第84話 宇宙エレベーター
「これはもしかして宇宙エレベーターですか?」
上向きになった座席で僕はダニールに質問した。重力はだいぶ弱いので、今の姿勢でもそれほど苦ではない。
「そうです。このまま登ってゆくと、宇宙ステーションの本体に到着します。」
「そうすると預言の書にあっった天まで届く高い塔というのは、これのことなんでしょうか。」
「いえ、それは別のものでしょう。今はありませんが、地上まで到達している宇宙エレベーターも過去にはありました。」
なるほど。たしか地上とつなぐには衛星の位置が地上から見て変わらない静止衛星である必要があって、赤道にしか作れないのだったかな。
僕らが今乗っているのは静止衛星の高度3万6千キロメートルよりも、だいぶ低い位置の衛星につながってるのだろう。高度が低いほど衛星のスピードは速くなって、一日で惑星を一回りではなく何回も回るようになる。
「地上まで届く宇宙エレベータがあったのに、こういう宇宙船が必要なタイプのエレベータもあるのはどうしてなんですか。」
疑問に思ったので聞いてみた。
「それはおそらく作りやすさの違いでしょう。他には赤道面以外の場所でも作れるというのもあるかもしれません。」
そうか、つまり地上とくっついていないことにはメリットもあるわけか。
「ちょっとトイレに行ってきます。」
しばらくエレベータでの上りは続き、やることもなかったので宇宙でのトイレを体験することにした。まったくの無重量になってからよりも、弱いとはいえ重さを感じている今の方がやりやすいかと思ったこともある。
宇宙船の向きが90度変わっているので床が壁になり、壁が床になってる状況だ。座席の背もたれにぶら下がると、今の床である壁に足が付くので手を離す。すぐ近くのトイレのドアを開けて中に入る。
トイレの座面は向きを変えられるようになっているので、今の重力の向きに合わせる。ズボンを脱いで座ると、空気が吸引される音がして軽く吸いつけられる。この状態で排泄すると、流れる風と一緒に液体や固体が吸い込まれていく。今回は液体だけだったけど、動作は良好だった。
トイレから座席に戻るには、重力にさからって登る必要があるのだけど、体重はだいぶ軽くなってるので腕の力だけで簡単に持ち上がった。
「もうそろそろステーションの本体が見えてくる頃です。」
座席にもどった僕にダニールが話しかける。
「それは楽しみだ。画面の拡大とかできるんでしたっけ。」
僕が言うと、ダニールが画面をズームしてくれた。まだ小さいけど、登っていくパイプの先に何かあるのが見えてきた。
「ステーションの全体図も出せますけど、いかがですか。」
「ぜひお願いします。」
画面が切り替わり、宇宙ステーションを横からみた映像が出てきた。ステーションは2つの円錐の底面同士をくっつけたような形で、ゆっくり回転している。回転していることもあって、上下がとがっているコマみたいな印象だ。
アップになると、細かいパイプや球などから構成されているのがわかる。大きな一つの区画ではなく、細かく分かれているのは一箇所で空気が漏れても他に影響が出ないようにするためなんだろうか。
「今のはステーションにアクセスして得られた映像です。ドッキング後は、今までよりも多くのデータを得ることが出来るようになりました。」
「エレベータを動かしたりというのも、こちらからの指示によるものなんですか。」
「そうです。ドッキングの時にも決まったパターンでの電波を発信してこちらの位置などを知らせると、衛星側の機器が作動してこちらを捕まえてくれます。」
「そういう決まったパターンというのもダニールが覚えていた物なんだ。」
「基本的にはそうです。他に過去の遺跡から発掘したデータもあります。」
そんな話をしているうちに、ステーションが近づいてきた。身体にかかる重力も弱くなっていく。衛星の位置では重力と遠心力がつりあって、いわゆる無重力状態になるわけだ。
「まもなく減速しますので、一時的に逆向きに力がかかります。」
ダニールがそういい終わってすぐに、減速が始まったせいか身体にかかる重力がゼロになったかと思ったら逆に上向きに力がかかる。身体が座席から浮き、シートベルトで止まる。
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