第56話 鉄道

泊まる部屋はもちろん牢屋ではなかった。安いビジネスホテルみたいなベッドと小さな机のある部屋が用意された。バスルームもシャワーだけとはいえ付属している。

夕食までは部屋でのんびりして、食事は呼びに来たアレク技官といっしょに昼の食堂に行った。こんどは昼にマリアが食べていた丼物にした。もちろんスプーンを使って食べたが、米よりは麦に近いパラリとした穀物に汁が多めの鳥ソボロみたいなのがのっていた。味は普通だけど、食べ方も含めてジャンクな印象がある。


「そういえばアレク技官は食器を使って食べるんですね。」


同じものを食べているアレク技官に質問してみた。


「伝統的な食べ方としては直接鼻先を突っ込んで食べるのだけど、僕はあまりやらないかな。おかげで気取ってるとか言われるよ。」


地球の食べ物でいえばサンドイッチをフォークとナイフで食べるみたいな感じだろうか。でも直接口をつけて食べられたら笑ってしまっただろうから、気取った食べ方で良かった。


その後は部屋に戻ってシャワーを浴びてから就寝。今日が転生初日だけど、明け方にマイの家のワラの山で眠ったから、異世界で寝るのは2回目か。



翌朝は快適な目覚め。はやく起きたけど顔を洗ってトイレを済ませるとやることがない。部屋にはテレビもないし読むものも無い。地球のホテルだと何故か聖書が置いてあったりするので、暇なときにはそれを読んで時間をつぶせるのだけど。


しかしそれほど待たずにアレク技官がやってきた。そういえばアレク技官も昨日はここに泊まったんだろうか。


「おはよう。良く眠れたかね。」


「おはようございます。おかげさまでぐっすりです。」


「それはよかった。今日は移動に検査だから大変だろうと思うけどがんばってくれたまえ。何しろ研究者というのは変人揃いだからな。」


変人が言う変人というのはなんかすごそうだけど、大丈夫かな。


それから食事はいつもの食堂。これで3食連続だ。昼と夜は同じようなメニューだったけど、朝はちょっとちがって軽食っぽいものが並んでいた。サンドイッチ風のパンにハムみたいなのをはさんだものなどを食べ、麦の香りのコーヒーを飲んだ。


「駅までは警察の車で送ってもらって、そこからは鉄道だ。」


「鉄道というとレールの上を走る車両ですか。」


「そうだが、乗ったことはあるのか?」


「いえ、少なくともこっちの世界ではありません。」


「こっちの世界では、か。すると君のいたという世界にも鉄道はあるわけか。」


「そうですね、技術レベルは同じくらいだと思います。」


「そうなのか。だとすると…。まあいい、そろそろ出発しよう。」


「了解です。」



警察署から駅までの道のりは、昨日警察にくるときに見たのとそれほどの違いはないものの、すこしにぎやかな印象はあった。駅の近くには、デパートみたいな高い階のビルが立ち並んでいた。機会があれば中を見てみたいところだ。


「ついたな。ありがとう。」


「どうもお世話になりました。」


アレク技官といっしょに、ここまで送ってくれた警官に礼をいう。運転はほとんど自動みたいだったけど、それでもドライバーは必要みたいだ。


「あ、荷物持ちましょう。」


「いや大丈夫だ。」


「それならいいですが、人間とヒトが歩いていて荷物を人間が持っているのは平気なんですか?」


「なるほど、君はそういうことにも頭がまわるのだな。でもいいよ。たまには自分で荷物をもつ変人もいるからな。」


改札みたいなゲートを通ってホームに移動した。切符のようなものは見せなかったけど、そういうのは不用なんだろうか。それともタッチしないでもいい非接触の何かを使ってるのか。


「切符は無いのですか。鉄道に乗るための予約や費用を支払った記録的なものという意味ですが。」


「ああ今は電子化されているが予約はしてあるぞ。乗るだけなら公務IDでいいが席は予約したかったのでな。」


そういえば食堂で料金を支払ってるのを見た記憶はないけど、あれも自動で何かしてるんだろうか。まあどちらにせよ僕はお金を払えないので、その辺は気にしないでおくことにする。



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