第12話 異世界の学校 2時間目 算数

二時間目は算数。テーブルの上に表示される問題を各自で解いていく演習形式だ。元の世界にも子供向けの通信教育でタブレット端末を使ったものがあったけど、それがもう少し洗練されたような感じがする。少数や分数の足し算があったかと思うと、体積を求める掛け算があったりと範囲はわりと広い。これは復習もかねているのか、それとも分数なら分数だけと個別に教えるのではなく総合的な教え方なんだろうか。


問題を解いているうちに感じたのだけど、今の身体の計算能力はそんなに高くない。これはカンカがあまり得意ではないからだろう。それでも一時転生にともなって僕の記憶や考え方がプラスされてるので、ベースのカンカだけの場合よりも少し良くはなっているみたいだ。たとえば九九の計算も僕の持ってきた知識で問題なく行えるが、隣のダンダを見ると体積を求める計算にすこし手間取っている。過去の記憶によれば、ダンダとカンカはだいたい同じくらいのレベルだったので、カンカもこんな感じなのだろう。

この九九の計算能力なども僕がいなくなったあとでもカンカが使えるようになれば、約束の頭を良くするというのも達成できるのだけど、九九の暗記は日本語と結びついているのでそのまま使うのは難しいのかも。


とりあえずの演習のノルマは達成したので、周囲に目をむける。追加の問題を呼び出すこともできるけど、あまりペースをあげるとこれまでのカンカとの差で目立ってしまう。


「なあ、これってどうするんだ。」


目があったダンダが尋ねてくる。問題のヒントを呼び出したり、それでもダメなら先生を呼び出すこともできるのだけど、それはあまりやりたくないのだろう。


「これは、最後のとこを2じゃなくて3で割るんだ。」


「2じゃなかったのか。」


「面積は2だけど、体積は3だよ。」


聞かれたのは四角錐の体積で、底面積×高さを3で割る必要がある。これは積分を使うと証明できるのだけど、小学校ではそういうものだと教わった記憶がある。3つで立方体になる四角錘の模型みたいなのも使ったんだったか。

こっちの世界の初等学校では、そういった模型だけでなく液体を使った説明もしてるみたいだ。円錐のカップですくった色水を、同じ底面積の円柱の容器にいれていって3回で同じになるといった映像も教科書に出てきた。



授業が終わると、少し長い休憩時間がある。地球の小学校もこのくらいに中休みがあった気がするので、何か似てる。適度な休憩が必要なのは姿は違っていても生命に共通なのかも。


「さっきは、サンキュー。」


とダンダ。


「あのくらい何でもないよ。」


「それにしても、急に算数が得意になったみたいだけど、何か秘密でもあんのか?」


「秘密というほどのことでもないけど。」


「なになに。」


「実は、今の僕はカンカではなく、カンカの身体を借りた宇宙人なんだ。」


と、カミングアウトしてみる。記憶によるとカンカが前に似たようなことを言ったこともあるみたいで、たぶん信じないだろうというのを見越してのことではあるけど、ばれたらばれたでいいかという気もあった。


「はは、あいかわらず変なやつだな。じゃあまた後で宇宙人の話をきかせろよ。」


これは信じてないなという反応をしたダンダは、トイレに行くのか教室を出て行った。

僕はとくにやることもなく机で教科書をぱらぱらと見ていた。


「宇宙人。」


と小さな声がした。タニタだ。


「信じる?」


「どんな姿の宇宙人なのかは気になる。」


タニタと話したという記憶は無いけど、以前にダンダと話してたのを聞いていたのかも。記憶によれば、前に話した宇宙人はタコ型というか丸い身体に細い足が沢山ついている蜘蛛みたいな姿をしていた。その前にも何回か宇宙人について話した記憶はあるけど、はっきりと何を話したかという記憶は浮かび上がってこない。身体の持ち主であるカンカが覚えてなければ記憶を検索しても出てこないけど、僕の検索方法の問題かもしれない。


「今度のは僕らと同じで、頭があって手足は2本ずつある。」


「人間そっくり。」


とタニタ。ここで言う人間とは勿論カンカやタニタ達のことだ。


「顔には目が2つ、耳も2つで鼻と口があるのも同じなんだけど、目が2つとも片側にまとまって付いている。鼻と口も目の下にある。」


「変なの。」


僕の言った地球人の姿を想像したのか、少し変な顔をしてひとつ目とぐるりと回す。


「目が2つ並んで付いていることで良いこともあるんだ。」


「後ろが見えない。」


「それはそうだけど、かわりに物までの距離がわかる。」


「距離?」


「そう。距離によって右側の目と左側の目で見る角度が変わるから、それでわかるんだ。」


「ああ、三角法、だっけ。」


タニタは三角法も知ってるのか。頭いいな。それともこっちの学校ではもう教えてたりするのか。


「僕らでも一応はできるよ。」


そういって手の指を一本立てて身体の横に伸ばす。それを前後の目で見れば、ぎりぎり立体視が体験できる。今の身体では周囲360度が見えるので片方の目の視野は180度以上はあり、わずかに重なっている部分では地球人と同じように2つの目で物を見ることができるのだ。

タニタも僕の真似をして体の横で指を立てている。目は指のある方を見るのに横目になっている。目をつぶったり開けたりを繰り返していたが、


「あ、わかった。どっちの目で見るかで指の位置が変わる。」


近くの指と遠い背景では、目によって見え方が変わるというのが体験できたみたいだ。


「これが目が同じ側に並んでついている宇宙人だと、もっとはっきりと見えるんだ。」


3時間目の理科の授業が始まるまでの間、僕は地球人のメリットをタニタに説明していた。




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