第16話 昼休み

「タニタは昼休み何してる?」


後ろにいるタニタに聞いてみる。後ろといってもそっちにも目があるので、そっち側に意識を向けるとそっちが前みたいになる。カンカは記憶によるとたいていは外に出て遊んでるみたいだ。


「ん、特に何も。たまに図書室に行ったり。」


「図書室なんてあったっけ。」


カンカの記憶には図書室に行ったというのがみあたらない。勉強もあまり得意ではないらしいし、本もあまり読まないのだろう。しかし彼の身体を借りている異世界人の僕にとってはこちらの世界のことを知る手段として図書室を見ておきたいので、案内を頼んでみる。


「もしよかったら図書室の場所を教えて欲しい。」


「ん。」


これはイエスということなのかなと思ったけど、タニタは教室へ入っていった。

後をついていくと自分の机に行って、授業で使っていたスマホみたいな板を取り出した。


「それがいるの?」


と聞くと。


「そう。」


短く答えが返ってきた。僕もカバンから板を出した。図書室の本も教科書みたいにこれで呼び出すのかな。

タニタは板をポシェットみたいなケースに入れていた。僕はそんなものは持ってないので手に持っている。歩きスマホみたいな感じの持ち方をしてるけど、実はこのスマホみたいな板の表示機能は貧弱で、文字が何行か表示されるくらいだった。

図書室は校舎の端の方にあった。


「ここ。」



教科書は電子書籍だけど図書室には紙の本もあったので、図鑑みたいなのがないかを探した。

案内してくれたタニタは、机で何か電子書籍を呼び出して読んでいた。


海の生き物の本があったので、見てみる。魚は地球にいたのと似たような感じ。ヒラメみたいなのももいたし、タコやイカみたいな生き物も見つかった。変わったところとしては横ではなく前に進むカニというか胴が短いエビみたいな見た目のがいた。


「おおっ。」


びっくりして思わず声が出てしまったのは、人間みたいな生き物を見つけたから。


カルイルと呼ばれるその生き物は、ヒレと手足の中間のような四肢をもっている。水中を泳ぐことも出来るし、陸上に上がって移動することもできる。陸地に二本の足で立っているところはサルよりも人間に近くみえる。それは姿勢がまっすぐで、サルのように猫背ではないからだろう。

手では物をつかんだりすることもでき、実際に石などを使って貝などを割ったりもするらしい。

それだけならラッコみたいともいえるけど、陸上で石を投げて動物を捕まえたり、木の枝を使ったりまでもしているのは、人間に近い身体の構造をしてるからなのだろう。

頭も人間に似てる。この人間と言うのは当然ながらこっちの世界の大球人で、目が両側にあり、口と鼻はその90度横に配置されている。

人間と比べると口のある側が少しでっぱっているのが違うけど、これもチンパンジーの口が出っ張ってるのを連想させるくらい。

さらに水中では口がある側を前にして進むようなので、水の抵抗を抑える働きがあったりもするかも。そして地上では首を90度横に向けで、目が前後方向になる。


このカルイルがこの世界の人類である大球人の祖先にあたる、のかなあ。イルカやクジラなどの水棲哺乳類は、一度海から地上に出た動物が再び海に戻ってきたという進化の過程みたいだけど、このカルイルもそうなんだろうか。

そういえば地球の人類が他の動物に比べて体毛が薄いのは、一時的に海で生活することがあったからだという説を聞いたことがある。頭が出るくらいまでの浅い海辺で生活することでイルカのように体毛が薄くなり、水中なので二足歩行もやりやすかったので他のチンパンジーなどのように前かがみではなく直立した歩行を身につけることができたというような説だ。

その説が正しいかどうかは知らないのだけど、こっちの大球世界においては人は水棲の動物から進化した可能性は高いのではないだろうか。


そんなことを考えながら本を読んでいたら昼休みはあっという間に終わってしまった。




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