第74話 衛星
「それって本気で言ってるんですか?」
という僕の少しあきれたような問いかけに、
「勿論だ。」
とアレク技官は答えた。
前にアンナさんも何かそんなことを言ってたけど、あれは預言の書のお話のことだ。最後のほうに聖書の黙示録ではないけど、ヒトがふたたび言葉を取り戻したときに、ヒトとフトが争えば世界が滅ぶとかなんとか警句みたいなのがあった。
しかし僕が災厄のヒトなんかではなく、単なる異世界から一時転生しただけの普通の地球人なので関係ないことだと思っていた。
「預言の書のお話のことなら違いますよ。それにアレク技官はああいう本を比喩的にならともかく、現実のこととしては信じない方だと思ってたんですが」
「お話であってもいくばくかの真実を含むことはあるさ。宇宙が一点から始まったというのは、今の科学での観測結果とも矛盾しない。」
「それはまあそうですが、だとすると他にも何か事実だと裏付ける物があったりするのですか。」
「古代ヒト文明のつくりだした空に浮かぶ島、これは月みたいにこの大地を回っている衛星のようなものだが、それが1つはまだ残っている。」
ラピュタは本当にあったんだ。みたいなことを思ったが、さすがに口にするのは自制した。
「なるほど。だとしてもこれまでも空に浮かんでいたけど何もなかったんですよね。それとも空から岩を落としたりということも本当にあったことなんですか。」
「過去については状況証拠しかないがね。そして近いうちにまた攻撃が行われる可能性があるんだ。」
「本当ですか。」
「絶対ではないが、可能性は高い。一緒に来てもらえれば、詳しい説明もできるのだが。」
「わかりました。一緒に行きましょう。」
「ありがたい。」
いきなり世界を救って欲しいなんて言われたら戸惑うのが普通だろうけど、一時転生中はなんというかゲームをしているみたいな非現実感もあって簡単に承知してしまった。
その方が面白そうだからというのと、古代の超文明を裏付ける何かが見れるかもとかも考えた。
アレク技官と僕は一緒に部屋を出て、入り口近くの広間に行った。警官が一人いて、何人かの豚人とヒトが所在なげに立っていた。
「やあご苦労さん。こちらの用は終わったから、そっちもいいだろう。」
アレク技官に言われた警官はどこかに移動した。
残った豚人と人は、こちらを遠巻きにして見ている。
少しして、さっきの警官ともう一人の警官、そしてアンナさんがやってきた。
「ああ、捜査への協力感謝します。行方不明のヒトは見つかって、本人の了解も得られてので連れて行きます。」
「嘘!、どうして。」
アレク技官の言葉に、アンナさんは普段からは想像もできない激しい口調で答えた。
「嘘ではないさ。これは本人に言ってもらったほうがいいか。ダン、問題にならない範囲でたのむ。」
この問題にならないというのは、宇宙から隕石を落とされることを言ったりしないでということなんだろう。
「あー、アンナさん。短いあいだですがお世話になりました。事情があってまた警察の人と一緒に行くことにしました。」
「そんな。また戻ってこれるのですか?」
今が転生四日目だから、あと三日。多分ダメだな。でも…。
「えーと、もし戻ることができたら戻ってきます。」
正直に言うのもどうかと思ったので、ぎりぎり嘘にならない範囲でそれっぽく返答した。
少し考えるようにうつむいて黙っていたアンナさんだったが、顔を上げた。
「わかりました。」
「そうですか、それじゃ…。」
「私もいっしょに行きます。」
僕の言葉をさえぎってアンナさんが言ったのはそんな言葉だった。
それからアンナさんと僕、それにアレク技官を交えて話をした。主にアンナさんが話し、それに答える形でアレク技官。僕はほとんど口をはさめなかった。
結果として、アンナさんもついてくることになった。アレク技官が折れた形だ。
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