第79話 相談

アレク技官とアンナさんは、ダニールの話を黙って聞いていた。

戦争の原因はうまいことぼかして、戦争が始まった後から話が始まった。フトに人権を認めるかどうかといったことを話すと、フトが使役動物であったことも言うことになってしまうので、それは内緒にするというダニールの配慮だ。

結果として預言の書とだいぶ似通った感じになっていて、おそらくは預言の書も同じような理由で書かれない事実があるのだろう。


アレク技官は僕に宇宙ステーションの話をしたこともあるので、おおよその事実は知っていたのだろう。興味深く聞いてはいるが、それほどの驚きはないみたい。

アンナさんはかなり衝撃を受けているように見える。預言の書を信じていたとはいえ、それが歴史的な事実だというのはショックだったのか。それとも預言の書に出てくる災厄のヒトであるダニールが目の前にいるというのが衝撃だったのかも。


「なるほどね。噂としてはうすうす知っていたけど、それらが事実だというのはやはり驚きだね。」


ダニールがひととおり話し終わるとアレク技官が言った。アンナさんはだまっている。


「えーと、僕の話はここからなんですが。まず、僕がダニールのマスターとして認定されたことで、宇宙ステーションから攻撃される恐れはほぼ無くなりました。」


「喜ばしいね。しかし君と初めて会ったときにはこんなことになるとは思わなかったよ。」


「問題はここからなのですが、もし僕が死亡したり何らかの理由で知能が低下した場合にはマスターの資格を失い、ふたたびマスター不在の状況になるわけです。」


「そんなことはまずないだろう。君の身の安全は警察が保証するし、そうか、君は別の世界から来たと言っていたな。」


「そうなんです。そしてその期間は一週間つまり7日間で、それがすぎたら僕の精神はもとの身体にもどります。」


「そうすると今の君の身体は…。」


「元の持ち主に戻ります。今は一時的に眠ったような状態になっています。そして今の僕はこの身体の記憶を共有していますが、この身体の持ち主は言葉を話したりすることも出来ないようです。」


「なんと。ちょっとまってくれ、7日と言ったな。君と初めて会ったのが1日目で、2日目にヒト研究所に行って行方不明になる。」


アレク技官はここで言葉を切ってこちらを見た。成り行きで逃げたことを後悔はしていないが、アレク技官には悪いことをしたと思ってる。

3日目は子供たちと遊んだり言葉を教えたりして、4日目の朝は畑に行ってアレク技官の訪問があった。つまり今日だ。


「だから今日は4日目になるわけか。あと3日でまた危険な状態に戻るわけか。」


「もっと悪くなる可能性が高いです。短期間でのマスターの消失は何らかの攻撃があったとみなされる恐れがあります。」


アレク技官の言葉に、ダニールが答えた。


「僕としても問題を起こしたままで帰るのは忍びないので、何とかできないかということで何か良い方法はないかという相談がしたいのです。」


しばらくの沈黙の後、口を開いたのはダニールだった。


「宇宙ステーションの危険を無くす方法はあります。私が宇宙ステーションに行ってコンピュータを停止させます。」


「準備していた宇宙に行くという計画かな。でもそれが出来るならもっと早くやっても良かったのでは。」


僕がそう言うと、アレク技官が口をはさむ。


「ちょっとまってくれ。その計画は僕も少しだけ聞いているけれど、たしかステーションごと爆破するというものだったはずだ。」


「人間ではない私にはコンピュータを停止させる権限がないので、止めるには破壊する必要があります。」


とダニール。


「それは人間ならコンピュータを止められるということかな。」


この場合の人間というのはヒトのことだろう。つまり…。


「その通りです。一定以上の知性を備えたヒトであれば停止や設定変更などの操作も可能です。」


うーむ、つまり僕が行けば止められる、わけだなあ。そこまでしなくてもいいかと思う反面、宇宙にいけるなら行ってみたいという気持ちもある。




「もし僕がコンピュータをどうにかするためにステーションに行きたいと言ったら、3日の内になんとかなるのかな。」


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