第4話 宇宙生物の創世記

宇宙空間に浮かぶ球状のガス生物。彼らがどのようにして誕生したのか。その謎はわりとあっさりと判明した。聞いていたラジオで彼らの歴史というか誕生神話の物語をやっていたのだ。



最初にいたのは一人。後にワンとかプライムと呼ばれるようになる彼には名前が無かった。

自分というものを意識したときに、周囲には誰もいなかったけれど、最初からそうだったので誰もいないということへの違和感もなかった。

自分が白い球体であり、その周囲にある大気とふりそそぐ穏やかな光、それが感じることが出来るすべてだった。自分とそれ以外という区別はついた。動かすことが出来て感覚がおよぶ範囲にあるのが自分で、動かすことのできないものは自分以外。何かを考える自分と、何も考えないように感じられる自分以外。

見える範囲には大気と光以外に何もなかったけれど、もっと遠くには何かがあるのかも。そう思って、何かか誰かに呼びかけてみることにした

周囲からふりそそぐ光と同じようなものを自分の身体からも発生させる。何もしないでも、身体の状態にあわせてわずかな光は発生していた。それをうまく一つにまとめて強くすることで、遠くまで届くようにした。もし自分と同じような存在がいれば、周囲よりも明るく光る点を見つけることができるはず。

最初の内はいろんな向きに光を出すだけだったけれど、次第に出し方を変えてみた。光を出したり止めたりを繰り返して送る。その方が周囲の光と区別しやすくなるのだろうかと考えたためだ。

光を断続させているうちに、数というものを発見した。光を出して止める、そしてまた出す。最初の光と次の光は別のものだけれども、光としては同じ。同じものが沢山あるときに、それがどれだけあるのかというのが数。1個、2個、3個、…


数の存在に気が付いた後に、光の出し方も変えてみた。光を1回だして休み、次は2回、そして3回と数を増やしてみる。逆に数を減らしてみたりもした。

数を増やしたり減らしたりしているうちに、数同士を操作することもできるようになった。

数と数を足したりする操作だ。数の操作を使った光の出し方として、1、1、2、3、5、8、…といった出し方もしてみた。前の2回の数を足した数を次に出していくやり方。他に、1、2、3、5、7、11、13、…というのもやってみた。

しかしどれだけ長い間、いろんな方法で光をだしてみても返事はなかった。

自分の他には誰もいないのか。誰か。



そんな感じで話は始まった。最初に誰か一人がいるというのは聖書のアダムとイブに似ているけれど、神様は出てこない。目覚めたアダムならぬワンは、光に満ちた楽園でただ一人だったわけだ。



誰もいないのであれば、作ればいい。自分がおそらくは偶然に誕生したのであれば、それと同じ事を再現すれば自分と同じように生きて考える誰かも誕生するのではないか。光のパルスの一つ一つは違うのだけれども、パルスが何個とまとめて数えることができるような、自分と同じようにまとめて数えることが出来る別の誰か。

それまでも周囲の大気を自分の身体に取り入れ、自分の一部にすることは行っていたので、外部に自分と同じようなまとまった形の身体を作ることはできるのではないか。そう考えて、ワンは作業をはじめた。自分以外の誰かを求めて。

周囲の大気と自分自身の身体の一部も使って、何度も失敗しながら最後には自分と同じように見える球体をつくりあげることに成功した。しかし、それは生きていない球。呼びかけても答えない物言わぬ球でしかなかった。いったいどうすれば。


どうすればいいのかわからないまだ名も無き彼は、それでも見た目は自分とよく似た白い球に語りかける。くりかえし何度も、何度も。

周囲へ呼びかけていたのよりも長い間、すぐ近くにある白い球に語りかけているうちに、ある変化が起きた。彼が語りかけるための光を作り出すのにやっていたのと同じような状態が隣の球にも生じてきた。身体の変化により作り出した光が、別の身体に入って逆の変化をもたらしたのだ。

変化した白い球は彼からの呼びかけに反応を示した。ただ1回の光、それが始めての返事。

初めて得た反応に驚き、喜んだ彼は、それでも落ち着いてそっと2回の光を送った。

それにより新しい球は2と呼ばれるようになり、最初の彼は1となった。



聖書だと神がアダムの肋骨からイブを作り出したけど、この宇宙でも似たような感じで1の身体と周囲のガスから2が作られたみたいだ。しかし2の名前の方が先で、1が後というのは面白い。世界に自分だけしかいなければ識別するための名前は必要ないからなんだろうか。



1と2は最初は簡単に、それからだんだんと複雑な内容も語り合って、2は1と同じくらい数や物事を理解して反応できるようになった。そして1と2は新たな仲間をつくることにした。


1と2によって3が産まれた。

2と3によって5が産まれた。

2と5によって7が産まれた。

1と3と7によって11が産まれた。

2と11によって13が産まれた。



この後も延々と続いていくのだけど退屈なので省略。聖書でも○○と○○の子○○みたいな描写が続く部分があるけど、そういうのと似ている。姿かたちは全く違うのに、こういうのが似てるのは面白い。しかし名前が数字なのはいいとして、どうして素数なんだろう。それから2個体ではなく3個体での繁殖方法もわりと早い段階に出てきてる。

その後もどんどん仲間を増やしていくのだけど、周囲の大気つまり星間ガスを使っているので材料が足りなくなり、移動もするようになる。その後、いくつかのグループに分かれて、それぞれで仲間をふやしていくことになる。別のグループであれば同じ名前たとえば3と3がいてもいいみたいだけど、グループ内では同じにならないようにしているようだ。

3や5や7なんかはよくある名前で、今の僕の所属してるグループにもいるけど、2は珍しいようだ。そして1という名は新たに名づけられることは無いようだ。なので1という名前の個体がいれば、それは最初の彼なのだろうけど、連絡可能な範囲にはいないようだ。もっと遠くにいるのか、それとも寿命が無いように思える宇宙生物にも寿命や何らかの原因による死があるのだろうか。



宇宙生命にも死はある。多分。



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