第51話 試験

テストは知能テストで見たような正方形の中に三角形と円が入ってる図形を選ぶようなのだとか、簡単な計算があったかと思えば運転免許の試験のような標識の意味を問うものなどさまざまだった。子供向けのテストとも違う感じで、おそらくは犯罪の容疑者で知能レベルに問題がないかを調べたりする為のものかなあと想像した。

解答方式もマルバツや5択それに記述式など意図的に複数の方式を使っているようだった。


「ふーむ、興味深い。図形や計算などの能力は平均レベル以上で、文章読解能力にも問題はない。しかし歴史や地理の常識問題はまったくと言っていいほどできない。」


テスト結果を見ながらアレク技官がつぶやいているが、転生してきたばかりの世界の地理や歴史を知ってるはずがない。でもこの身体の持ち主が知っていたら答えられたのか。


「つまり君の主張の通りに別の世界からやってきたというのが本当か、さもなくばそう思わせるために偽装しているということになる。」


「知らないことを答えることはできないけれど、知っていることを隠すことはできるからですね。」


「その通り。そしてそういうことを自分から言うのも正直者か、うまくよそおっているかのどちらかだ。」


今はさっきの部屋からつながっている小さな面会室みたいな部屋にいて、僕は小さな机に向かって座り、アレク技官は部屋を落ち着き無く歩き回っている。

服も先ほどマックスが持ってきてくれたものに着替えている。着替えにもこの部屋を使わせてもらった。なので今はマックスと同じようなベストとスカート式短パンという格好になっている。下着は袖の短いTシャツと腰巻風パンツで、足元は足を覆うタイプのサンダル。


「何か別の世界ならではという知識を示してもらえれば、少しは信じられるのだけど、どうだろう。」


「そう言われても、何があるかな。光の速度が観測者によらず一定という法則は、こちらでも発見されていますよね。」


これが転生ではなく転移であれば、地球から持ち込んだ物品を見せたりできるのだろうけど、精神だけの転移だから知識的なものしかない。光の速度が一定というのは相対性理論の基礎だ。


「ああ、光速度一定の法則はこちらにもある。長さの基準にも光が使われているくらいだ。」


「そうすると、あとは何があるかな。ちょっとすぐには思いつきません。」


じっくり考えれば何か思いついたかもしれないけど、この時は本当に思いつかなかった。

アレク技官は手に持った紙を見ながら、


「そういえば君は紙で何か工作してたと報告にはあるけれど、ここでも何か作れるかな。」


と聞いてきた。


「簡単なのであれば、大丈夫です。ちょっとこれ使いますね。」


テストの時に使ったメモ用紙の残りを手に取った。

マイに作ったのは箱と折り鶴、紙鉄砲だったけど、箱はそれほどうけなかったから今回は無しにして、紙飛行機を折ってみることにした。


「まずはこんなのはどうでしょう。これはこうやって投げると、飛びます。」


軽く投げた紙飛行機は、反対側の壁に当たって落ちた。


「これは飛行機を模しているのか。しかしこんなに単純な形でも飛ぶものなのか。」


紙飛行機を拾い上げたアレク技官は、手に持って眺め、自分でも飛ばしてみた。

飛んでいった紙飛行機を拾っては投げというのを繰り返している。

アレク技官が紙飛行機で遊んでいるうちに、折り鶴と紙鉄砲を折りあげた。


「ほほう、これは報告書にあった鳥だね。」


「そうです。北の方にいる大きな鳥をモデルにしています。」


「こちらにも似たような鳥はいるが、こういう紙の模型は見たことない。それからこれが鉄砲の音がする物だったかな。」


「そうです。わりと大きな音がするので注意してください。」


紙鉄砲の一発目は不発だったけど、やり直したらしっかり音がした。


「なるほど、興味深い。こんなに簡単な仕組みで音が出るのか。」


アレク技官は手にした紙鉄砲を振って、無邪気な感じで遊んでいる。


「面白いですよね。まあこちらの世界では小型の銃は一般的ではないみたいですが。」


「ほう、小型の銃ね。」


アレク技官はにげない様子で紙鉄砲をもった手を腰にあて、銃を抜くような身振りをしてから紙鉄砲を鳴らした。


パァン!


「こんな感じのかね。」


「おお、そうです。そんなかんじのです。」


「なるほど。君の脅威度は少しアップする必要があるようだな。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る