第73話 警察
警察の車がやってきた時に、僕は自分の部屋にいた。
これはウソではないが、この時点ではパトカーが来たことを知らなかった。
当時の僕の主観としては、アンナさんに来客がある予定で部屋から出ないように頼まれたので部屋にいたということだ。
僕としても研究所から勝手に抜け出した身なので外部の人に見られるのはまずいかもしれないと感じていたので、特に疑問にも思わず従った。
特にやることもないので、また預言の書をぱらぱらと見ていた。この本には神の存在が明確に書かれているわけではないのだけど、宇宙の始まりなどを実際に見たかのように書いているので超自然的な存在を前提にしている。そして本として存在しているのだから、過去のどこかで書いた人がいる。実際に見たり経験したのでもない事をどうやって知ることができたのかと考えると、神のお告げ的なものつまり預言によってとなるわけだ。
ただ人間、それがヒトであれ豚人のフトであれ言葉を持つ人間が登場している部分は誰かが体験したことを書いたとも考えられる。今のこの文章を、僕が体験したこととして書いているのと同じように。
この時の僕は知らないことだけど、僕が部屋にいた時にアンナさんはやってきた警察に話を聞かれていた。名目としてはヒト研究所でのデモのこと。研究所の敷地に勝手に入ったのは違法なので、形式的に話を聞いているということだった。ついでのように、研究所のヒトがいなくなった件について何か知らないのかも聞かれたらしい。
このいなくなったヒトというのは僕のことなので、アンナさんは当然ながら知っているし僕を連れ出した首謀者でもあるのだけど、知らないと答えたらしい。そして警官はそれほど疑っている様子ではなかった。と、後からアンナさんが教えてくれた。
アンナさんが警官に話を聞かれていた時に、僕の部屋に訪問者があった。
ドアにノックの音がした。
「どうぞ、開いてますよ。」
僕は机で本を読みながら答えた。アンナさんの用事が終わったか、でなければサラやフレッドでも来たのだろうと思っていた。
「やあ、久しぶり。」
開いたドアの向こうにいたのは、アレク技官だった。
「あ、こんにちは。」
僕は驚きでうまく言葉がでなかったけど、なんとか返事らしきものをした。実際はもっと変な「あうあう」とか「ほええ」みたいな無理に文字にしても意味の通らないことを言った気がする。記録としてなるべく事実に近い形で文章を残すつもりだけど、こういった多少の修正は入れている。あと若干の自分に対する美化というか、都合が悪いことを省略したりもしている。たとえばオムツをはいてオシッコをしたとかをもし体験したとしても、書かないんじゃないかと思う。
「2日前に別れていらいだから、1日ぶりかな。」
訪問した側のアレク技官は落ち着いている。
「どうしてここがわかったんですか。」
そう口にだしている間、自分で考えてもいた。例えば警察の協力者がアレク技官だった可能性とか…。
「この場所にということなら、順番に調べた結果かな。昨日は研究所の近くを中心に捜査したよ。」
「なるほど、それで見つからなかったからここにも来たと。」
「その通り。これでいいかな。」
「この建物にというのはわかりました。この部屋に僕がいたことについてはどうですか。」
そうなのだ。僕がアンナさん達のグループに連れ去られてこの建物にいるのまでならともかく、どうしてこの部屋までわかったのか。順番に部屋を調べているような気配はなく、直接この部屋にきてノックをしたのだから部屋がわかっていたと考えるのが妥当だ。
「ふーむ、これは警察の秘密なのだが君には正直に言おう。生命探知装置を使うと壁の向こうに誰かがいるのかがわかるんだ。」
どんな原理なんだろう。体温による赤外線だと壁の向こうはわからないだろうし、超音波のレーダーとかかなあと考えた。
「でもそれだと誰かがいるのはわかっても、誰というのはわからないのでは?」
「それはそうなんだが、警察関係者だった場合にはわかるようになっている。」
敵味方の識別みたいなものだろうけど、どうやって区別してるのか。それに僕は警察関係者ではない。まあ着てる服は警察のだけど…。
「もしかして、これですか。」
僕は両手で着ているベストをつまんだ。
「当たり。」
「発信機みたいなのは無いと思うのですが。パッシブな何かですかね。繊維のパターンとか。」
「それは秘密にしておいてもらえるとありがたいね。」
「わかりました。それはともかく何かご用ですか。」
このくらいになると、僕も驚きから回復してきてた。アレク技官が来たのは研究材料としての貴重なヒトとしての僕を求めてなんだろうと推測できたので、少し皮肉っぽく言ってみた。
「いっしょに来て欲しい。君にこの世界を救って欲しいんだ。」
えっと、それ本気で言ってます?
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