第68話 昼食
「子供達と楽しそうに遊んでいたようですが、子供はお好きなのですか。」
アンナさんと昼食を食べていると、そんなことを聞かれた。
「どうですかね。嫌いではないと思いますが、特別好きかどうかは。まあ大人と同じくらいでしょうか。」
今回みたいにたまに相手をするくらいなら大丈夫だけど、これを仕事にしたいとは特に思わない。たまに親戚で集まるときにも似たような感じで子供の相手をすることがあるけど、それもたまのことだからいいのだ。個人的には子供の相手も親戚のおじさんの相手も似たようなものだと思ってる。積極的にやりたいとは思わないけど、イヤというほどのことでもない。
「子供に対しても大人と同じように接するとは、なかなかできることではありませんね。」
アンナは感心しているみたいだけど、何か誤解してる気がする。
昼食のメニューは野菜のソテーがメインで、輪切りの茄子みたいなものなどが軽く焦げ目がつくくらいに焼かれている。
「そういえば近くに畑があるみたいですが、もしかしてこの野菜もそうなのですか?」
ソテーを食べながら聞いてみた。味付けは塩と、少しピリッとするコショウみたいなのが使われているみたいだ。
「ええ、いくつかは先ほど収穫された物のはずです。」
「とれたてというわけですね。」
そういった世間話のような食事中の会話をしていたのだけど、食後のお茶を飲んでいるときに、
「そういえば、昨日の件がニュースになっていました。」
とすこしきな臭い話題がアンナからもたらされた。
「どんな感じでしたか。」
「それほど大きな扱いではなく、ヒト研究所から研究用のヒトが逃げたとだけ伝えていました。」
「それだけですか。誰かが連れ出したとかは…。」
「そういうのは特になにも。」
「じゃあ今のところ、ここが見つかる心配もなさそうですね。」
「そうだといいのですが。」
僕は特に法に触れることをしたわけではなく、勝手に逃げてしまっただけだけど、たぶんアレク技官とかは僕を探してるんじゃないかと思う。あと今着ている服は警察の備品だから、それを勝手に持ち出したのは問題かも。
しかし今にして思えば、どうして初対面のアンナさんの言うままに付いて来てしまったのか不思議な感じもする。それにトイレに行った僕にタイミングを合わせたように、非常口から入ってきたのも偶然にしては出来すぎだ。
「昨日のことなんですが。」
「なんでしょう。」
「アンナさんが非常口から入ってきたのは、僕が近くにいるとわかっていたんですか。」
「いえ、まったくの偶然で私もびっくりしました。」
「そうなんですか。それはすごいですね。じゃあもしあそこで会えなかったら…。」
「そのまま見つかるまで研究所内を探すことになったと思います。」
その場合はうまく出会えたんだろうか。入り口付近でのデモ隊の騒ぎで多くの職員がそっちに行っていたとしても全員ではないだろうから、途中で不審者として発見される可能性もあっただろう。
「そう考えると、アンナさんは誰かに見つかるかもしれないのに僕を連れ出しに来てくれたわけですね。結果としてはすごくうまくいったわけですが。」
「でも私はきっとうまくいくと信じていました。」
アンナさんはそういってこちらを見つめてくる。若い女性に正面から見つめられると少し照れるけど、見た目がアレなのでなんとか大丈夫。異性との会話も親戚のいとこと話すのと似たような感じで乗り切れる。
「あー、あー。」
そこに可愛い乱入者が。さっきのヒトの男の子だ。朝はサラだったし、ローテーションでも組んでるんだろうか。
「何かな。」
と聞いたら、
「あー、あ、あー。」
みたいな答が返ってきた。何だろう。また遊ぼうということかな。
「またいっしょに遊びたいのかな。」
「あー。」
そうみたいだ。もしかしてさっきのも「あそぼー」と言おうとしたのかも。
「あそぼーって言ってたのかな。あー、そー、ぼー。」
「あー、あー、あー。」
ダメか。まあそんなに簡単に話せるようにはならないかな。
「じゃあ、もうちょっとしたらまた遊ぼう。」
そう言いながらさっきのことを思い出して何となく手を頭に乗せた。
男の子も僕を見て同じように手を頭に乗せた。
「あたっ、かた。」
あれ、今しゃべったの?
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