第62話 災厄

休憩が終わり、走り出した車の中でアンナさんの話は続く。


ヒトが支配する時代が終わって、次に登場したのが預言の書ではフトと呼ばれる豚人たち。

フトがどうやってヒトが失った言葉や知性を手に入れたのかは不明。ヒトが猿から進化したように、豚から進化したのかも不明で、預言の書には書かれていないみたいだ。

ヒトの文明が滅亡してからの進化だと、ヒト文明の滅亡などの話が伝わってるのが不思議なので、ヒト文明があった時代にもフトがいたのではないかなあと想像できるけどこのあたりは謎のままだ。

謎といえば猿から人間が進化する原因となった光というのも謎だ。SFだと宇宙からの放射線によって劇的に進化が進んだみたいな話があるけど、そういう何かなのだろうか。


預言の書では、知性を持ったフトがしだいに文明を発達させるのだけど、ヒトが争いで滅んだ二の舞にならないよう平和で争いのない社会を築いていったとある。

わずかに生き残っていたヒトは言葉や知性を失ってしまったが、フトの社会から排除されることなく受け入れられた。

そんな話のところどころに登場するのが、昔のように言葉を話すヒトだ。どこからともなく現れて、主に災厄をもたらすヒト。


ある者は王に取り入り、進んだ武器を沢山作り出して、まわりの国を支配しようとする。

火を吐く筒とあるから、鉄砲とか大砲あたりだろうか。

しかしある時、王の宮殿は大爆発して消え去る。天から火が落ちてきたとも描かれているけど、火薬が爆発したとかの事故の可能性もあるかも。


またある時は火山の近くの町にあらわれ、もうすぐ噴火が起きるから逃げるように言う人が登場する。ほとんどの者は信じなかったが、彼の言葉を信じた男とその家族だけは逃げて生き延びた。噴火が起こったからだ。


ヒトを牛や馬のように鞭で打って従わせている奴隷商人のいる町に現れた話すヒトもいる。奴隷商人は彼の話を聞かず、逆に捕まえて奴隷にしようとする。

この町はほどなく天からの火で焼かれるのだけど、このときも捕らえられたヒトに親切にした商人の娘が難を逃れている。彼が逃げるように娘に話したからだ。


他にも似たような話があったが、パターンとしては話すヒトが何らかの災厄をもたらすという感じで、彼の言葉を信じたものが生き残る場合が多い。

お話としてみれば聖書とか昔話によくある気がするけど、本当にあったことだとすると何度も登場する話すヒトはどこから来たんだろう。

僕みたいに異世界から一時転生したなんてことはないだろう。他に考えられるものとすると、過去に宇宙に行ったヒトの生き残りか。

大地と空での争いというのが地上と宇宙だとすると、空に浮かぶ島は宇宙ステーションで、生き残ったヒトが言葉や文明を保っていたとする可能性もある。

それならどうして地上を自分たちのものにしないのかという疑問はでてくるけど、そこまで人数がいないとか、宇宙こそが自分達の故郷だと思ってるなど何か理由があるのだろう。

そして、もしそうだとしたら、今でも宇宙には文明を持つ話すヒトがいるということなんだろうか。なんとはなしに車の天井を見上げる。この先の空の向こうの宇宙に今もいるんだろうか。



話を聞いていて気になったのは神という言葉や概念が出てこないこと。地球の聖書だと神が大地などをつくったとあるけど、こちらの預言の書では誰がというのが出てこない。

天まで届くような塔も、バベルの塔のように神の怒りで壊されたのではなく、ヒトの争いによって破壊された。

そして話すヒトも別に神の使いとかではなさそうだ。預言の書の預言というのは神から伝えられた言葉のことなので、神がいないのに預言は変な感じだ。

そう思ってアンナさんに聞いてみたのだけど、止められてしまった。地球でも神の名前を口に出すのは良くないとか恐れ多いというタブーの概念はあるけど、存在について言及するだけでも良くないものなのか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る