第86話 一般利用者

訪問者登録をしている間に、部屋の様子を眺める。宇宙船とドッキングする場所であるためか、宇宙服などが配置されている。

他に靴の上にはくオーバーブーツのような物もあって、ダニールにいわれてはいてみると床に足がくっつくようになった。たぶん磁石が入ってるのだろう。


磁力ブーツのおかげで移動しやすくなったけど、普通よりも注意して最低でも片足は床についているようにそろそろと歩く。

ステーションは球形のモジュール同士がパイプでつながるようになっている。サイズはさまざまで、最初に入った部屋は小さ目で中に行くほど大きくなっていく傾向があるみたいだ。球と球をつなぐ通路の両端には丈夫なドアが付いていて、一部が破壊された場合でも残りの空気が抜けないようになっているのだろう。


「それではもういちど登録をします。」


さっきのよりはすこし大型の端末が何台か設置してある部屋で、これまたダニールにいわれるままに一般利用者としての登録を行った。


「これでいいのかな。」


「問題ありません。管理者へのステップアップ申請もやっておいたので、明日には承認されている予定です。」


「そういえばダニールは、このステーションに来たことはあるのかな。」


「いえ、私のいたステーションは別の所でした。もうありませんが。」


地上との戦いで破壊されたのだろう。


「そういえば、このステーションに地上を攻撃する武器があるのだよね。」


「はい。一般利用者の権限では使用したり設定を変えることはできませんが、見るだけなら可能です。」


「このディスプレイに出せるかな。」


目の前の管理端末の大きなディスプレイを指差すと、ダニールはうなずいてなにか操作をする。


「これが地上を攻撃する小型の射撃装置です。」


表示されたのはなにやらパイプが絡み合ったような装置で、中央のパイプから弾が出そうな感じだ。


「射撃というと、光みたいなエネルギー、それとも質量を持つ弾なのかな。」


「これは小石ほどの質量弾を発射します。補正は必要ですが、有視界での射撃も可能です。」


そうすると超長距離で撃つライフルみたいなイメージかな。スピードが速ければ、小石ほどの弾でも威力はすごいのだろう。


「目で見た標的に当てられるということは、かなり早い速度で打ち出すのかな。」


「そうですね。撃ってから地上に当たるまでの時間は数秒程度です。」


「それはすごいね。」


「他に強力な光を発射する装置もありますが、これは地上よりは対空向けの武器です。」


「そういうのもあるんだ。つまり攻撃を受けることもあったということか。」


「その通りです。本来は衝突予定のデブリのコースを変える為のもので、連続光で一部を加熱する使用法が想定されていたのですが、短時間にエネルギーを集中して強力なパルス光を発射することも可能です。」


「なるほど。ありがとう、もういいよ。」


ディスプレイの表示が消える。あまり現実味はないけど預言の書に書かれている災害のいくつかは、このステーションからの攻撃によるものなんだろう。

昔のことだし、地球とはまったく関係のない別の世界のことではあるのだけど、自分がその世界にいる状態で考えるとあまり心穏やかではいられない。宇宙からの攻撃とかはかっこいいというイメージもあるけど、やはりSF小説などフィクションの中だけであって欲しい。


「このあとどうされますか。明日の管理者登録の承認までは、特にしなくてはならないことは無いのですが。」


「そうだね。ステーションの他の部分の見学はできるのかな。コンピュータの本体もまだ見てないし。」


「申し訳ありませんが、コンピュータ本体があるエリアには一般利用者の権限では入れません。武器の管制エリアも同様です。他は大丈夫ですが。」


「それじゃあ、見てもかまわないエリアを案内してよ。」


「承知しました。」



宇宙ステーション見学ツアーの始まりだ。


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