第89話 電話
ダニールの話を聞いていて、僕も何か頼んでおけばいいのではないかとちょっと考えた。たとえばヒトに対して言葉を教えるようにお願いしておけば、僕がやったような感じでわりとすぐに言葉を話せるようになるヒトが出てくるのではないか。
ただあまりにも急激な変化は社会にとっても良くなかったり、ヒトとフトが争うことになっても責任はとれないからなあとも思った。
その日にやることは特になかったので、そのまま部屋で休むことにした。ダニールは身体のメンテナンスをするために、どこかに出かけていった。このステーションにもダニールと同様の使役機械がいたはずで、整備用の施設もあるだろうとのことだった。彼の言葉によれば、地上に降りてからは自分でメンテするしかなかったのであちこちにガタがきているらしい。最初に会ったときにイスに座ったままだったのも身体の動作状況がいまひとつだったからだという話だ。
夕食にはまだ少し早かったので、シャワーを浴びることにした。
シャワーは水を節約するためか、少量の水が霧吹きみたいに身体に吹き付けてくるタイプだったけれど、特に問題なく身体を洗えた。居住エリアは弱いけれども重力があるので、動作が楽だ。これが無重量状態だったら、シャワーひとつ浴びるのも大変だろう。ここでは水もちゃんと下に流れる。
ヒマだったので地上のアレク技官に連絡してみることにした。さっきダニールに登録してもらったので、机にある端末から電話をかけるみたいに連絡ができる。
呼び出しをして少しすると、電話がつながった。
「はい、アレクだが。」
「こんにちは。ダンです。聞こえますか。」
「おお、君か。さっきメッセージを受け取ったが、本当にステーションについたのか。」
「はい。今は部屋で休んでいます。そちらは変わりありませんか。」
「そうだな。宇宙船が予定外の行動をとったので騒ぎにはなっているが、責任者は本来の目的を知っているからさほどでもない。」
「そうですか。その本来の目的ですが、明日には実行できると思います。」
「そうか、良かった。正式ルートからの報告はあったみたいだが、僕には知らされないのでな。」
この正式ルートというのは、ダニールからの報告のことだろう。表向きの試験飛行ではなくダニールの正体と本来の目的を知っている責任者へ、定期的に報告をしているらしい。
「アンナさんの様子はどうですか。」
「彼女は少し元気がないが、さっき君からのメッセージがあったことを伝えたら喜んでいたよ。今はそばにいないが、あとで電話のことも話しておくよ。」
「お願いします。僕は今のところ元気にやっています。シャワーもすませて、あとは夕食を食べるくらいです。」
「無重力でもシャワーはあびれたのかね。」
「いえ、今いるところは弱いけど重力があるんです。正確には遠心力ですが。」
「そうか、なるほど、その方が生活環境としては望ましいからか。しかし、君がうらやましい。僕も行けるものなら行ってみたいよ。」
「僕以外に言葉を話せるヒトがいれば、いっしょに来ることはできるかもしれませんよ。」
「本当かね。」
「ダニールの話では、過去にヒトだけでなくフトもステーションに来たことはあるみたいだし禁じられてはいないようです。」
「そうなのか。じゃあ可能性はあるということか。」
「そうですね。あとでダニールとも相談してみます。それではこの辺で失礼します。」
「わかった。それじゃあ。」
「それじゃ。アンナさんによろしく。」
なんだかんだで結構話してしまった。ダニールは人間に似てはいるが、やはり機械っぽいというか積極的に何かを話しかけてくるというのはあまりない。
夕食は昼と同じような宇宙食だったけど、部屋に電気ポットやコップなどがあったので飲み物を温められたのが良かった。
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