第三部 人間転生

第8話 三度目での人間型

三度目の転生で、ようやく人間型の生物への転生に成功した。人間型とは手が2本で足も2本、眼が二つに耳も二つ、息を吸う鼻と物を食べる口があるという感じ。あとは温血の酸素呼吸という条件も入れたかった。それはトカゲみたいな恐竜人とか酸素ではなく水素や塩素を呼吸する生物だと困るかと思ったから。実際にそういう生物が存在するかは知らない。でも宇宙空間に浮かぶ直径1万光年以上のガス球生物はいたから。

温血は周囲の気温に体温が左右されないという主観的な説明が可能なので条件にいれられたけど、酸素呼吸というのは無理だった。転生先の相手とテレパシー的なもので交信することは可能だけど、その段階だと客観的な説明が出来ないみたいだ。例えば右と左の説明をするのに目の前にいる相手ならこっちが右手とか言えば簡単だけど、言葉だけで説明するのは難しいとかそんな感じだ。


検索条件をセットして転生先の相手をサーチすると、ほどなく見つかった。今度はオートではなくマニュアルで事前の確認をすることにする。つまり僕が誰かの頭の中の声として登場するわけだ。


「僕の声が聞こえたら返事をして欲しい。」


「誰?」


「遠く離れた所から、君の頭の中に話しかけてる。」


「宇宙人だ。本当にいたんだ。」


宇宙人というよりは異世界人なのだろうけど、細かいことは気にしないで肯定しておく。


「まあそんなところだ。実は君にお願いがある。」


「いいよ。変わりに宇宙船に乗せてくれる?」


「うーん、宇宙船は無理かな。」


「じゃあ僕の頭を良くしてくれる。勉強しないでもテストでいい点がとれるように。」


どうやら今度の転生先の候補は学校に行ってる子供のようだ。頭をよくするという願いならちょうどいい。


「それならしばらく君の身体を貸して欲しい。その間に君の頭を良くしておこう。」


「わかった。約束だよ。」


これは嘘ではない。僕が身体を借りている間にやったことは転生が終わっても記憶などで残るので、ある程度の成績の向上は見込めると思う。

相手が受け入れたことで転生の受け入れ準備が出来たという合図が僕の頭の中に入ってくる。それにOKを出すと一時転生が行われる。

では転生開始。



転生先のベッドらしきものに横たわった状態で僕の意識が浮かび上がってくる。そのまま少し待つと身体感覚もしっかりしてきて基本記憶的なものへのアクセスも可能になる。この身体の持ち主の名前はカンカというらしい。

横たわったまま毛布みたいなのの下で手の平を握ったり開いたりしてみる。身体の動きにも問題はない。手を毛布から出して眺めると、本数が5本なのは同じだが、小指も親指みたいになっているのが違う。でもこのくらいなら小さな違いだ。三度目にしてようやくの人間型への転生に成功だ。

ベッドの上に起き上がって周囲を見回すと、ベッドの他に机やタンスなどが部屋にあるのがわかった。子供部屋かな。照明は薄暗かったのが、身体を起こして動いているとだんだん明るくなってきた。動きを感知するセンサーみたいなのがあるんだろう。技術も元の世界と同じかもっと進んでる感じだ。

ベッドから起き上がって床に立ってみる。少し違和感があるが、二本足で立つことには問題ない。気になったのは周囲の視界が異様に広いことだ。身体の前面180度どころか、ぐるっと360度全部を見ることができている。

基本記憶によるとタンスのドアを開けると鏡があるはずなので、少し歩いて移動する。歩行にも問題ないが膝の関節が人間とは逆に曲がるのに少し驚いた。人間型生命といっても、細かい部分で違うことがあるのか。

タンスのドアを開けて鏡を見る。頭の上には髪があって、その下には大きな目があった。一つだけ。



「えっ、どうしてだ。目は二つあるはずなのに。」


転生先を選ぶ条件に手足が2本づつあるのと同様に、目も2つあるというのを入れたので一つ目ということはないはずだ。顔を左右にふって横に付いて無いか確認したが、無い。ぐるっと後ろを向いてみると、あった。

顔の後ろ側、人間でいうと後頭部にも目が付いていた。

ああ、だから周囲がぐるっと見えていたのか。わかってみればあたりまえだ。

それから顔のあちこちを触ったり見たりして、今の身体の状態を何とか把握した。目が2つに耳が2つ、鼻と口が1個ずつというのは人間と同じだったけど、その位置関係はずいぶんと違っていたのだった。


「カンカ、起きてるなら着替えて顔を洗いなさい。」


部屋の天井付近から声がした。基本記憶によると、これはカンカの母親のマイマの声だ。各部屋にインターホンみたいなのが装備されてるんだろうか。

しかし着替えはいいとして、顔を洗うといっても前と後ろのどっちを洗ったらいいんだろうか。



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