第87話 展望室

ステーションは同じ機能を持つエリアが複数あるので、同じような場所ははぶいてなるべく違った種類の部分を見てまわった。

例えばエレベータで上がってきた宇宙船がドッキングする場所は6箇所あるようだ。他に貨物の受け入れ用の場所もあって、荷物の搬入時は部屋の内部も真空になって大きな扉が開いたりするようになっている。ステーションの下部は、そういった地上からの受け入れ用の施設が多い。

少し上の中央部は、コンピュータや施設を管理するための装置などが多く、今の僕の権限では入れない場所が多い。

中央部の外周はステーションの自転による弱い遠心力があるので、居住用の設備が多い。球形のユニットがネックレスのように輪になっていて、いちおうドーナッツ型というかポンデリング型という感じだ。


「ここは何百年も植物が手入れされていたのかな。」


居住エリアのポンデリングの中を歩いている。通路は土ではないけどクッションの効いたコルクのような素材で、通路の横は芝生みたいな草が生えていて公園みたいな内装だ。


「そのようです。管理用の機械もありますが、ほとんど手入れのいらない品種が選択されていたはずです。」


「この植物は、鑑賞用かな、それとも空気の再生とか食用など実用目的だったりするのかな。」


「主に人間のメンタル面でのことを目的にしていたはずです。これも大事な実用ではありますが。酸素供給や食用植物は別のエリア、位置で言うとここの下層に藻類などを培養している設備があります。」


「そうか、下とか上にも部屋はあるのか。上の階には何があるのかな。」


「ここの上だと個人の居室などでしょうか。いまいる中層は公共エリアとなります。」


「なるほど。通路で隣のユニットとつながっている中層だから皆が使うような用途になっているのか。」


「基本的にはその通りです。」


「他になにか面白そうなところはないのかな。たとえば外が見える展望室とか。」


「展望室はステーションの上部にありますが、行ってみますか。」


「ぜひ行ってみたいね。」


何しろ宇宙船だけでなくステーションにも窓というものがないので、まだ外を直接見てはいないのだ。


ドーナッツ状の居住部から内側に移動すると遠心力はほとんど感じられなくなり、また磁力ブーツだけが頼りになる。床がすこし曲がっていたりする部分も問題なく歩くことができる。

重力が感じられないので上という感じはしないけど、ステーションの上部に移動していき、展望室に到着した。


「いま窓のシャッターを開放します。」


ダニールが設置してある端末で操作すると、かすかな機械が作動する音がして、あちこちにある丸い窓のシャッターが開いて外がみえるようになる。


展望室は球状のユニットの半分を使っているらしき半球型の部屋で、球の部分に窓がたくさんある。


テレビなどで見たことはあるけど、直接宇宙で何かを見るのは初めてだ。まあ最初の転生で見たといえないこともないのだけど、あれは人間の肉眼とはだいぶ違っていた。


床に近い位置の窓からは地表が見える。地表と空の境目はうっすらと大気らしきものが見えて、空は真っ黒な宇宙だ。星はそんなに見えない。これは地表が明るすぎるせいもあるのだろう。

視線を上に向けて空だけを眺めていると星も見えてくる。


「あの上に伸びているパイプは下と同じエレベータだったりするのかな?」


窓からはステーションの一部も見え、上部からさらに上に伸びているパイプがあるのがわかる。宇宙船からも見えたパイプだ。


「あれは下のエレベータとつりあいを取るためが主な目的で、ウェイトを移動させる装置も付いています。。」


「なるほど、下に伸ばすだけだと重心が下がるから、上下に伸ばしてバランスをとるという感じか。」


「そうです。重心がステーションから外れないようにしています。」


「さて、それじゃあどこかで休憩しようか。出来ればさっきの重力があるエリアの方がいいかな。」


「わかりました。それでは居住用エリアの上層の部屋を使いましょう。日常的な生活設備もそろっています。」


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