第19話 リバーシブルな犬
リードを持たせてもらって、先頭が犬で次が僕ことカンカ。その後ろをライラという並びで歩いている。犬というか正確にはグドッグだけどその見た目はだいたい犬で、4本の足と頭と尻尾があり、全身に毛が生えている。毛の色は背中側が濃い茶色で、お腹側は白っぽいツートンカラーだ。頭の形は鼻先が伸びていて目は両側についている。地球の犬だともう少し目が前の方に寄っている気がする。
犬の視界は人間と同じように前方に集中していて、そのせいなのか散歩してると時々後ろを振り返ってこちらを見る。グドッグの目はサイド寄りなので、振り向かないでもこちらが見えているようだ。これは地球だと馬に近いかも。たしか肉食動物は前方の獲物との距離感が重要なので目が前に並んでいて、草食動物は視界が広い方が敵を見つけやすいから目が両側についていることが多いのだったか。だとするとグドッグは肉食動物ではなく草食なのかも。
でも地球の進化のあれこれが、この大球世界にも適用できるかは不明。何しろこの世界の人間である僕の目は、前に一つ後ろに一つなのだから。
その後ろの目にうつるライラが話しかけてくる。
「こうやって散歩するの久しぶりだねー。」
その言葉が検索キーになったのか、カンカの記憶から前にしたらしい散歩のシーンがいくつか呼び起こされる。この犬の名前がミーカだというのも思い出すというか、記憶から浮かび上がってきた。
「ミーカもでっかくなったな。」
と、思い出した記憶を会話に活用する。他の記憶としてミーカとは別の犬も思い出した。ミーカとは逆に上が白くて下が濃い茶色で、顔はブルドックみたいに平らだったような気がする。だから昔はもう1匹いたのかもしれないけど記憶はあいまいだ。カンカの記憶だとこの犬もミーカとして認識されてる。同じ名前ということはないだろうから、カンカの記憶が適当なのか。あいまいな記憶で話してボロが出てもいけないので、今のミーカを裏返したような配色の犬のことは話題に出さないでおく。
「このあとどっちに行けばいいんだ?」
分かれ道にきたので聞いてみる。家から少し歩いた今は、遊歩道みたいな道になっている。公園や広場なんかをつないでいて、学校へもこの道を使って行くことができる。このあたり車道と歩道も明確に分離されているし、わりときちんと都市計画された街という印象だ。
「んー、きょうはこっちにいってみようかなー。」
ライラが指差した方にミーカが勝手に進もうとしたので、引っ張られるような感じでそちらに進む。人の言葉がわかるというよりは、身振りで判断したのかな。
しばらく歩くと開けた場所にきた。丸太で出来た遊具みたいなのもちょっとはあるが、公園と言うよりは空き地という印象の場所。ここが今回の散歩の目的地なのだろう。とりあえず座れそうな丸太があったので休憩することにした。
「よいしょっと。」
子供らしくないかもしれないけれど座るときには声が出てしまう。
「わたしもー。」
隣にライラが座る。ミーカは二人の間の地面に座っている。
カバンから飲み物が入ったボトルを出して、
「飲む?」
と聞いたが、
「あ、自分のもってるからー。」
とライラもカバンを探っている。ミーカ用の皿も出して水を入れてたが、ミーカは匂いをちょっとかいだだけで飲まないみたいだ。。
僕の持ってきたボトルの中身は水ではなく、色はついていたけど味らしいものはない。うすい麦茶みたいな飲み物だった。
「パンもあるけど食べる?」
と半分にわりつつ聞いた。形はドーナッツだけど生地はパンに近く、割った中にクリームみたいなのが入ってた。こっちの世界のクリームパンかな。
「ありがとー」
今度はライラも受け取って、さらに小さくちぎる。
「ミーカにもちょっとあげるね。」
ブワゥ。みたいな喜びの声らしきものを上げて、ミーカはパンにかじりついた。
え、ミーカ?
ライラの手からパンを食べているのはさっきまでのミーカではなく、カンカの記憶にある上が白で下が茶色のミーカとは逆の配色の平らな顔の犬だった。
「どういうこと?」
僕はすっかり混乱してしまった。
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登場人物
カンカ:僕が一時転生している男の子。頭を良くするという約束で、記憶など脳の機能を含めた身体を借用中。
ライラ:カンカの幼馴染の女の子で、片方の目だけに眼鏡をかけているメガネっ子。
ミーカ:ライラの家で飼っているグドッグという犬みたいな動物。
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