第83話 離陸

飛行場の見学も終わり、またバスにのって研究所に戻った。それからダニールのところで打ち合わせをし、夕食を済ませて早めに寝ることにした。


翌朝の転生6日目は、前日のように寝坊せず起きられた。朝食は普通に食べていいということだったので、3人で食べた。


「いよいよ出発だな。僕までわくわくしてきたよ。」


「私はやはり心配です。」


「うまくいけばお昼は宇宙ステーションで食べることになると思います。連絡もとれると思うので、良かったら宇宙と地上で話しましょう。」


そして飛行場へは専用のバスで行くことになっている。


ダニールはすでにバスに乗っていた。他にも何人か付き添いや護衛らしき人もいる。


「おはようございます。」


「おはようございます。おまたせしました。」


ダニールが挨拶してきたので、僕も挨拶をして隣にすわる。アレク技官とアンナさんは少し離れた場所に座っている。


「このバスの中では普通に話していいんでしたっけ。」


昨日の打ち合わせでのことを確認する。僕とダニールは宇宙船の実験の為に乗るという建前になっている。地球でも人間の有人飛行の前に犬や猿をロケットに乗せて打ち上げたが、それと同じように豚人の有人飛行前にヒトを乗せて実験する。というのが表向きの今回の飛行目的だ。

僕とダニールは簡単な会話ができるとなっているけど、あまり自由に会話しているのを見られるとまずいかなということで人目のある所では自粛しようということになっている。


「この中は大丈夫です。バスを降りたら昨日話したとおりになるべく話さないでいきましょう。」


「ワカリマシタ。」


「いや、今は大丈夫です。」


ダニールには僕の冗談が通じなかったみたいだ。


バスが飛行場に到着し、格納庫にある宇宙船に乗り込む。

スペースシャトルに似た形の宇宙船で、名前は希望号という。僕らが乗るのは、飛行機でいえばファーストクラスあたりの先頭から少し後ろの部分。それよりも前の部分には自動コントロール装置があり、後ろには燃料や噴射装置などがぎっしりつまっている。


「トイレがあって安心しましたよ。」


僕はダニールに言う。ダニールはロボットなのでトイレの心配はないが、僕にはある。もしかしてオムツを着用するのではと思っていたけど、大丈夫だった。


「まだ離陸までには時間がありますから、心配だったら行っておいた方がいいですよ。」


と言われたが、乗り込む前にすましておいたので大丈夫だ。


僕とダニールが座っているのはクッションのきいたイスで、前にあるディスプレイで外が見えるようになっている。この宇宙船には窓というものがない。飛行機も貨物機だと横の窓は無いけどさすがに操縦席にはある。スペースシャトルも同じだ。

この希望号は、窓という弱い部分を無くすことで強度や安全性を高めているという話だ。


しばらくすると、宇宙船が格納庫から出て滑走路に向かう。自走ではなく、牽引用の車両に引かれているのがディスプレイから見える。


カウントダウンが始まり、エンジンの音も聞こえてくる。僕はシートベルトを引っ張って最後の確認をする。


宇宙船は滑走路を進み、離陸する。地球で飛行機に乗ったときとそう変わらない感じだ。

そのまま高度を上げていき、通常の飛行機と同じくらいの高度になるとエンジンが切り替わるみたいで音も変わる。薄い空気で高速飛行をするのに適したラムジェットみたいな動作になるらしい。離陸からここまではジェットエンジン。

空気のある間はなるべく外部の空気を使うことで、酸化剤を使わずにすますという考えによる設計のようだ。地球のロケットだと地上から燃料と酸化剤の両方を使っている。


普通の飛行機の10倍以上の高度に達し、速度もかなり速くなっている。体重も軽くなっているから、第一次宇宙速度まではいかないけど、それよりも少し遅い程度か。

外の眺めも空は黒くなっていて宇宙という感じだけど、地上もわりと近く見える。このくらいの高度の人工衛星もあるだろうけど、空気抵抗ですぐに寿命がきてしまいそうだ。


「そろそろ、宇宙ステーションとドッキングします。」


ダニールが言うが、こんなに低い高度にあるのか。地球の国際宇宙ステーションがたしか地上400キロメートルくらいだけど、あれも空気抵抗で速度が落ちるから時々エンジンを噴射していたはず。


「もうなのか。前方には何も見えないけど。」


「後ろです。画面を切り替えます。」


ダニールが何かをやって切り替えられた画面には、細長いパイプのようなものが写っていた。上はどこまでも伸びていて、下側の端がだいたい正面に見える。つまり真後ろから追いかけてくる形なのか。


「間もなくドッキングです。」


細長いパイプはどんどん近づいてきて、大きくなる。


「ドッキング、します…。完了しました。」


船体に軽いショックがあったが、それほどではない。


「なんかあっけない感じだね。うわっ。」


僕が話している途中で、機体が上向きになる。


「このまま上まで運ばれます。」


ふたたび前方を移すようになったディスプレイには、パイプの上を電車みたいに移動している映像が表示されていた。


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