第18話 放課後と体操と散歩

異世界生活一日目の学校が終わり、家にもどった。今朝の転生後に数時間を過ごしただけの場所なので帰り道がわかるかなと思ったけど、身体を借りているカンカの記憶には当然ながらあるわけで、道に迷うこともなく帰宅できた。自宅の場所のような非言語の記憶は、ぼんやりと身体にまかせて動いた方がいいみたいだ。駅から自分の家までの道筋をうまく説明できない人でも、自分が家に帰ることが出来るのと同じようなことだろう。鍵を開けて家に入ると母親のマイマは出かけていた。仕事か買い物あたりだろうというのは、カンカの記憶から推察できた。

さっそく宿題にとりかかり終わらせる。大球世界の言語は音を表す文字と良く使われる単語を表す少し複雑な組み合わせ文字からなっていて、その組み合わせ文字の練習が課題。これは漢字の書き取りみたいなものだろう。カンカは毎日の宿題を面倒だと思っていたようで、これは自分の小学校時代を思い出しても共感できる。しかし大人になった今の自分がやるのは昔ほど大変ではなく、簡単に終わらせることができた。学校の授業と宿題をきちんとしておけば、カンカの頭を良くするという身体を借りるときの約束も果たすことができるだろう。


おやつとしてドーナッツみたいな穴が開いた形のパンが用意されていたが、それはあとで食べることにして家の前庭に出て体操をした。身体を意識的に動かすことで、地球人とは違う今の身体の状態を良く知るためだ。

ドッジボールの前にやったラジオ体操みたいなのをやってみる。これも言語的にではないが身体の動きとして覚えているので、それほど苦労せずにやることができた。それから自分の記憶にあるラジオ体操的な動きで、身体の動きを確認した。

今の身体はほぼ前後対称で、前後で同じことができる。たとえば前で腕組みをするように、後ろでも腕組みができる。そもそも前後というのが決まっていない、どちらにも歩くことができる身体なのだ。

屈伸もやってみたら前向きで地面に手が付くのと同じように、反対側でも手が付く。背骨とかどうなってるのだろうと思って自分の身体をさぐってみたが、皮膚から触れる部分に背骨らしきものは無かった。身体の中央部にあるのかも。

深呼吸で腕を回すのも、どちらを前にしてもできる。身体の横向きのひねりについては、地球人よりも可動範囲が狭いかも。これは後ろを振り向く必要がないからだろうか。前後に目があれば、横は最大でも90度向ければ用は足りるのだから。


「何してるのー。」


声のした方を見るとライラがいた。犬の散歩に行くらしい。細かいことを言うと犬ではなくグドッグという動物なのだけど、地球での犬のように大球世界で一般的に飼われているペットなので犬としておく。


「特に何もというか暇だから体操してただけ。散歩ならいっしょに行っていいかな?」


「いいけどー。」


同行の許可がでたので、急いで家にはいってパンと飲み物のボトルなんかをカバンに入れて用意する。


「おまたせ、じゃあいこう。」


こうして僕とライラはいっしょに散歩に出かけた。



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