第52話 食堂
「それはそうと、そろそろ食事にしないか。」
僕の脅威度をアップすると言ったアレク技官は、ショックを受けて黙っている僕に、うってかわったような軽い感じで声をかけた。
脅威というのは小型の銃に関するものだろう。それとも、もしかしたら。
「どちらですか?」
と聞いてみた。
「何のことだね。」
だめだったか。仕方が無いので具体的に質問しなおす。
「脅威なのはどっち。銃?、それとも飛行機?」
「両方だ。できれば小型の銃とデルタ翼の飛行機については口外しないでもらいたい。」
「わかりました。」
なるほど、つまりこちらの世界にはコンコルドとか戦闘機みたいな超音速機はまだ実用化されていないのかな。地球ではこれからの自動運転の車が走ってる世界だけど、地球よりも遅れている部分もあるということなんだろう。
飛行機についてはあてずっぽうというか、紙鉄砲での遊んでるような身振りがこちらの知識を試すためのものだったから、紙飛行機で遊んでたのも何か裏があるのかなあと思いついたので質問してみたのだけど、当たりだったようだ。
「しかし、これで君が異世界から来たというのは信じられる。少なくとも僕は信じるよ。」
「それならまあ、良かったということになるんでしょうか。」
そもそもこのアレク技官が信用できるのかや、何か裏があるのではと疑えばきりがないのだけど、疑っても出来ることはほとんどないわけで、いちおう信用しておくことにする。
「さあ、それじゃあ御飯、御飯。」
スキップして進むアレク技官のあとをついて歩きながら、こっちの世界にもスキップはあるんだなあと思った。あと、この人は本当に大丈夫なんだろうかとも。
連れて行かれたのは建物の内部にある社員食堂みたいなところ。警察だから社員じゃなくて署員と言うべきか。
「さて、何でもご自由にと言いたいところだけど、今回は僕と同じでいいかな。」
「おまかせします。」
そう言っていっしょに行動する。やることは地球の社食と同じようなことだ。トレイを持ち、カウンターで料理をうけとる。定食っぽい複数の料理がまとめて盛られた皿が並んでいるのでトレイに取り、あとは白っぽいスープの入ったカップと、あれはパンかな。
パンだと思われるものはロールパンの半分以下の饅頭か団子といった大きさ、それが深皿に盛られている。量に差があるのはご飯の大盛りみたいに大中小と好きなのを選ぶ感じだろうか。
僕らの選んだ定食以外はというと、同じように皿に盛られた料理であるとか、丼みたいな食器に入った何かがあるのが見てとれた。
まだ時間が早いからか、食堂の席もガラガラだった。奥の席にむかったアレク技官についていって、4人がけのテーブルに向かい合うように座った。
「そういえばヒトは普段何を食べているのですか。」
「そうだね、専用のヒトフードもあるけど、人間と同じものでも栄養的には問題ないはずだ。マックスは僕といっしょにこんな感じで食事をすることもあるし、ここの厨房で働いてるヒトなんかは人間と同じまかないじゃないかな。」
ミートボールをフォークでさしながらアレク技官が答える。言われてみればカウンターの中では人間つまり豚人だけでなく、ヒトも働いていた。
そういえばミートボールの肉は、何の肉なんだろう。塩と胡椒か何か香辛料で味付けされた肉は、何となく豚肉っぽく感じられたのだけどこの世界では豚の肉を食べるんだろうか。
「ところでこれは何の肉ですか?」
聞いてみた。
「これは豚肉だね。」
やっぱりそうか。
アレク技官は続けて、
「この豚という動物は、人間の祖先なんだよね。細かく言うと人間と共通の祖先から進化したということになるのかな。」
と説明してくれた。
「そうですか。」
と努めて平静に返事をする。
「豚は飼育も簡単で肉も多くとれるからね。むしろヒトの祖先の猿の方が難しいし、肉として食べるのは珍しい。僕は無いけど猿の肉を使った料理もあることはあるみたいだね。」
アレク技官はパンもフォークで刺して食べている。フォークを使うのだとすると、小さなひと口サイズのパンというのも合理的かも。
合理的といえば地球で猿を食肉用として飼育しないのも、効率が悪いからなのかなあ。そういえば中華料理では猿の料理もあるみたいだしなあ。
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