第6話 宇宙生物との別れ
宇宙に浮かぶ巨大なガス生物への一時転生も終わりが近づいてきた。デフォルト滞在期間の1ヶ月が終わる。戻る1日前になると転生用マシンから転生終了のお知らせが届くのだ。どうやってお知らせを届けてるのかは不思議だけど、それをいったら転生先を見つけて一時的とはいえ意識を別の生物に移転させるのからして不思議なので考えてもしかたないんだろう。今回は使わなかったけど、どうしても転生先に耐えられなかった場合には期限前に終わらせる緊急停止装置みたいなのさえ機能としては持っている。
他の宇宙生物には一時転生のことは話していないので、とくにお別れとかも無しだ。身体を貸してくれた17には簡単なメッセージを残した。僕が来たときと同じように、意識下で動かしてるメールソフト的な他者との自動メッセージ機能みたいなのはストップすると思うので、再立ち上げが必要だとかといったことを記憶領域のなるべく見つけやすい部分に記録しておく。僕が身体を貸したときと同じだとすると、意識がない期間についても記憶は残るはずなので、今の僕が記憶しておけば元の持ち主が思い出すことができるはず。
一時転生を終了するメッセージを受け取ると、宇宙生物の中にいた僕の意識はもとの人間の身体に戻った。
冷蔵庫の中にプリンがあります。
意識が戻った僕は座った状態で、目の前のお膳にそんなことを書いた紙があった。何だこりゃと思ったけど、これは僕へのメッセージだ。意識が無い状態で僕の身体を動かしていた哲学的ゾンビ。彼が僕にあてて書いたのだろう。
冷蔵庫から出したプリンを出しながら、この一ヶ月間の活動を振り返った。人間の方の活動だ。意識が無い状態でも僕の身体を使って活動した結果は、脳に記憶として残る。ただ意識がないせいなのか、全てのことを同列に記憶しようとして、ほとんどはぼんやりとした記憶になる。プリンは昨日買った3個パックの残りで、賞味期限は今日なので割引きになっていたなんてどうでもいい記憶が残っていたりもする。
意識が無かった僕は、意識のある僕よりもまめだったようで買い物などの記録はきちんと残していた。いつもやろうと思うのだけど、どうにも面倒で止めてしまうことが多いのだけど、これは意識がないことによるメリットなのか止めずに続いたのだろう。
買ったものは食品やトイレットペーパーみたいな日用品で、いつも買っていたものだ。メニューは毎日違うと思ったら、1週間くらいで繰り返していて、これは意識が無いからなんだろうか。毎週金曜日がカレーだったりして、海上自衛隊かよと自分の事ながら心のなかで突っ込みをいれてしまう。
通帳の記帳もされていて光熱費などの引き落としや僕が下ろしたであろうものはいいとして、知らないところからの入金があった。心あたりは無かったけどしばらく考えて、どうも最初に身体を異世界の誰かに貸したときに何かあったらしいのをぼんやりとした記憶から思い出した。何かをやったか売ったりした代金、なのかなあ。僕の手元にある異世界転生マシーンを作れるくらいなのだから、別の何かを作ったりすることもできるのだろう。
使われてしまった貯金にはおよばないけど、何ヶ月かの生活費にはなりそうな額だ。
こちらでの時間の経過は、向こうで過ごしたのと同じ約1ヶ月のようだった。これは主観的な経過時間のことで、客観的には宇宙生物が1秒と感じる時間は1万年くらいなのでものすごい時間が経過してる。しかしこうして1ヵ月後に戻ってきてると言うことは、転生用の機械は空間だけでなく時間的にはなれた所とのコンタクトが可能だということか。だとすると転生先も時間に関係なく遠い過去から未来のどこかに行けるのかなあ。
初めて転生した先はちょっと変わった宇宙生物で、これはこれで面白い体験ではあったけど、今度はもっと普通の人間みたいな生き物がいいなあ。
次はいつ転生してみようかな。
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修正記録
転生よう → 転生用
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