第61話 休憩
実際のアンナの話はもっと長く、途中で質問したりしながらすすんだので結構時間がかかった。
休憩したのはたしかヒトの支配する時代が終わったあたりだったと思う。
「少し休みましょう。外に出るときはまたこれを着てください。」
アンナはそう言って、さっき返したコートを差し出してきた。
外を見ると高速道路のサービスエリアみたいな、もう少し寂れた感じだからパーキングエリアの方が近いか、とにかくそんな休憩所らしき場所に来ていた。
他のコートの3人が先に降りて、僕とアンナが続く。もう外は暗くなっていた。
まずはトイレに行く。この話にはトイレに行くシーンが多いと思うが、それは実際に行ってるからなのと僕が覚えているからだろう。小説を読むとトイレシーンはカットされているのか、ほとんど出てこないことも多い。なので読んでいて、どこでトイレに行ってるんだろうと気になることも多い。
トイレで一人、用をたしながら現在の状況を考える。アンナは悪い人ではないのだろうけど、話の内容からするとちょっとやばい人だとも思える。でも身の危険は無さそうだし、話も最後まで聞きたい。
トイレから出ると、アンナが待っていた。彼女一人だ。
「おまたせしました。他の人は?」
「あちらで、食事しています。私達も行きましょうか。」
歩き出そうとするアンナさんを呼び止める。
「その前に、ひとつ聞いてもいいでしょうか。」
「何でしょう。」
アンナさんが立ち止まり、こちらを振り返る。振りかえるときに長い髪が揺れる。
「他の人達のことなんですが。」
「何か気になることでも。」
「なんと言うか、アンナさんはこうして普通に僕と話をしていますが、他の人は黙ったままですよね。」
そうなのだ。運転席の人はともかく、他の3人も黙ったままでアンナさんと短い言葉をやりとりすることはあっても、僕に話しかけることはない。
「それは、恐れているのでしょう。」
「恐れて。僕のことをですか?」
「申し訳ありませんがそうです。話せるヒトが街を滅ぼすという物語は、預言の書にいくつか出てくるのです。」
この話はまだ聞いてないが、ヒトの支配が終わり、ヒトが人間ではなくなった後にも登場するんだろうか。
「わかりました。別に嫌われて無視されているのではないのがわかっただけでもよかったです。ところで、アンナさんはどうなんですか?」
この質問はアンナさんは僕のことを恐れてはいないかを聞こうとしたというよりは、そうではないという答を期待してのものだ。僕とこうやって普通に話をしているアンナさんは怖がっていないだろうというのは予測していた。
なので、
「私は言葉をかけられたる者ですから。」
という予想外の返事にとまどってしまった。何しろ意味がわからない。
しかしアンナさんはそれで充分だと言わんばかりに歩き出してしまった。仕方なく僕もあとをついて行く。
アンナさんの言った言葉のかけられたるというのは受身だから、誰かに言葉をかけられた者というのを少しもったいぶった言い方にしただけか。聖書っぽいイメージだから預言の書に出てくるのかなみたいに考えていた。それは正解でもあり間違いでもあることが後でわかることになる。
トイレから少し離れた場所にある休憩所の建物の内部は、いくつかのテーブルとイス、それから飲み物や食べ物の自動販売機が並んでいた。
買い物はアンナさんにおまかせして、お茶とホットサンドを受け取ってテーブルに移動する。運転手も含めた4人は先に座って食べ始めている。アンナさんはその隣のテーブルに座ったので、僕は向かい側に座る。
お茶はプラスチックらしき密閉容器に入っていてほんのり温かい。アンナさんの真似をして飲み口を開ける。ほうじ茶みたいな色と香り。
ホットサンドは紙の袋に入っていて、こちらは熱々で袋を開けると蒸気が出てきた。
やけどしないように注意しながらかじる。
2つのテーブルの6人は、特に会話もなしに食事を続ける。僕を含めて4人はフードをかぶりっぱなしなので、外部から見たら怪しい集団に見えるかも。でも今のところテーブルのあるコーナーには他の客はいない。たまにトイレ利用や外にもある販売機で飲み物を買っている人がいるくらいだ。
何人かは追加で食べるものを買っていて、僕も聞かれたけど一つで充分だと断った。
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