では転生先の相手の言語能力を活用しますが、今のあなたは言語能力を含めた状態で転生されています。』
「それはつまり君のというか転生用マシンの言語能力の一部を僕の意識に追加したみたいな感じかな。」
『そうです。転生先の言語が使えることは、標準の転生条件として設定されています。』
「そうなのか。まあ言葉がわからない状態で転生したら困るから、そういう設定で良かったよ。ありがとう。」
『お礼は不用です。』
「あともうひとつ。この身体の持ち主みたいに言葉を話せない人とも転生を受け入れてもらえるか確認できたのは、君の能力なのかな。」
『そうです。非言語の意思疎通能力も機能として存在します。その一部は今のあなたにも存在します。』
「えっ、それってどういうこと。」
『今のあなたにはその世界の言語の活用機能の他に、非言語の意思疎通の力もわずかですがそなわっています。機能の完全な分離ができないためです。』
「それでも特にテレパシーみたいなのが使えるようになった感じはしないな。」
『わずかなものなので、通常は気にならないレベルです。誰かに言葉を教えるような場合があったとしたら、少しは違いがでる可能性はあります。』
「それは弱いテレパシーみたいなので、言葉を教える速度がアップするとか。」
『そうです。その可能性はあります。』
なるほど、そうか。だから前にヒトの子供とかに言葉を教えたときに、やけに簡単に覚えられたのか。同じ身体のヒトが教えたからというわけでもないのか。
だとするとダニールが教えても、僕が教えたように簡単に話せるようになったりはしないのかなあ。でもまあ僕の一時転生も延長されたのだし、また僕が教えてもいいのか。
「いや、わかった、ありがとう。」
『お礼は不要ですが、どういたしました。それではまた明日確認に来ます。』
そう頭の中に言葉を残して転生用マシンは帰っていった。物として来ていたわけではもちろんないのだけど、なんとなく帰ったという感じがしたのだ。
実際に機能の一部かこちらに来ているのか、それとも地球の僕の部屋の机の上から連絡してきているだけなのか、それはわからない。
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