第20話 ヘソとタブー

「もうおしまい。くすぐったいよ~。」

僕が混乱して固まってる間に、ミーカ?らしき犬はパンを食べ終わってライラの手をなめている。それから皿に入った水を飲みだした。

水を飲み終わって満足したのか、ミーカ?は寝っころがってぐるっと反転した。

「あ。」

ミーカ?がミーカになった。そういうことか。

「どうしたのー。」

ライラが不思議そうに聞いてくる。

「あ、いや、よく食べるなとおもって。」

と誤魔化す。ミーカの反転を見て驚いたのがばれたら、転生もばれてしまうかもしれない。

「そうだ、よかったらこれもミーカに。」

と言って、少し残っていたパンをライラにわたす。

「ありがとー。ほらミーカ、おかわりだよ。」

ライラはパンをミーカの鼻先に近づける。


腹ばいでのんびりしていた様子のミーカはパンに気づくと、

その場で身体をひねって上下に反転し、

同時に足も逆にまわして立ち上がり、

さっきまで後頭部だった平たい顔の口を大きく開けて、

パンをひと口で食べた。


なるほど、そういうことか。通常は鼻が前にあって口は後頭部側にあるんだけど、何かを食べるときには逆向きになるのにともなって頭の前後も逆になり、口が前に来るというわけか。

ミーカの上下反転の変身を一度みただけで理解できたのは、カンカが前に見たことがあり、記憶に残っているからだ。ただ僕が反転したミーカを別の犬だと認識していたことで、反転に関する記憶が浮かび上がるのが阻害されていたらしい。それが実際にミーカの反転をみたことで、2種類のミーカが同一だとわかり、自分の記憶ではないけど忘れていたことを思い出したような感じで頭に浮かんできた。転生先のカンカが持っている記憶は自由に使えるのだけど、それをうまく使うためには記憶から検索するときのキーワードみたいな思い出すきっかけを知らないとうまくいかない。

こっちの世界のブタだと口がある方が出っ張っていて、鼻の穴が後頭部というかイルカみたいに背中あたりに付いているらしい。これも記憶から浮かび上がってきた。ブタは犬みたいに反転はしない、と思う多分。

「ミーカは食いしん坊だなー。」

ライラはにこにこしてミーカを見ていたので、僕がミーカの変身に注目してたことや考え込んでたのには気づかなかったみたいだ。


上下逆になれるのが不思議だと思って、自分でも四つんばいになってみる。まずは普通に、といっても大球人の場合は身体の前面がどっちなのかと言う問題もあるけど、膝だけは片方にしか曲がらないので、膝がある方を前としてうつぶせに。

これは特に問題は無い。地球人のときでもこれなら出来る。問題は逆向きだ。

一度地面に寝る形になって向きを変える。そこから手は簡単に逆になるし、足も膝は逆向きだけど股関節はだいたい前後のどちらにも同じくらいに曲がるようになってるので、地球人がブリッジをするよりはかなり簡単に逆向きの四つんばいになれた。

顔の向きも逆になるけど、人間つまり大球人の顔は前後対称なのであまり変化はない。しいて言えば左右のどちらに口と鼻がくるのかというのが逆になるわけだ。

そういえば、前に読んだSFでこんな感じで上下が逆になっている動物が出てくる話があった。宇宙で発見された珍しい動物なのだけど、それを見せられた金持ちが怒ってしまう。いわく自分よりもえらそうにふんぞり返っている動物など不愉快だ、と。

「ふはははは。」

何となくえらそうな感じで笑ってみた。


「何してんのー。」

さすがに近くで四つんばいになったりしてたら気づかれるか。

「あー、何と言うかミーカの真似かな。」

「変なのー。」

口ではそう言ってるが、ライラの顔は笑っている。

「これが普通の向きで。」

四つんばいになったまま話を続ける。

「これが何かを食べるとき。」

と言って逆向きになる。この向きだとヘソが上を向くことになる。膝だけでなくヘソがある側でも大球人の身体の前後を判定できるわけだ。

「この時はヘソが上を向くんだよね。」

「えっ。」

ライラがびっくりしたような顔になる。ヘソが通じなかったのかな。でもカンカの語彙にはあるし、大球人も胎生なのでヘソは付いている。

「ヘソは知ってるよね。赤ちゃんがお腹にいるときに栄養をお母さんからもらってたところ。ライラにもおヘソは付いてるでしょ。」

ライラのびっくりした顔が赤く変化する。

「なに言ってるのー。カンカのバカ、エッチー。」

どうも何かまずいことを言ってしまったらしい。ヘソがタブーなのか?


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