第34話 二日目の夜と転生先の人間関係のまとめ

しばらく待ってもライラは家から出てくることは無かったので、僕も家に帰った。

夕食やフロも済ませて寝る前の時間に、現在の問題について考えることにした。問題というのは人間関係について。


ライラのあの言葉については僕のうっかりのせいだ。ライラの髪にとまったセミを取ったあとに、軽い気持ちで背中をたたいた。これが地球ならセクハラとか問題になるレベルではなく、友人同士の軽い触れあい程度のものだ。しかし、大球人は背中にも胸があるというか身体の両側が胸と考えた方がいい。なので僕がやったことは、女の子の胸を軽くたたいたということになる。これは問題だ。


しかしライラはあの場では特に怒ったり、先生に言ったりはしなかった。


そういったことや、カンカの記憶のあれこれから考えた結果として、ライラはカンカのことが好きなのだろうというのが導き出される。

カンカの認識としてはそういうのは全く無い。付き合いの長い隣に住んでいる幼馴染ではあるけど、最近は昔ほどいっしょに遊んだりはしなくなった友達で、異性としての意識は全く無い。これはカンカの記憶を共有しているので確かなことだ。

一方で具体的なあれこれからは、ライラがカンカのことを意識していることも確実だ。転生初日のように、カンカが家を出たときにはライラも家を出てきて一緒に登校することが多い。カンカが遅く出てくるときはライラも遅くて、カンカが早いときには早い。これは偶然ではありえない。

他にも今は珍しくクラスのグループが別になっているが、これまでたいていは同じグループになっていたりと、出来事を客観的に推察してみるとライラがカンカとの接触を増やそうと意識的に行動していることは確実だ。

ところがカンカ自身はまったくそれに気が付いていない。これはラノベやマンガでよくあるヒロインの気持ちに気が付かない鈍感主人公だなあと、笑ってしまうほどである。

その鈍感カンカの行動の変化が、問題を引き起こしてしまった。これはまあ僕がカンカの身体を借りてからやってきたことのせいなのだけど。

たとえばライラの眼鏡に言及したかと思えば似合ってると言ったりであるとか、最近では珍しく犬の散歩に一緒についてきたり。さらにはプールで髪についたセミを取るのだって、本物のカンカだったら多少髪が引っ張られても気にしないで虫を強引に外したことだろう。でも僕は丁寧に外した。それはいいとして、髪や頭を長いことさわることになってしまった。それだけでも身体接触が多いのに、最後に胸までさわってしまった。これじゃあ鈍感主人公じゃなくて淫乱主人公だよ。

淫乱は言いすぎとしても、ちょっとしたプレイボーイみたいなことを結果としてはやってしまったことになる。


さらにこのプレイボーイは、他の女の子にも手をだしている。タニタのことだ。


それまで本を読んだことも無いのに、急に図書室に行きたいと言い出して案内してもらう。これは異世界から来た僕がこっちの世界のことを知りたかったからなのだけど、そういうことがわからない人から見ればタニタに声をかけるための手段として図書室を使ったんだと思われてもしかたない。

そしてプールでは泳げるのにタニタといっしょの初心者グループに入った。これも僕が先生の話を聞いてなかったからなんだけど。

ライラの髪からセミを取ったあとでタニタの隣に行って、家に行く約束をする。そしてタニタの家に行った帰りにライラと会ったわけだ。


ライラにしてみれば、いきなり鈍感からプレイボーイみたいになって自分だけではなく他の女の子にも手をだした。そう思われたとしても、仕方が無いのかもしれない。


だから

「私の胸、さわったくせにー!」

という言葉が出てきたわけだ。


とまあここまでは推測も含むけどわかったと思う。あとはこれをどうしたらいいのかだ。

僕はラノベの主人公という柄ではないし、クラスのモブじゃなければせいぜい主人公に引っ張りまわされるくらいがせいぜいといったところで、困った状況を解決するうまい方法なんてそうそうでてきたりはしない。

もういっそ一時転生を強制終了して逃げ帰ってしまおうか。そんなことまで思ってしまった。

でも前回のような場合は不可抗力として、今回みたいに人間に近い知性体の身体を借りたのであればある程度はちゃんとした状態で戻るべきだろう。


机の表示部が点滅してメールが届いたことを知らせた。学校からのお知らせではなく、タニタからのメールだった。クラスメートなら特に連絡先の交換をしないでも、メールを送ることが出来るようだ。

タニタのメールの内容は、今日は楽しかったというのと、怒ってごめんという話。自分も母親に僕とのことをあれこれ聞かれてマンガを読みに来ただけだと言ってしまったということや、良かったらまた家に来て欲しいという中身だった。

タニタも、異性に対するものかはわからないけど、カンカに対して好意をもっているのは確かなんだろう。


いったいどうすればいいんだろうと少し考えたが、うまい手は考え付かず、いっそ鈍感主人公として行動してみようかと思い、悩んだ末にそうすることにした。


寝る前に、メールを書いて送信した。




**********************************

登場生物まとめ


カンカ:僕の一時転生を受け入れてくれた男の子。鈍感主人公。

ライラ:カンカの幼馴染。眼鏡っ子。

タニタ:カンカの左隣に座ってる女子。無口。マンガ好き。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る