第60話 預言の書

窓からは外の景色も暗いけれど見れないことはない。なので後ろに続いていたもう1台の車がいなくなったのにも気が付くことが出来た。


「別々の方向に帰るのですか。」


と聞くとアンナが答えた。


「あの車は近くにいるメンバーのものです。私達は今日の為に特別にやってきました。」


そういえば他のメンバーはまだ話してるのを聞いたことが無い。こちらを気にしてはいるようだけど、黙っている。

ワンボックスタイプの大きな車には、僕とアンナ以外に4人乗っている。1人は車を持ってきた運転席の人で、他の3人はフードもかぶったまま黙って席に座っている。


「特別にというと、もしかして僕のためですか。」


「もちろんです。」


「でも、僕があの研究所に来るのが決まったのは昨日のことだと思うのですが、良くわかりましたね。」


何しろ一時転生でこの世界に僕が来たのが昨日の明け方なわけなのだから。


「警察にも私達の協力者はいます。」


なるほど。あの警察署にいた人なら僕のことを知る機会はあっただろうし、研究所に行くというのもわかったのだろうな。

でも警察にも協力者がいるというアンナたちのグループのことが気になる。


「その私達について教えてもらってもいいかな。たぶんヒト愛護団体みたいなものだと想像してるのだけど。」


「私達はヒトと人間の最終戦争を回避することを目的とする清浄な平和というグループです。」


なんかやばそうな団体だ。一緒に来たのは判断ミスだったかとも思ったけど、いまさら仕方ない。何かあったらこの身体の持ち主には悪いけど緊急帰還で戻ろうと思って心をおちつけて、表面上は平静に対応を続けた。


「ひょっとして預言が書かれた本とかがあるんですか?」


「まさに、その通りです。」


アンナは熱心にうなずく。このうなずく動作は、この世界でも肯定を意味しているようだ。


「よかったら、その預言の書の内容を簡単に教えてもらえませんか。」


「わかりました。」

それからアンナの長い話が始まったのだけど、忘れてしまった部分も多い。記憶に残ってる範囲でなるべく簡単にまとめてみる。


まず最初は旧約聖書的な世界の始まりについて。


はじめに何もないところに世界の種のような点が現れ、広がっていった。

広がった世界は混沌としていたが、まもなく晴れ上がり光に満ちた。

次に物質が現れて、あちこちで渦をまいて集まっていった。

渦から光る星が生まれ、その周りをまわる大地もつくられた。

最初は熱かった大地がしだいに冷え、長い雨によってさらに冷やされた。

雨によって作られた海の中に、最初の生命が生まれ、満ち溢れていった。

海の中の生き物は、陸地へも広がっていった。


ここまでが世界の誕生について。聖書だと神が7日で世界をつくったとなっているけど、わりと似たような感じ。でも内容からするとビックバンによる宇宙の始まりや、真空の晴れ上がり、そして恒星や惑星の誕生をふまえているようにも思える。ここら辺は、聞き手である僕の解釈も入ってるかもしれない。

この時点では植物や動物はいるけれど、知性を持つ人間は存在しない。


次に人間誕生編。ここでの人間は今の豚人ではなく、僕のようなヒトというのが注目の点。


理由はわからないけれど選ばれた猿に空から光が降り注ぎ、ヒトが誕生した。

ヒトは他の動物にはない知性を持ち、言葉や道具を使う人間として他の動物を従えるようになる。

大地の全てに広がったヒトは、天まで届く高い塔を作るほどになった。

高い塔によって空にも住みかを広げたヒトの繁栄は、いつまでも続くかに思えた。


ヒトが猿から進化したかのような描写は、妙に科学的にも思える。高い塔は聖書のバベルの塔を連想させるけど、もしかしたら軌道エレベータのような宇宙に届く建造物だったりするのかも。


繁栄していたヒトは、空と大地とに別れて争いを始めた。

大地から放たれた光は空に浮かぶ島を焼き、空から落とされた岩は街を破壊した。

天まで届く塔も壊され、大地と空は分断された。

こうしてヒトの支配する時代は終わりを遂げた。


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