第21話 帰宅と夕食と家族の会話
犬の散歩の途中でよくわからないけどライラを怒らせてしまい、気まずい感じで帰ってきた。
ミーカを先頭にライラ、そしてその後ろを僕があるいていく。何度か話しかけてみたけど、無視されてしまった。しかし過去の記憶からすると、こんな風にケンカというかライラを怒ってしまうことはわりとあるみたいなので、それほど心配する必要はないかも。
「じゃあね。また明日。」
家の前で別れて歩いていくライラの背中に声をかけたが、返事は無かった。
家に戻ってから体操の続きをちょっとやって、ヒマだったので教科書を読んでいた。この大球世界の教科書は電子化されていて、自宅の机でも呼び出して読むことができる。
電子化のメリットとして、関連する項目だと違う教科の内容でも呼び出すことができる。たとえば社会で果物の品種改良が出てきたら、そこから理科の品種改良のしくみなどのページを読むことができる。そして理科での生殖の仕組みから、保険体育へと移動することもできる。
「ぼくたちわたしたちの身体、か。」
大球世界の人間の身体は、目が前後に付いているだけでなく、かなり多くの部分が前と後ろで同じようになっている。たとえばお尻の反対側もやはり尻のようになっている。
これは足を同じように前後に動かすための筋肉がついているからだが、そして前にあるお尻の中にヘソが付いている。地球人に比べると、だいぶ下の位置になる。臍下三寸なんて言葉があるが、大球人のヘソはだいたい臍下三寸の位置と言っていいだろう。ようは尻の穴の位置にヘソがあるわけだ。
「後ろと前の両方に尻があるとは。」
教科書を読みながら独り言をつぶやいてしまう。自分の身体は着替えやトイレで見ていたが、教科書の図の説明を読むとまた違った発見がある。ちなみに朝にも確認した性器は、前後の尻の間の股の下に付いている。女の子の場合も位置は同じで、外形は地球人とかわらないまあこれもお尻みたいな形だ。なので大球人の女子だと前後だけでなくその中間にもお尻みたいなのがあるから3つの尻があることになる。
「ただいま~」
母親のマイマが帰宅したようだ。教科書に集中している間に外は暗くなっていた。
朝食事をした部屋に行くと、マイマは買って来たらしき食べ物を冷蔵庫にしまっていた。
「おかえり。」
「ご飯前に宿題やっときなさい。」
と言われたが、もう済ませたと答えると驚いた顔をされた。
「珍しいわね。」
「まあね。今週は頑張ってみようと思って。」
と答えておく。僕の一時転生は今週いっぱいの予定なので、来週にはもとのカンカに戻る。だからこれがずっと続くと思われると本物のカンカが困るだろう。
「まあ今週だけでも続くといいわね。」
でもそんなに期待はされてないみたいだから大丈夫そうだ。
「そうだね。」
「ご飯どうする。食べるならすぐ用意するけど。」
「んー、ダンダがそんなに遅くならないなら一緒でいいよ。」
ダンダというのはまだ会ったことがないけどカンカの父親だ。
「ただいま。」
ダンダが帰宅した。
「おかえり。」
といつものように迎えたが、カンカの身体を借りている僕としては実際に会うのはこれが初めて。でも初めて会った気がしないのは、カンカの記憶で知っているからだろう。
「すぐご飯でいい?」
とマイマが聞くと、
「ああ、今日の夕食は何かな。」
とダンダが返事をして、さら話し始めてたふたりをおいて、先に食事をする部屋に移動した。
テーブルには先ほどまで僕も手伝って料理が8割がた並んでいた。
朝と同じ場所の自分の定位置のイスに座って待っていると、両親がやってきた。
マイマは先ほど茹でたショートパスタみたいなのを皿に盛ってから、炊飯ジャーみたいな容器で作ったか保温しておいたビーフシチューみたいなソースを横によそっていた。
ダンダは冷蔵庫から出した自分用の飲み物をコップに注いでいる。ビールみたいに泡が出る色の飲料で、多分アルコール入り。僕とマイマ用にはフルーツのいい匂いがする、でも甘くないお茶みたいな飲み物が先に用意されている。
「おまたせ、さあ食べましょう。」
ライラがパスタの皿を並べて言った。
「ではいただきます。」
ダンダはビールらしき飲み物を飲み始める。
「いただきます。」
僕も食べ始める。パスタの皿以外に、買って来た温野菜のマリネみたいなのや、焼いたフルーツなどがテーブルに乗っている。
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