第78話 宇宙ステーション

「そうだ、そういえば宇宙ステーションから地上が攻撃される可能性があると聞いたんだけど、それは大丈夫なんですか。」


ダニールと名前を付けたことでマスターになってしまったことをにわかには受け入れがたかったこともあったのと、そもそも僕が呼ばれたのは何か危機があったからだったんじゃないかと思い出したので聞いてみた。


「それについては、もう心配ありません。一時は私が宇宙に行かなくてはならないかと思って準備もしていたのですが、おかげで行かずにすみそうです。」


宇宙に行く技術もあるのか。やっぱりロケットなのかな。


「そうするとまあ一安心というわけですね。」


「そうです。そのためにもマスターには長らく元気でいただかないと困ります。」


「えーと、それはどういうことなのか説明してもらえるかな。」


「マスターが不在の状態だと、場合によってフトのヒトに対する反乱が起きていると認識されて宇宙ステーションからの攻撃が行われる可能性があるのです。過去に何度か起きていて、それが預言の書に書かれている災厄のヒトの話になったりしています。」


「宇宙ステーションには誰か住んでいるのかな。」


「今はもう誰も住んでません。ステーションの中央コンピュータによって制御されています。」


なるほど。コンピュータが支配する無人の宇宙ステーションか。

あれ、そういえば一時転生が終わって僕が帰ったらどうなるんだ。この身体の持ち主は言葉を話せないので、ダニールのマスターとしての資格を失うことになる、のかなああ。


「えーと、話は変わるけど、もし僕の知性が低下したらマスターでは無くなるのかな。」


「病気やケガなどで知性の低下が起きたときには、マスターの資格を失う場合があります。」


「そうするとマスター不在の状態になるわけだよね。」


「その通りです。」


それは、まずいのではないか。僕が帰った後のことだから、関係ないと知らん顔をするにはこの世界にかかわりすぎている。だからといって、別の世界のことを勝手に決めるのも良くないだろう。

うーむ、いったいどうすれば。


「ここにアレク技官とアンナさんの二人を呼ぶことはできますか。受付の横で待ってると思うんですが。」


「マスターのお望みであればそのように。」


ダニールは机の上にあるインターホンみたいなもので受付に連絡して、アレク技官とアンナさんに来てもらうように伝えた。さっきもそうだったけけど、ダニールがアレク技官をアレク技師と呼ぶのは、この研究所での肩書きなんだろうか。

そんなことを考えつつ、僕はドアの所に二人を迎えにいった。

通路の角を曲がって最初にアレク技官、続いてアンナさんがやってきた。


「やあ、僕らも呼ばれるとは驚いたよ。僕の研究所生活の中でもこの部屋に入ったのは初めてだよ。」


きょろきょろと興味深そうにあちこちを眺めながらアレク技官は言った。アンナさんは少し固い表情で黙っていた。


「どうぞ、入ってください。実は二人に相談したいことがあるんです。まずこの部屋の主のダニールを紹介します。」


「ようこそ。マスターの願いによりお二人をお招きしました。」


「おお、あなたが伝説の…。ヒトの姿をしているというのは噂で聞いたことがあったけど、本当にそうだったとは。いやあ、これもダン、君のおかげだよ、ありがとう。」


「喜んでもらえて良かったです。これからちょっと大変な相談をしなくてはいけないんで少し申し訳なく思ってたんですが、まあ伝説の災厄のヒトに会えたことと引き換えといっては何ですが、良いことがあれば大変なこともあるということで。」


ちょっとまとまらない言い訳じみた言葉をアレク技官にかける。


「災厄の、ヒト。」


アンナさんがこの部屋に来て初めて口を開いた。


「そうなんですよ。僕もさっき聞いてびっくりしたんですが、本当に預言の書にでてくるヒトが、今目の前にいるダニールなんです。あ、ダニールという名前は僕がさっき付けたんですが。」


「とりあえず、皆さんお座りください。」


ダニールの言葉で僕達はダニールと向き合うかたちでイスに座った。


「さて、それじゃあまずさっき僕にした話をこの二人にもしてもらえるかな。僕の話はそれからするよ。」


「よろしいのですか。」


「ええと、戦争が終わった後の話からでいいかな。なるべくショックが少ない方向でたのむよ。」


ダニールに言われて気が付いたけど、豚人のフトがヒトの使役動物だったというのは言わない方がいいだろう。なので戦争後からにしてもらった。



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